第10話隣にジュンが居るという幸せ

頭に映画が入って来ないぞー!!


映画、面白いんだけど。それよりも何よりも。

隣に好きな人が居るんだよ。ムラムラしない方がおかしいだろ!


「アキラさんって映画とか見に行く派?借りる派?」

「あー。最近は映画館行ってないな。この仕事してるとどうしても1人で行くしかないからね。」

うん。土日祝は仕事してるし。

「同僚とかと行かないの?」

「無理に合わせないとスケジュール合わないよ。SSSバーガーの社員同士ってあんまり?遊びに行くこと無いね。」


実際、たまたま休みが合うか無理に合わせないと飲みに行くのも無理だったりする。

直前は先ずスケジュール変更は出来ないし計画立てるなら1か月前くらいになる。

他の会社とそう言う所が全然違う。

仲良くなるのは自分の店舗のパートやアルバイトの人だなあ。


「今度、休み合わせてどっか行こう?」

ジュンが少し小声でそう言った。

「うん。行く。」


押し倒したくなる衝動が少しおさまった。

デートか。良いなあ。


ちゃんと映画見よう。

ついジュンをチラ見したくなる。


「おっ!こいつ強いな!」

映画はクライマックスに近付いていてジュンが食い入る様に画面を見詰めて言った。


「本当だ。悪どい技使うなあー。」

俺も白熱したバトルに映画に夢中になっていった。


何か予告してたのテレビCMで見て結局、映画館に行く事はなかった映画だったけど今日見られて良かった。

面白い。

最近はレンタルもしなくなってたし。


寝て起きて仕事。休みはゴロゴロ。


そんな日常に恋が加わった。


「主人公強いねー。勝つって解ってるけど面白い。」

「うんうん。言えてる。」


そう話ながら見ていると。ふとした瞬間に置いた手がジュンに触れた。


このまま触れていたい・・・。

「あっ。ごめん。」

不自然にならない様にそっと手をどける。

「いや。気にしないのに。」

・・・。気にしないか。どう言う事?

手を繋ぎたいとかそんな都合良い脳内の妄想を振り払いながら映画は終了した。


「あー!面白かった!アキラさんと見られて良かったよ。」

「うん。俺も。これ当時は面白そうだなあと思ってたんだよね。見に行かなかったけど。」

ジュンも俺もそう。と笑って言った。


さて・・・。どうしよう。

もう帰るべきなのかな。


普通なら車取りに来ただけだし。


「えーと。そろそろ帰ろうかな。」

名残惜しいけど。


ジュンは俺の顔を無言で見詰めた。

「ど・・・どうした?」


何か言いたそうで。


あっ。昨日の話の続きかな。そう思えた。


「アキラさんって。普段は温厚だけどキレる時はキレるよね?」

突然そう言われて。うん?とそんな事あったか?と思い出す。


「ほら。ゲーム内でさ。不正してる奴いたやん?その癖、うちのギルドの悪口を皆が見る掲示板に書き込みした奴。」

「あー。あったね。」

うんうん。当時のゲームにハマりまくってた時か。


「あの時、めちゃくちゃ掲示板に言い返してバトルしてた。」

「あはは。そう。腹立ったしさあ。若かったしね。」

そんな事もあったなあ。

めちゃくちゃ腹立って公的掲示板で悪口合戦した。


「懐かしいね。」

ジュンがしみじみとそう言った。

「うん。楽しかった。」

今はもう流行ってもいないゲームだけど。当時は夢中だった。


「で、話は当時のそのゲームに戻るけど。俺が辞めた訳。話したら多分、アキラさんキレる。」

ジュンは俺の隣に座ったまま項垂れて深い溜息をついた。


そうか。キレる様な話なんだ。


「ジュン・・・。ジュンはそれでも話したいと思っているんでしょ?」

俺でもきっとそう思う。


「うん。アキラさんと会えてからずっと考えてた。無かった事にするか話すか。」

「まだ迷ってる?」

ジュンは軽く頷いた。


「お願いがあるんだけど。」

そう言ってジュンは顔を近付けて言った。

近いって!


「俺の事、嫌いにならないで!後、キレないで!」

切羽詰まった顔。

嫌いになったりする訳ないのに。


「大丈夫。話して。」


暫くジュンは暗い画面のテレビを見詰めていた。


「ヒロさんって覚えてる?」

「ああ。覚えているよ。ジュンのリア友だよね?」

ヒロさんか・・友達だったけどジュンがゲーム辞めてから友達切られたよなあ。


「ヒロさんって俺の営業先のガールズバーの店長さんだったんだよね。」

「ガールズバー?!まじか。」

当時はカフェ経営って聞いてたけど。ジュンはそのカフェの常連って言って無かったか?


まさかそんな繋がりだったのか。


「それで?辞めた事にヒロさんが絡んでいるの?」

「うん。最終的にはそう。」


なるほど。客はヒロさんの方で立場的にジュンは弱かったのか。


「はぁー。」

大きな溜息をついてジュンは深く深呼吸した。


そして決意した様に俺の顔を見た。

「俺がヒロさんに強引にゲームに勧誘されて初めてから直ぐの事なんだけど。」


「・・・。アキラさんの元彼さんからゲーム内メールが来たんだ。」

ジュンの顔はまじだった。


・・・は?

元彼?


ちょっと待て。ゲイバレしている?


俺の顔は固まったまま。脳内も追い付かず。


ジュンはそんな俺の顔を見て辛そうな顔で話を始めた。

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