第59話 避けると大惨事ですよ?

「コウキ君……」


「カミラさん……ありがとうございます……大分……マシになりました……」


 俺は現在、公園のベンチみたいな所で横になっている。膝枕付きだ……こんな状態でなければ両手を上げて喜んだのだが──


 店を出た後、俺は強烈な吐き気に襲われ────休む事になったのだ。

 回復魔法は全く効果が無かった。だって俺、傷の回復魔法しか知らないからな!


 はぁ……格好悪くて情けないな……。


 小一時間程、横になったお陰で座れるぐらいには回復した俺はカミラさんに礼を告げる。


「あの店ね……この国で1番美味しくない料理を出すお店なの……」


 衝撃的な事実を聞かされる。


 街1番ではなく──国1番だと!?


 確かに────あの不味さには驚いたが……というか、よくあれで経営が成り立つな!


「……よく潰れないですね……」


「昔──あの料理を文献で発見したらしくて……転々と場所を移り変わっては道楽でやってるらしいの……店主はお金に困ってないらしいから……」


 ……なるほど……店主にはいつか本物のカレーに辿り着いてほしい────無理か……あの不味さが少しの改良でなんとかなるわけがないな。


「初っ端からこんな事になってすいません。デートを続けましょう──うっ……」


 デートを続ける為に立ち上がるが────再度吐き気に襲われて蹲る。


「今日は無理ですよ。部屋に戻って休みましょう?」


 ダメだ……こんな所で終われない……こんな情けない姿を見せたままなんて……。



「そこの子、可愛いねぇ〜俺と遊ぼう!」


 蹲っている間にカミラさんは俺の知らない優男が話しかけられていた。


「デート中なので、遠慮しておきます」


 断るカミラさんの態度から知り合いではなさそうだな。


「そこで這いつくばってる奴なんか放っておけばいいじゃん。そんで僕と一緒に楽しもうぜ? ほら行こうぜ?」


 男はカミラの腕を掴み、連れて行こうとする。


「その手を離しなさい。私は興味ないわ。コウキ君の方が良い男よ」


 きっと顔面蒼白だろうし────動けば間違いなく吐く自信はあるが……俺はカミラのピンチに顔を上げて立ち上がる。


「……すみませんが──デート中ですので、ご遠慮下さい」


 俺はなんとか言葉を発する。


「はっ、お前みたいな奴にこの子は似合わねぇよっ! お前は消えろっ!」


「────カミラさんは断ってますよね?」


 俺は闘気を纏い、男の腕を掴む。


「コウキ君……」


 カミラさんは上目遣いで俺を見つめてくる。


「カミラさん……俺が守りますよ」


「──守れたらいいね? ほらっ、よそ見しない」


「うっ────」


 カミラさんを見ていた俺は腹を殴られ草むらに飛ばされ嘔吐する。


「さぁ、邪魔者は消えた────夜は楽しませて貰うよ」


「コウキ君っ! 離してっ!」


 ……カミラさんの声が聞こえる────


 俺はまだ嘔吐が止まらない。くそっ、あんなの食うんじゃなかった……。



「うるせぇっ!」


「きゃ……」


 俺はカミラさんの悲鳴が聞こえ、直ぐに起き上がる。


 カミラさんは男に担がれる所だった。


「────離せっ!」


 俺は全力で近付き──カミラさんを隙を見て取り戻す。


 カミラさんはグッタリしている。


 許さねぇ……。


「カミラさん……待ってて下さいね? 直ぐ────終わらせます」


「コウキ……君……」


 俺はカミラを横にさせ、男に向き合う。


「そこの男は……お前──五体満足で帰れると思うなよ?」


 俺は静かに怒る────


 何でこんなに怒っているのか俺にもわからない。


 だが──女の子を殴る奴なんて許さないっ!


「ちっ、君──その年でAランクか? 最低でもBランクはあるな……割りにあわないね……」


 最後らへんは何を言っているからわからなかったが、俺は────


「Fランクだが?」


「はぁ? お前がか?」


 こいつは俺の闘気を見て言っている事から────強者で間違いない。


「御託はどうでもいい……かかって────来いっ!」


 俺は雷光を発動する。


「しかも──魔技まで使えるのかよ……さすがあの人の弟子なだけあるな……」


 魔技?


 今はそんな事はどうでもいい────


「俺から行くぞ────」


 俺は一瞬で間合いを詰めて殴り掛かる。


「だが──まだこの程度なら────水技」


 男は水を纏った手で俺の拳を掴み取る。


「────痺れろっ」


 俺は雷光の出力を上げる。水は感電するはず────


「────甘い──」


 全く痺れた気配を感じさせない男はそのまま、俺の顔面に殴りかかる。


「ダリルさんの攻撃に比べたら────カスだっ!」


「──ちっ……予想以上か……」


 俺は額に闘気を集中させて拳を受ける。


 男はバックステップをし離れる──拳は血塗れだ。


 その隙に────右拳を引き下げて構える。


 手加減して勝てる相手じゃないっ!


「────喰らえ──」


 俺は拳に雷光を纏わせた状態で闘気を高め、遠当ての要領で放出する。


 轟音と共に放たれるのは──直径30cm程の球体の雷撃────


「────げっ、街中でマジかよ……」


 その言葉に俺はハッとする。


 確かに────あれ避けられたら大惨事じゃね!?


「避けたら──貴方のせいで街が凄い事になりますね?」


 俺は無邪気に笑いながらそう言い、責任を丸投げする事にした。


 台詞だけ聞くと明らかに俺が悪者だが────この状況だし、仕方ないと思う事にする。


「このっ────クソ餓鬼っ!」


 男は避ける素振りを見せずに────そのまま受ける────



 大音量の爆裂音が響き渡る。


 記憶の流入はない────死んではいない。


 しかし、直撃して死なないとか、かなり強い────殺す気はないんだが──不可抗力だ。



「────いってぇなっ!」


 ──無傷────どこに痛がる要素がある!?



「しつこい────紫電──」


 俺は追撃に雷魔法を使うが水の膜に防御されてしまう。


 さっきもそうだったが、何故感電しない?


 ──まさか不純物がない水か!?


「コウキ君だったかな? ────人も集まって来た……今日はここまでだ……いつか──また会おう。私の名前は【水刃】シスイ。ダリルによろしくな────そこの子には何もしてないから安心しなさい。君が目的だったからね」


 話し方がさっきと違い、紳士的な振る舞いを見せるシスイ。


 ────ダリルさんと知り合い!?


 男は言い終わったと同時に一瞬にして消えた。


 いったい何が……今はカミラさんだ────


「カミラさんっ! 大丈夫ですか!?」


「コウキ君──格好良かったっ!」


 へ? そういえば──シスイは何もしてないって言っていたな……。


 まさか────


「──演技?」


「てへっ」


 …………本当に何が何だからわからねーよっ!

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