第40話 話の聞き方って大事なんだな!

 次の日、大将の所で串焼きを焼いていると──


「昨日は──どうだったんだ? その顔は聞くまでもないか……」


「酷い目に合いましたよ……」


「そうだろうな……テレサは──ダリルより人に教えた事がないはずだからな……【爆裂姫】と言われいるテレサは感情が高ぶると──見境が無くなる」


「知ってるなら教えて下さいよ……本気で死ぬかと思いましたよ……用事は済んだんですか?」


「まぁ、その方が面白そうだからなぁ〜。用事はすっぽかしたな」


 あんたは相変わらず鬼畜だなっ! しかも貴族相手にすっぽかしてるし!


「…………それで実際の所、魔法攻撃を受けたら魔法使えるようになるんですか?」


「…………一応な……という事は────受けたのか?」


「一応って言うのは?」


「……今はそんな古典的な方法はしとらん……」


「…………」


「まぁ、頑張れ……約束破ると極大魔法撃ってくるから気を付けろよ」


 逃げ道は確実に封鎖された。


「俺は生き残れる気がしません」


「エリーをつけるから大丈夫だろう。それに死ぬ前に覚えたら済むじゃろ?」


 それ、俺が傷を負う前提じゃないか……全然大丈夫じゃない。


「攻撃受けても、全く使える気がしませんでしたよ?」


「ふむ、魔法は何を受けた?」


「火魔法ですね……火炎の嵐を撃たれました……」


「よく生きていたな……手加減とかいうレベルじゃない魔法だな……罪人相手にするだな……。火魔法であれば──燃えるイメージを繰り返しとったら出来るぞ?」


 死刑執行!?


 しかも大将が言ってるのは俺の知ってる訓練方法!?


「…………大将が始めから教えてくれたら良かったのでは?」


「そうじゃな……まさかそんな古典的な方法だったとはわしも思わなんだ……だが、今断ったら──この街は滅びるかもしれんぞ?」


 俺の中でのテレサさんのイメージが崩壊していく……もっと知的な人だと思ってたんだけど……。


「助けて下さい」


「いや、わし死にたくないしの」


 いや、あんた絶対死なないだろっ!


 それに笑いながら言うなよ!


「死んだら祟りますからね……」


「もう数え切れんぐらい恨まれとるから気にせんぞ? ──それより、串焼き作る速度が早くなったな……客も日に日に増えとるしな……」


「死活問題なんですから、もっと真剣に聞いて下さいよ……。そりゃあ、これだけ人も増えたら慣れますよ」


「コウキ……お前、別に剣習わなくても食っていけるんじゃないか?」


「────確かに!」


 そう思ったが──


「まぁ、あの変態から逃げられたらいいがな」


 ──続く言葉に嫌々納得してしまった。


 まだまだ訓練の連鎖は終わらない……。



「なんとか早く覚えたいもんです……」


「まぁ、なんとかなるじゃろ……ちなみにわしもコウキと同じじゃぞ? 全属性適性あって、魔力も並。しかし、未だに負ける事はない────要は使い方じゃの……恋愛も同じじゃ……その場、その場に合った方法で対応せんと──な?」


 気持ちの良いぐらいの笑顔で答える大将。


 丁度その時──


「──売り切れでぇーっす! また明日お待ちしてまーっす!」


 俺は材料が無くなったので、お客さんにそう言う。


「今日は売り切ったな……では、恋愛のいろはを教えてやろう」


「よろしくお願いします! もはや、これしか楽しみがありませんっ!」


「うむ、これを聞いて昼から励め……お前には──話術が足りん」


「話術ですか?」


「そうじゃ、引き出しが少な過ぎる。だが、若い故に仕方がない……そこでだ──話の聞き方を教えてやろう」


「引き出しは確かに少ないですね……そもそも女性と何を話せばいいかわかりません」


「まず──必ず頷く事じゃ」


「それだけですか?」


「初心者はこれだからダメなんじゃ……良いか? 頷くという事は──相手の話を真剣に聞いているアピールになる。それすら出来ていない奴と話していて楽しいもんかのう?」


 確かに!?


「なるほど、確かに話を聞いてない人とは話したくないですね!」


「そこでじゃ、頷くと同時に続きを促すように言葉を出せ」


「例えば?」


「今、コウキが聞いているようにしたらいいだけじゃ。そうやって、相手に興味があるように促して行くのが大事じゃのう。コウキは今、純粋に知りたいから聞いておる。そして、聞かれておるわしは──気分が良い。それは女性でも男性でも関係ない」


「確かに興味があるから話を聞きたいと思って言っています!」


「そうじゃろう。それでドンドン情報を集めていけ。そこで更に応用する」


「応用とかあるんですか!?」


「うむ、中級テクニックじゃ。相手の情報を元に──更に切り込んで行く。今のコウキみたいにな?」


 なるほど、俺は無意識の内に中級テクニックを使っていたのか!?


 確かに情報を知りたくて、気になるキーワードを拾って聞き返した。これが中級テクニック────上級とはいったいどんな物なんだ!?


「さすがです! では、上級テクニックは!?」


「お前にはまだ早い……。まずは情報を集めて、ドンドン話を聞いていけ。そうすれば些細な情報から切り抜けられる事もある。それに中級はな……まだそれだけじゃない」


 なんと!?


「まだあるんですか!?」


「まず、相手に興味がある事を伝え、こちらに興味を向けて貰う……これが初級。そして、聞いた情報から更に深く聞き出す……これが中級だ。ここまではいいな? ここまでは男女共に共通している。ここまで行ければそこそこ信頼関係は構築出来ておる。だが、注意点もある。こちらから話を止めてはならん。それだけで相手は話す気が薄れる。更に──そこから女性と親近感を持たせる為には……こちらから話す言葉も気を付けなければならん」


 深い……深いぞ────大将っ!


 俺は頷く。


「そして──同調する事が大事じゃ。女性は答えを求めている者は少ない。ただ聞いてほしい……そう思っておる事が多い。例えつまらん話でもちゃんと聞く。答えを言いたくても言わない。もちろん皆が皆そうではない……前も言ったが、その辺の見極めなければならん。わからなかったら否定する言葉は避けて同調して返すといい。それだけで好印象じゃ! 一応言っておくが──上級テクニックは更に難易度が上がる。相手の欲しい言葉を欲しいタイミングで言うのじゃ。これは経験がないと難しい……今は中級までをしっかりと心に刻み──励むが良い」


「ありがとうございますっ! 俺──頑張りますっ!」


「良い子じゃ……。ちなみに相談とかの場合はその時点で信頼されておる証拠じゃ。最初は些細な話から始めると良い」


 大将──貴方は素晴らしいっ! 聞く度に俺は感動しているっ!


「いつか、必ず────上級テクニックをマスターしますっ!」


「────という事で、時間切れじゃ……魔法の訓練頑張って来い……」


 俺は最後の言葉で、天国から地獄に突き落とされた気分にさせられて、いつもの場所に向かった。

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