女神様は俺に触られると力が抜けて蕩けるヤンデレ体質でベタ惚れになったらしい

しゆの

女神様は俺に触られると力が抜けるらしい

「困りました……」


 そろそろ日が沈みそうな時間、宮野悠斗みやのゆうとは学校が終わって駅前にある本屋などで色々と買い物をした後、オートロックを解除して住んでいるマンションに入ったところ、共有スペースで制服を着た少女がため息をついた。

 普段だったら無視して家に帰るところだが、同じ学校の制服を着ているのと、本当に困ってそうな声だったため、少女に近づいていく。


「どうした?」

「……え?」


 こちらを向いた彼女のことを見ると、予想通り見覚えがある顔だった。

 彼女──黒井絢音くろいあやねはクラスメイトで、女神様と呼ばれるほどの美貌を持った少女だ。

 腰ほどまであるサラサラとした白に近いプラチナブロンドの髪、藍色の宝石を思わせる大きな瞳、シミひとつない雪のように白い肌は誰もが見惚れてしまうだろう。

 比喩ではなくて本当に女神様がいるんじゃないかと思うほどだ。

 祖母が外国人で本人はクォーターとのことで、異国情緒溢れる容姿をしている。

 名字からして父親は日本人だろうし、日本っぽい名前でも不思議ではない。

 見た目と名前のギャップが凄いが。

 整い過ぎている容姿の女神様は入学当初から噂になっており、高校一年生ながら学校一の美少女と言われているほど。

 学校一の美少女、女神様である絢音と一緒のマンションに住んでいて、二人はたまに話すだけの関係だ。


「宮野くん……」


 とても困ったような表情で名前を呼んでくる。

 同じクラスになって二ヶ月ほどたつし、あまり話してなくても名前は覚えているようだ。


「何か困ったことがあるのか?」

「ええ。不覚ながら家の鍵を落としてしまいました」


 家に入れず困っているらしく、どうしていいかわからないのだろう。

 共有スペースには他の人がオートロックを解除した時を狙って入ればいいだけだが、家には鍵がなければどうすることも出来ない。


「家の人はいないのか?」


 家族向けの4LDKの分譲マンションのため、一緒に住んでいる人がいるはずだ。


「間が悪いことに、夫婦揃って海外旅行に行ってます」


 なら家族に頼むことは期待出来ない。


「管理人は?」


 鍵を無くした人がいる時こそ管理人の出番だ。


「もう暗くなってきてますから帰ってしまったようです。管理人室に電話しても出てくれません」


 使えない管理人らしく、もう少しだけ管理人室にいるべきだろう。

 管理人いえどプライベートの番号は教えないようで、管理人室にいなければ連絡を取ることも出来ない。

 一応管理人もこのマンションに住んでるはずだが、運の悪いことに出掛けているとのこと。


「なら、鍵を開ける業者に頼むしかない」


 お金がかかってしまうが仕方ない。

 鍵を開けてくれる業者は二十四時間対応してくれるはずだ。


「今はあまり手持ちがありません。学校がある時は交通系のICカードがあれば問題ないですし」


 確かにICカードがあれば電車やバスに乗れるし、コンビニなどで買い物することが出来る。

 今では切符を現金で買って乗る人などほとんど見ない。

 でも、今回はそれが裏目に出てしまい、鍵を開けてくれる業者はICカードで支払いが出来ないのだろう。


「俺も買い物してきたからあまり手持ちはないな」


 このマンションの鍵はピッキングされない最新式のため、業者に頼むと万単位でお金が飛ぶだろう。

 とてもじゃないが、バイトをしていない高校生がすぐに払える金額じゃない。


「キャッシュカードないのか? お金降ろしてくるとか」

「無駄遣いしたくないので家ですね。中に入れさえすれば合鍵がありますので、最悪一晩ここにいます」


 絢音は管理人が帰ってくるまで待っているということだ。

 確かに管理人が来てくれさえすれば鍵を開けてもらうことが可能だが、女子高生が一晩一人でいるべきじゃない。

 しかも可愛い絢音なら尚更だ。

 マンション内であったとしても、変な輩が現れる可能性はゼロではない。


「流石に放っておけんぞ。俺の家に来るか?」

「……え?」


 警戒心丸出しの蒼い瞳を向けてきた。

 単なるクラスメイトの異性に家に来るか? と聞かれたら、女性であれば警戒するのは当然のことだ。

 逆にすぐ来るようであればビッチじゃないかと疑ってしまう。


「俺の家には妹がいるから心配ない。了承しないなら俺も一晩ここにいるぞ。マンションの住人なら誰でもいれるとこだし、黒井に文句は言わせない」


 住人が気軽に話せるようにソファーが用意されており、絢音が座っている横に腰かける。

 ちょうど本屋で買った漫画が何冊かあるし、暇を潰すには充分だろう。


「そこまでしなくても……」


 絢音の瞳が警戒色から困惑の色に変わる。

 たかがクラスメイト、同じマンションに住んでいるだけの関係なのに、何でそこまでしてくれるのだろう? と思っていそうな顔だ。


(何で助けようとしてるのか自分でもわからん)


 いくら女神様と呼ばれるくらいの美少女であっても、絢音に惚れているわけではない。

 凄く困った顔や声をしていたから? 助けて恩を売っとこうと思ったから? などが思い浮かんだが、どれも助ける理由としては違う気がした。


「気にするな。妹が黒井と話したがっていたし、相手してくれ」


 異国情緒溢れる容姿をしている絢音と本当に妹は話してみたいと言っていたし、丁度いい機会だろう。


「実はもう友達の家に泊まれるか連絡しているので大丈夫です」

「……嘘だな」

「え?」


 驚いたように、絢音の目が見開かれる。

 何でわかったんだろう? と思っていそうな顔なので説明してあげることにした。


「黒井の性格からして頼んでるなら既に行ってるだろ。どんなに遅くても俺がソファーに座る前にはな」


 真面目な性格をしていると絢音と中学が一緒だったという友達が以前に言っていたため、他人に迷惑をかけるようなことはしないだろう。


「……良く見ているのですね」

「少し考えればわかることだ。嘘ついた罰として今日は妹の話相手になれ」

「え? きゃ……」


 強く言っても頑固として動かなそうだったため、絢音のことを抱き抱える。

 いわゆるお姫様抱っこというやつで、恥ずかしさからか絢音の頬が一気に赤く染まった。


「首辺りに腕を回してくれないか? 重い」


 何故か絢音の腕は力が抜けたようにだらんと垂れ下がっている。


「女性に重いなんて言うのは失礼ですよ。何でか体に力が入らなくて……」


 自分でも何でかわからなようだった。

 そう簡単に他人に体を触らす性格をしているわけでもなさそうだし、力が入らない理由がわからないのは仕方ないかもしれない。


「俺に触られると力が抜ける体質なのか?」

「知りませんよ。抵抗出来ませんし、このまま連れていかれることにします」

「賢明な判断だ」


 体重が腕にかかってしんどかったが、エレベーターを使って何とか家に入ることが出来た。

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