第24話誰やねん!
今日の開店から15時までの監視カメラの録画を倍速で眺める。
お客様の御意見を書く場所は正面玄関から入った横のスペースに小さな台と投函箱が置いてある。
その横に店側からの謝罪文が載ったものが掲示板に貼ってある。
モールの事務所側も冷やかしや明らかに人目に晒せない意見は此処には貼らない。特定の店員を名指し等は修正テープで消してあったりと考慮も一応してある。
開店直後から沢山のお客様の来店の姿はチラチラカメラに映り込む。
が、御意見所にはまだ誰も来ていない。
「何時くらいに来てるのかねぇ。」
腕組みして旭さんがそう言うと1人の女性が見えたので倍速モードを通常モードに切り替えてゆっくり見る。
中年女性かなあ。
全く知らない人。何やら不機嫌そうに記入して投函していた。
その後も女性、女性・・・。
可能性は須佐さんかアキラさんの元彼だと思っていた俺もアキラさんも首を捻る。
「全然、知らない人ばかりだね。」
アキラさんも大きく頷いた。
「何か恨み買ったか?」
俺達の身に覚え無しな顔を見て旭さんは肩を竦めた。
その後・・・女性、女性と男性の2人組。女子中学生くらいの数人。女子高生くらい数人。
学生は本気だか冷やかしだろうか。
「今の所。御意見を2枚投函した奴は居ない。だから違う。」
旭さんは御意見を書くお客様の顔と手元を真剣に見ている。
流石、元プロだ。
13時05分。
3人の女性が正面玄関から入って来て直ぐに御意見所に来たのが見えた。
店舗内からではなく直接って言うのも怪しい。
「ん?」
旭さんが不振そうに顔と手元を見ている。
「1枚目投函した。そして2枚目を書いてる。」
確かに。
3人のうちの1人の女性がニヤついた顔で書いているのが解った。
残りの2人は横で談笑している。
見た事無い女性達。綺麗系?と言うのかケバい系と言うのか?ギャルっぽい。
苦手ジャンルな3人組だ。
「2枚目入れた。」
うん。2枚投函は初だ。
「ん?ちょっともう1回見せて!」
旭さんが防犯のおじさんに言うと
「はいはい。」
と優しく宥める様に旭さんの言う事を聞くおじさん。
旭さん・・強いなあ。
録画は書き終わった直後の3人の態度を見ている様だった。
「ハッキリとは解らなかったけれど。この書いた女が2人の女に何とかかんとか達成って言ってるんだよね。読唇術はイマイチ得意じゃないから自信は無い!」
「読めるんですか!?」
アキラさんがめちゃくちゃ驚いた声で聞いた。
「ほんの少しね。でも、ほら。書いてる時の顔とか?書き終わりの顔とか?」
「そうですね。でも、俺は全く知らない人です。ジュンは?」
「いや。俺も知らない人。」
誰やねん!と言いたくなる。
「まあ、15時まで見てみよう。」
そして、それからもクレームって何処の店にもあるんだなあ。
15時迄に後2人来たけれど。2枚投函したのはあのケバい系女達だけだった。
「良し!城山さーん。昨日の分も見たいなー?」
旭さんは似合わない猫なで声で防犯のおじさんに訴える。
「えー。勘弁してよ。本当にバレたら面倒なんだよ。」
ブツブツ言いながらも従うおじさん。
主従関係?そんな感じ。
すると背後に居た警備員のおじさんが
「旭さんは元警部補。防犯の城山さんは巡査部長で引退。やっぱり階級に弱いんだよね。」
とボソッと教えてくれた。納得。
昨日の録画も再生。
「あー!!」
「こいつら!」
俺もアキラさんも思わず叫んだ。
3人組のケバい系の女達。服装は勿論、違うけれど絶対そう!
