第23話 初めての──
いつもの訓練している広場に向かい歩いている。今日は初仕事でいつ終わるのかわからないから現地集合だ。
現在は街の入り口に向かっている所だ。
この街は屋台や店が並んで声飛び交い、活気に溢れているのがよく目に映る。
たまに女の子が俺を見てコソコソと話をしている。
陰口ではないだろう……たぶん……。
なんせ、俺イケメンだしなっ! そう言い聞かせて前に進む。
門に着いた。
「おっ、今日は1人か?」
門番さんが俺に声をかけてきた。ここ二回、外に出た時はダリルさん達と一緒だったからな……。
「今日は外で集合なんです。はい、これ冒険者証です」
冒険者証と言っても金属で出来た銀色のプレートだ。これがまた謎仕様で魔物を倒すと記録されるらしい。
まさにファンタジーだ……もちろん俺は倒した事がないから履歴には全く記録はない。冒険者ギルドで確認出来るらしいという事しか知らない。
あのギルマスがいる限り、行く気はないが……。
「あいよ。行って良しっ! 今日も担がれて帰って来るなよ〜」
まぁ、二回外に出て二回とも俺は担がれて帰って来てるからな……そう言われても仕方ない。
「ダリルさんに言って下さい。あの人加減知らないんですから……」
「そうだな……ダリルさんに稽古つけてもらうとか地獄以外の何物でもないからな……手段は選んだ方がいいぞ? まぁ、強く生きろ……」
酷い言われようだなっ!
「はーい、では行きますね〜」
ダリルさんの認識はそんなものなのかと思いながら──俺は手を振り外に出る。
そういえば一人で外に出たの初めてだな……。
「ごぶっ」
後ろから声? をかけられる。
俺は後ろを振り向くと──ゴブリンがいた。
「……」
前の俺とは違い、今は剣があるし、闘気も使える……負ける気は全くしないが──
──命のやり取りをする覚悟はない……。
しかも──人の姿に近い魔物って殺すのを躊躇うな……。
何より──剣で斬り付けて返り血を浴びたくないな……いつもみたいに意識が朦朧としてるわけではないから、吐く自信がある。
どうしよ?
「ごぶっ」
棍棒を持ち襲いかかろうと構えるゴブリン。
「やるしかないか……」
俺は覚悟を決める────殺す覚悟ではなく戦う覚悟を。
俺にはまだ命を奪う行為は無理だ……きっと、この異世界において俺の考えは甘いんだろうが──
──殺すにしても理由がほしい。
誰彼構わず殺していいわけがないっ! 死んでもいい命なんてないはずだっ!
────俺は闘気を纏うが剣は抜かない!
「ごぶぶっ!」
棍棒を持ち、ゴブリンが襲って来る。
俺はそれを強めの闘気を纏った状態の手を使い──捌き、避ける。
俺の拳がゴブリンの顔面を捉えた────
ボスンッ
────その瞬間、ゴブリンの顔面は爆散する。
バタンッ
そして、体だけになったゴブリンは地面に倒れる。
「へっ?」
俺は唖然とする。
緊張して手に闘気を強めて纏っていたから?
俺さっき────命の尊さについて考えていたのに……殺さないと決めたのに……殺してしまった?
「ゔっ……ゴハッ……」
俺は冷静になりゴブリンの死体を眺め──気持ち悪くなり、その場で蹲り──涙を流し、嘔吐する。
「──大丈夫か!? 遅いと思って見に来たら──蹲っているし、ゴブリンは死んでいるしで状況がわからんっ! 怪我でもしたのか!?」
慌てたダリルさんの声が聞こえる。
「殺してしまいました……」
俺はダリルさんにゴブリンを指差して言う。
「────初めて殺したのか?」
ダリルさんはそう聞いてくる。
「はい……殺すつもりはなかったんです……」
俺はまるで、警察署で自供している犯人みたいな事を言ってしまう。
「まぁ、誰しも一度は通る道だ……こいつは魔物、人ではない。気に病む必要なんかないぞ?」
「──でもっ! 俺は殺す覚悟なんて出来ていなかったんです! 自分や誰かを守る為とか、生きる為とか──そんな覚悟もなく殺してしまったんですっ!」
「いや、そんなのいらねぇだろ?」
ん?
「だって、ゴブリン──魔物だろ?」
んん?
「世の中魔物せいで不幸になってる奴ばっかなんだ……」
んんん?
「それに──ゴブリンって女拐って孕ますんだぞ? 殺した方が世の為だ」
────!? そうか……俺は世の女性を救う手助けをしたのか!
そんな危険な魔物がその辺にうろうろしてるとは……無知とは恐ろしい……。
その日──初めて命を奪い──命の尊さより、奪う理由を見つけて気持ちが楽になった。
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