1:South Agape ─サウスアガペー─
1:0 "――――"
途絶えていた意識が戻り、彼女は我に返った。真っ白だった視界に、暗闇に立ち尽くす杖を持った男の姿が映り込む。
「そうか。私の名前は、アレクシア・バートリだった。孤児院で食屍鬼と吸血鬼と戦って……」
「思い出したか」
「私はリンカーネーションとして、何度も生まれ変わってきたのか?」
「その通りだ」
肩に届くほどの長さを持つ彼女の青髪。杖を持った男は、彼女の毛先を指でなぞる。彼女の青髪は僅かに血で濡れているようだった。
「お前は選ばれし転生者だ。それは既に決まっていること。お前はそこらの"異世界転生者"とは違う器を持っている」
「……異世界転生」
周囲に映り込むのは鉄の塊が道を走る姿や、頂上が見えないほどの高さを持つ長方形の建設物。彼女は目にしたことのない光景に、目を瞑りながら頭を軽く叩いた。
「覚えていないか。お前の実力は"入学試験"で他の者より頭一つ抜けていたことを」
「……入学試験」
先ほどから生じていた頭痛は収まらない。脳内に何かが引っ掛かるような感覚を覚えるほど、頭痛はより一層増していくばかりだった。
「お前が入学を望んだ先は"アカデミー"だ」
「……アカデミー」
「本試験を受けるための"仮試験"を受けただろう。これすらも覚えていないのか?」
「仮試験――ぐぅッ?!」
彼女は頭の痛みに耐えられず、額を地面に押し付ける。脳を締め付けられるような鈍痛に、左目の眼球を抉り出されそうな激痛だ。
「しかしまぁ、お前には"石の上にも三年"という言葉は似合わない。すぐ行動に移したな」
「……三年」
周囲の街並みは時代に沿ったものへと変わる。酒場で飲んだくれる男性、雑貨店で客と話をしている女性、花屋で水やりをしている──自分自身。
「"本試験"ではらしくないことをしたな」
「……本試験」
まるで聞き覚えのない話だったが、その言葉を耳にした瞬間、彼女の脳内に様々な光景が押し寄せ、視界が大きく揺らいだ。
「取り戻した記憶はまだまだ浅い。現時点では……お前自身がここへ辿り着いた"答え"には、到底辿り着けないことだろう」
杖を持った男性は辺りを軽く見回すと、額を打ち付ける彼女への哀れみを込めた視線を送った。
「私は、私はっ――」
再び真っ白に染まる彼女の視界。映り込むのはパンを焦がしてしまった女性の姿と、暗闇に包まれた通路の上で転がる人間の死体。
「よく思い出せ。お前がアカデミーを入学するまでに辿った道を」
そして彼女の意識は、ついにブツンと途絶えてしまった。
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