第39話 なんか俺の想像と違う!?

 午後になり、テレサさんと合流する為にいつもの場所に向かう。


 大将が言った言葉────教え子が続いた事がない────それが頭から離れない。


 それに見送る時の目────あれはまるで死地に赴く者を見送るような──可哀想な人を見る目をしていた。



「ごぶっ」


 道中にゴブリンが襲って来たので瞬殺しておいた。


 記憶が流れ込んで来たが────この間の荒療法が効いたのか、そこまで記憶に左右される事はなかった。


 これなら──このハードな異世界を生きて行ける気がする。


 俺は先程まで少し不安だったが、今は魔法剣を使いたい気持ちでいっぱいになってきている。


 この魔物のいる異世界を生き抜くにはやはり強くなければならない。


 それに、大将も「強い男がモテる!」と言っていた。


 ピンチな女の子を颯爽と助ける姿とか憧れるぜ!


 その為に────まずは魔法を使えるようにしなければならない!


 なんたって、魔法剣を大将が教えてくれる!


 例え──テレサさんの魔法訓練が厳しくてもダリルさんみたいに死の危険はないだろう。


 俺が読んでたラノベの魔法の訓練の定番と言えば、座学や発動方法の訓練とかだろうし──どんな苦境に立たされても────


 俺の心はロストメモリーで成長している────はず!


 おそらく、大将の言葉から察するに────


 テレサさんは感覚派なのだろう。だからコツが掴めない人が辞めているんだと思う。


 どんな困難にも耐えてみせようじゃないかっ!



 そんな事を考え、士気が上がった俺はテレサさんと合流する。


「来たわね……」


「お待たせしました! よろしくお願いしますっ!」


「コウキ君、とりあえず火魔法から習得しましょうか?」


「おーっ! いいですねっ! それでどうやればいいんですか?!」


 うん、火魔法か! 格好良いなっ!


 俺のテンションは鰻登りになる。



「じゃあ……始めるわ」


 テレサさんは掌の上に火球を作り出す。


「おーっ!」


 これが火魔法か〜実演してから何か教えてくれるのかな?


「行くわよ」


「はぁ?」


 どこに行くの!?


「避けたらダメよ?」


「ちょっ、ちょっと待って下さいっ! これ魔法を使う為の訓練ですよね?! 俺に当てる必要あるんですか!? もっと知識的な事とか発動方法とかないんですか!?」


 ラノベとかである、イメージをしてとか、属性魔法の話とか──色々と火球を俺に放つ前にやる事あると思うんですけど!?


 なんか俺の知ってる魔法訓練と違うんですけど!?


「魔法は受けて覚える物よ?」


「…………」


 テレサさんの顔は真剣だった……さっきまで鰻登りになっていたテンションは──これから訪れるであろう事を想像し、駄々下がりだ……。


 これか────これが可哀想な視線の正体か!


 そりゃー、教え子続かねぇよっ!


 火魔法なんか当たったら死ぬじゃないか!


 しかし、ここで辞めるなんて言えない……約束したし……。


 なら──奥の手だっ!


「テレサさん……俺……水魔法がいいかな?」


 ──そう提案する。我ながらファインプレーな一言が思い付いたと思う。


 確かにこれは俺の予想通りの感覚派の訓練だとは思うが、中身が別過ぎる!


 なんとか火魔法は回避したい。


「何から始めても一緒でしょ? 全属性適性なんだから」


 大将、ダリルさんに続く鬼がそこにはいた……。


 何で────俺は全属性適性なんだよっ!


 あの剣神、酷いことしやがるっ!


「はい……」


 全てを諦め──この時──全属性適性を恨んだ……。


「全身で感じなさい」


「ぐぅっ……」


 容赦なく発射された一発目が胸に当たりそうになり、腕をクロスさせて根性で受ける──


 たぶん、手加減してくれているとは思うが──当たった腕からは肉の焦げた臭いがする……。


 もはや火魔法で手加減も何もないと思う……。


 これ、闘気纏わないと死ぬな……。


 俺は闘気を纏い、更に放たれた二発目を避ける。



「早く回復しなさい。それと──闘気は使わないように。あと逃げるなっ!」


「いや、無理ですって!」


「──避けれないぐらい撃ち込むっ!」


 その後は火球の嵐だった。


 正直──ダリルさんとの訓練の方がマシだと思った……。


 一発で重傷を負いそうな魔法攻撃を闘気を纏わず、避けないで全身で受けて感じろとか、無茶振りだと思う。


 もちろん────俺は避けに避けまくった!


 様々な方向から向かってくる火球が迫り来るが、ダリルさんの無茶苦茶な訓練により、鍛えられた俺にはこれぐらい朝飯前だっ!



「火炎の嵐」


 ────!?


 当たらないと思ったテレサさんは炎による面攻撃に切り替える。


 ……これは避けれないな────終わった……。



 俺は火傷を負いながら絶叫した。



 ……


 …………


 ……………………




「エリーさん、ありがとう……君は命の恩人だ……」


 俺は後から到着したエリーさんに治療され、感謝を伝える。


「お母さんの修行とか……普通じゃないのによく受けようとか思ったわね……」


 知らなかったんですっ!


 大将も詳しくは教えてくれなかったんですっ!


「いや、マジで死ぬかと思った……」


「お母さんて、お父さんより手加減下手なのに……」


 もっと早くその情報知りたかった……。


「こめんね〜。つい熱くなっちゃったわ〜。コウキ君も避けなかったらそんな事にならなかったのに。次からは避けたらダメよ?」


 いや、自分から当たりに行けとか──この人なに言ってんですかね!?


「……はい」


 約束したからに辞めるなんて言えない……それに逃すつもりもなさそうだ……。


 これが続くとか泣きたくなる……。

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