第58話 これが異世界の飯屋か!?
朝がやって来た……。
朝日が眩しい……。
俺はギルマスから貰った、センスの良い普段着を着て準備万端だ。
しかし、ここで問題が発生した。
────デートの約束だけして、待ち合わせ場所を聞いてないという問題だ。
俺はどうしたら────
トンットンッ
────ノックが聞こえてくる。
「迎えに来ましたよ?」
カミラさんは迎えに来てくれたようだ。
どうしようか迷っていたので助かった。
「──迎えに来てもらってすいません」
「いいんですよ? 待ちきれなくて来てしまったんですから」
そう言ってくれるカミラさんの笑顔は凄く可愛い。
「────笑顔がよく似合いますね」
俺は自然とそんな言葉が口から出る。
「──ありがとうございます……」
カミラさんはその場で頬を赤く染め、なんとか言葉を発する。
何この可愛い子……。
「さぁ、行きましょうか?」
俺は外に出るよう促す。
「────はいっ」
ん?
腕に柔らかい感覚が…………これって────
────お胸様?
これいいの??
俺はカミラさんに視線を移す。
頬を染めながら俺の腕に両手を絡めて抱き付いていた。
最高ですっ!
デートって最高ですっ!
こんなの待ってましたっ!
大将が居たらきっと──
「この童貞がぁぁっ!」
──と言われていたに違いない。
だけど、俺はあえて心の中で何度でも言うっ!
最高だとっ!!!
俺は幸福感で胸がいっぱいになり、恥ずかしい気持ちで頬を人差し指でかきながら宿屋を出る。
途中で宿屋に泊まっている、男共から嫉妬の視線を浴びせられたりしたけど────今の俺の精神は強靭になっている。
何にも気にならないなっ!
浮かれた気持ちで道を歩いているとカミラさんから話しかけられる。
「どうしましょうか? 実は何も考えてなくて……」
俺は意識を現実に戻される。
そうだ! この後どうするか……とりあえず────主導権を握る為に、いくつか提案するか。
服屋? アクセサリー屋? 公園? 飲食店?
俺が思い浮かぶのはこれぐらいだ。というか住んで日が浅いから何の店があるのか全然わからん……。
しかし、今の時間は朝早くて店が空いていない……選択肢は公園か飲食店だな。
「朝ご飯でも食べましょうか? まだ何も食べてなくてお腹ペコペコなんですよ」
うん、これがベストアンサーだっ!
大将のアドバイスでは、理由付けが大事だと言っていた。これであればなんとか────
「私も食べてなかったんです。コウキ君って気遣いが出来るんですね?」
軽くディスられたように聞こえた俺はひねくれているのだろうか? これは褒めて貰ったと解釈していいよね!?
「じゃあ──あそこ空いてるみたいなんで行きましょうか?」
丁度、目の前にご飯屋さんの看板が見えたので行くように促した。
「えっ!? あそこですか??」
「何か問題でもあるんですか??」
「──いえ、い、行きましょうか……」
あの店に何かあるんだろうか?
いつも笑顔のカミラさんが顔色を変えるぐらいのお店だ……。
まさか────ぼったくりの店なのか!?
────ふっ、俺は強くなった────どんなお店であっても、どんな奴が相手であっても俺が守ろうっ!
俺は拳を握りしめ────店に入る。
「らっしゃい……」
なんとも無愛想な店主だな……。
俺はカミラさんを見る……。
──凄い顔色が悪いぞ?
「カミラさん、大丈夫ですか?」
「コウキ君がいてくれるなら──頑張れますっ!」
そう答えるカミラさんの顔は────決死の覚悟で挑むような意気込みを感じた。
……正直……俺が不安になってきた……。
しかし──この匂い……この香ばしさは間違いなく日本で嫌いな人はあまりいないであろうアレだ。
俺は期待感を抱いている。
「店主のお勧めを2つ……」
俺はこの匂いのする料理────たぶんお勧めだろうと思い、店主に注文する。
「えっ!? 私も!? 私はお腹いっぱいなので結構ですっ!」
ん? お腹減ってるんじゃないの??
「一つか……あいよ……」
店主は残念そうな顔で答える。
しかし────客が全くいないな……時間が早いからかな?
それと、カミラさんの反応も気になるな……もしかしてアレはこの世界に浸透していないんだろうか? 確かに見た目はアレだが、食べれば間違いなく美味いはずなんだが……。
それに────大将のアドバイス通りに全く出来ていない……俺とカミラさんは無言だ。
話しかけようにも……無表情でブツブツと何か言いながら俺の服を掴んでいる。目が虚だ……。
いったい何にこんな怯えているんだ?
「へい、お待ち」
目の前に出されたのは────
────日本の子供が大好きカレーだっ!
「店主、この料理名は!?」
「ガリーだ……」
店主はサムズアップする。さっきまでの無愛想な顔とは裏腹にとても良い笑顔だ! 俺が食べるのを待っている。
俺も異世界でカレーが食べられるとは思っていなかったのでテンションは上げ上げだ!
それに対して──カミラさんは絶望の表情を浮かべている。
名前が違うが、これはカレーだ。
匂いは間違いなくスパイスが効いているし、見た目も黄色い。
カミラさんはきっと見た目に驚いているだけだろう。
俺は久しぶりのカレーを待ちきれずに勢い良く口に運ぶ。
…………うん、スパイスが少しキツいが────
「がはっ……」
────ぐっ……こ、これは…………。
クソ不味い……吐きそうだ……一瞬吐き出しそうになったが──カミラさんの前……俺は根性で飲み込む。
目の前が霞んで見えるぜ……。
心の中で食レポをしようと思う。
まず──口に運ぶまではスパイスの良い匂いで食欲をそそられる。
一口食べると──そこには一気に鼻に抜けるような生臭さが突き抜ける。何日も放置した生ゴミの臭いだ……。
そして一度噛めば──何日も履いた靴下のような臭い。
二度噛めば──牛乳の腐ったような臭い。
噛めば噛む程────人の嫌悪する嗅覚を刺激するような臭いが俺を襲う。
肝心の味は────もはや、食べ物ではないだろう。
これを食べ物と言えば……料理をする人に冒涜だ。
どんな空腹な犬や猫も絶対に近付かない────そう確信出来る。
これは──まさしく────
人類に対する挑戦だっ! どれだけ不味い物を作れるか────そういう物だと俺は思った!
「店主……やるじゃねぇか……」
「ふっ……」
店主は厨房に戻って行く。俺の反応に満足したようだ。
「コウキ君……顔色が悪いよ? 外に出よう?」
「カミラさん……これは──あの店主からの挑戦状だ……俺は食い切るよ……」
カミラさんの優しさが痛い程伝わる……そりゃあ、この店に行くってなったら顔色変えるわな……。
俺は、ガリーという名の食べ物? をなんとか食べ切り────店を後にした。
大将……主導権握ったら酷い目に合ったよ……。
お胸様の天国から一気に地獄に突き落とされたが、まだ────デートは序盤だ……。
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