「ちょっと写真撮るね。」
旭さんは冷静にスマホでテレビ画面を出来るだけ寄って撮影してくれた。
「本当に事件ならプリントアウトやアップ画像に出来るんだけど。しゃーなし!」
写真の顔は小さいけれど雰囲気は解る3人組。
きっと会っても解る気がする。
てか、誰や?俺にこんな知り合い居ないし。アキラさん?疑いたくないけど・・・。
警備室の皆さんにお礼を言って警備室を出た。
「良し!明日、張り込みしようぜ。」
旭さんはやる気満々の顔をした。
「は?張り込みですか?」
アキラさんはまじか?と言う顔。
「やるんですね?」
やらないと言ってもこの人は言う事聞かなさそうだ。
「そりゃあ。相手の目的知らないと!面倒だろ?毎日毎日クレーム来てさあ。知らない人物みたいだけど恨まれてるのかもよ?ストーカーだったりして?」
サラッと怖い事を言う。
「本当に身に覚え無い!」
「俺も無い!」
お互い女性に恨まれる記憶は無い筈。
結局、押し切られる形で明日のシフトは16時から閉店までと言う半端なシフトに変更した。
アキラさんも何とかスケジュール調整出来たらしい。
翌朝。
社員食堂の喫煙所で開店前に待ち合わせした。
「ねえ。本当にアキラさんの知り合いじゃないよね?」
散々、聞いたけど。
「俺は女に興味はずっと無いから。」
まだ俺達だけしか居ない喫煙所でアキラさんは苦笑してそう言った。
「うん。俺も無い。」
俺はアキラさんが全て初めての人だし。
アキラさんは違うけどー。
でも、女性との経験は無いか。
こりゃ店への恨みなのかなあ。夜中とか考えたけど。
もう、それしか考えられない。
だけど。昨日の御意見も俺達への悪口だった・・・。
知らない人物に恨まれるか。昨日の旭さんの言葉が事実なら確かに問い詰めるのが手っ取り早いだろう。
「おはよーっす!!早いねー!」
喫煙所の扉を元気に開けたのは旭さんだ。
「私も吸う。開店までまだ大丈夫?よね。」
彼女も喫煙者だったのか。
タバコ似合うなあ。
「問題は張り込みは隠れる場所なんだよなあ。」
旭さんはタバコを吸いながら考え中。
「隠れる場所って何処かの店舗内になりますよね?」
「確かに。食品売り場からは少し遠いし。」
正面玄関に居る訳にもいかないしなあ。
「私、警備室で見張るよ。それで電話するから走って向かってよ。書くのに少しは時間かかるから1階に居れば問題無いよ。」
旭さんがナイスアイデアと俺達の顔を見た。
「来るまでウインドーショッピングデートでもしてなよ。」
クスクスと笑われて。
え?!やっぱり気付かれてるの?!と思ったけど。
アキラさんも笑ってるし肯定はせずに俺も笑って誤魔化した。
モール開店。
バレない様に今日はお互い私服。
制服は後で社員ロッカーで着替える事にした。
「何かちょっと楽しい。」
「うん。犯人捜しなのに。」
スマホは直ぐに出れる様に手に持って色んな店舗を見て回る。
こう言うデートは初めてだし。
何より一緒に居られるのが楽しい。
洋服屋に靴屋。
「これジュンに似合いそう。」
「あー。こういうの好き。」
結構、ウロウロしたけれどまだ電話は鳴らない。
「少し座ろうか。」
「だいたいの店舗見たね。」
2階や3階もとなるとまだウロウロ出来るけれど1階はそろそろネタ切れだ。
2人で休憩用の椅子に座り、話をして待つ事にした。これもまた。まったり幸せ。
13時過ぎた頃だった。
ブーブー。
アキラさんのスマホのバイブ音が鳴った。
「はい!西山です。直ぐに行きます!」
「来た?!」
アキラさんは立ち上がり頷いた。
「走ろう!」
お客様御意見所まで俺達は走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます