第56話 厄日なのか!?

 俺は3人に街の中に連れ戻された。


 大将に罵られた人達の視線が痛かった……。


 というか昼から訓練なんだけど……。


「昼から訓練あるんですが……」


 一応聞いてみる。


「お父さんとお母さんにはちゃんと言ってあるから大丈夫っ!」


 エリーさんがそう言って来る。


 逃げ道は塞がれたようだ……。


 というか──エリーさんってダリルさん達の娘なのか?!


「そっ、そうですか……」


「さぁ、デートしましょうね?」


 カミラさんは笑顔でそう言いながら俺の腕を掴んで組んで来る。


 これから、デートするの??


「そういえば、コウキは冒険者になったんだったな。装備を買おうっ!」


 ティナさんはそう提案して来る。


 話がドンドン進んで行く……。


 どうしよ?


 ────そうだっ!


「デートって男性と女性1人ずつでするもんなんですよね?」


 3人は一瞬止まるが、直ぐに頷く。


 俺の言いたい事を察してくれたようだ。


「なら──明日から1人ずつデートしません?」


 3人は頷き、物凄い笑顔で了承してくれた。


 その後、3人は──行動が早かった。


 デートに備える為に順番を決め、準備の為に即解散となった。


 もちろん俺は蚊帳の外だった。



 さぁ、訓練もないし帰るか────



 ────って、俺も明日の準備しないと!?


 服装とかダリルさんから貰ったやつしかないし!


 こんな事なら大将からデート編をもっと聞いといたら良かった!



 とりあえず、今日聞いた話だと身嗜みをしっかりしないとだな……。


 俺は服屋に向かう。



 街の中を歩く度に串焼きを買ってくれたお客さんと出会うな……。


 その度に──手を振ったり、挨拶をしている。


 串焼き屋のお陰だな。前世では考えられないぐらい人と接しているな。


 というか……あのイベントで有名になったんじゃ……。


 しばらく歩くと服のデザインの看板が見えて来た。


 きっと服屋に違いない。


 店の前に立ちドアを開ける。


「いらっしゃぁいませぇん〜」


 俺は扉を閉める。


 服屋の看板だと思ったが違ったようだ。


 俺の目がおかしくなったのか? 店員がギルマスに見えた……。


 いや、ギルマスは氾濫の件で後処理が忙しいはずだ。人違いの変態だろう。


 もう一度、扉を開ける。


「コウキくぅん? 早く入りなさぃん?」


 また閉める。


 名前を呼ばれた気がする……。


 今まで街で会う事がなかったのに……今日は厄日だな。


 俺は他の服屋を探そうと歩き出すが──


「…………離してもらえませんかね?」


 ──後ろから肩を掴まれる。


「私のお店にいらっシャイン〜」


 ギルマスの「いらっしゃい」と語尾が混ざって俺にはシャインと聞こえて来た。


 シャインを英語で表記すると【shine】だ。


 ローマ字読みで【死ね】。


 …… 一応、闘気を纏っているのだが──闘気の防御を貫通して、肩に痣が残るんじゃないかと思うぐらいの強さで掴まれている。


 逃がす気はないようだ────つまり、俺の墓場はここのようだ。


 いや、諦めたらダメだっ!


 ダリルさんも俺が死にかけた時にそう言っていたじゃないかっ!


 とりあえず、この服屋はギルマスの店らしい。ギルドマスターって副業可能なんだな……。


「仕事はどうしたんですか?」


「そんなもん部下にやらせてるわぁん。私の本業は──こっちよん」


 ウインクとかやめてくれませんかね?!


 吐き気が凄いんですが!?


「ちょっと用事を思い出したので、帰りますね」


「待ちなっ」


 気持ち悪いおねぇみたいな話し方じゃなくて、ドスの効いた声で呼び止められる。


「なんです?」


 俺は肩を掴まれた状態ではあるが、雷光をいつでも発動出来るように準備する。


「よく──生きて戻った……」


「……ありがとうございます。運が良かったんですよ……そろそろ手を離してくれませんか?」


 心配してくれていたんだろうな……。俺は素直に礼を言う。


 でも、掴まれている肩に力が込められ続けていて、そろそろ千切れるんじゃないかと思うぐらい痛い。


「────ご褒美に服をあげるわぁ〜ん。一名様〜ご案内〜」


 ちっ、やっぱり逃がさない気か! 痺れやがれっ! 雷光っ!


「無駄ぁん」


 痺れる事はもちろん──雷が全く効いている様子が無く────俺は店の中に連れ込まれた。




「ほらほらぁん、警戒しないのぉん」


 無理だろっ! どの面下げて言ってやがるっ!


「襲わない保証は?!」


「今は仕事中よぉん? 服を私が貢いで──あ・げ・るん!」


 その──鉄パイプを曲げるようなウインクをやめろぉぉぉぉっ!


「いや、いらないんで帰っていいですかね?!」


「男の子なんだしぃん〜、ん〜こんなのとかどうかしらねぇん?」


 話を聞け!


 その後、ギルマスは俺の話を華麗にスルーしながら服を選んだ。


 最後に再度断ろうと言葉を発しようとしたら──


「受けとらなかったら──この場で襲うっ!」


 ──と逞しい声で言われたので、まだ逃げる自信もない俺は素直に礼を言って受け取った。



 何事も無く店から出れた俺だが────とてつもない倦怠感に襲われる。


「疲れた……」


「コウキくぅん」


「──!? な、何ですかね!? まだ何か!?」


 ギルマスが店の外で一息吐いた所でまた声をかけてきた。


「5日後に領主様主催のパーティーがあるわぁん。コウキ君も呼ばれてるから────ダリル達と一緒に来なさいねぇん? 断ると面倒よぉん?」


「──何で俺が呼ばれてるんですかね!? 低ランク冒険者とかいらないでしょ!?」


「獣人国の姫様助けたじゃなぃん?」


「はぁ!? 誰それ────って、まさかリリーさん!?」


「そうよん。まぁ、きっと──ご飯食べて騒いで終わりよん。今回の氾濫の打ち上げみたいなものよん」


「…………わかりました。それで豪華な服が1着入ってたんですね……これを見越して店に?」


 ギルマスが選んだ服は合計5着。その中に使わないだろうと思ってた豪華な服がそこで必要になるのか……。


「コウキくぅんの〜匂いがしたからよぉん。急いで来たわぁ〜ん」


 俺は雷光を瞬時に発動し────その場から全力で駆けて逃げ出した。



「はぁ……はぁ……」


 追いかけて来ていない事を確認し、呼吸を整る────


 まさか──リリーさんが獣人国の姫だとは……まるで物語のようだな……。


 獣人国ってもっと南にあるって大将が言っていたが……何故、彼女だけこんな所にいるんだ?


 番いにすると言ってたから────婿探し?


 獣人には獣人の掟みたいな物があるんだろうか?


 ──考えても仕方ないか……どうせ五日後だしな。それに────リリーさんに俺の記憶はない。



 ────とりあえずは明日からの三日連続デートを乗り越えなければ……。


 そうだ! 大将に助けを求めよう。


 アルバイトも休みがほしいしな!

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