祝☆FA第三弾!記念小話『ドンちゃんと食いしん坊さんのとっても素敵な1日』

 このお話は『小説家になろう』というサイトにて頂いたファンアートを載せるために書いたものです。

 カクヨムにはイラスト掲載機能が無いため、完全な状態で楽しみたい方は『小説を読もう』にてキーワード 黒ドラちゃん にて検索をかけていただければ拙作が現れます。そちらで該当話をお読みください。食いしん坊さんとドンちゃんの可愛らしい双子の赤ちゃんが見られます。





 *****




 その夜、新しい家族のお披露目のホームパーティーを終えて、新米パパとママの二匹は、ようやくゆっくりとした時間を迎えていました。


「お疲れ様、ハニー」

「お疲れ様、食いしん坊さん」

 眠っている双子の赤ちゃんのために、二匹は小さな声でお互いを労います。双子の赤ちゃんが産まれてから、ドンちゃんと食いしん坊さんにとっては、あっという間の一か月でした。


「それにしても、ノーランドのホペニたちや、ナゴーンのラマディまで来てくれるなんて思わなかった」

 ドンちゃんが嬉しそうに呟くと、食いしん坊さんもうなずきます。

 今日のホームパーティーには、色々な国からたくさんのお祝いのお客さんが集まってくれました。身体が大きくて巣穴に入れないラウザーやマグノラさん、ブランも招待してあったので、パーティー会場は、初めから巣穴の回りに広めに作る予定でした。食いしん坊さんとドンちゃんは、双子の赤ちゃんのお世話をしながら、どんなふうにその会場を作ろうかと頭を悩ませていました。すると、黒ドラちゃんやモッチ、それからゲルードやリュングが手伝ってくれると言ってくれたのです。おかげで、巣穴の周りには急ごしらえとは思えない、立派なパーティー会場が出来上がりました。赤ちゃんの親として、遠くから来てくれたお祝いのお客様をしっかりともてなすことが出来たことが、二匹はとても誇らしくて嬉しかったのです。


「みんなが協力してくれたからだね」

 ドンちゃんがしみじみ言います。

「そうだね。それに、まさかおばあさまもおくるみを編んでくださるとは思わなかったよ」

 そう言って、食いしん坊さんが、巣穴に中にある棚に目をやりました。そこにはくすんだ若草色のおくるみが二枚、畳まれて置かれていました。

「ありがたいよね。まさか双子だとは思わなかったから、お母さんも急いで洗い替えを用意しなきゃ!って焦ってたんだもん。すごく助かっちゃった」

 そう、双子の一匹はノラプチウサギだったので、ドンちゃんのお腹は普通のノラウサギの双子の赤ちゃんがいるほどには大きくなっていませんでした。だから、実際に赤ちゃんが産まれるまで、てっきり一匹だとドンちゃんのお母さんは思い込んでいたのです。

「おかあさん、あたしのお産のお手伝いですごく疲れてたから、しばらく休ませてあげることが出来て良かった」

「しかし、早かったな、おばあさまのおくるみは。誕生の知らせの魔伝を送って、翌朝には『追加のおくるみはすぐに用意するから心配しないように!』って返事が来たのには驚いたよ」

「ひょっとしてもう編んでくれていたのかもね」

「ふむ__おばあさまならあり得るな。」


 食いしん坊さんのおばあさまは、高齢のために古の森まではお祝いに来られませんでした。けれど、その代わりとでもいうように、二枚のおくるみが一週間もしないうちに届けられたのです。食いしん坊さんもドンちゃんも驚きました。食いしん坊さんがお礼の魔伝を送ると、返事は数日して食いしん坊さんのお母さんから帰ってきました。おばあさまはおくるみを編み終わると、そのままいびきをかいてグーグー眠りだしてしまったということでした。そして、二日間ほどぐっすり眠ってから、パチッと目を覚まし「お腹がすいたねぇ!」と起きだしてきたそうです。おばあさまが元気で過ごしてくれていると知って、食いしん坊さんもドンちゃんもホッとしました。

 そして、何とかおばあさまにも可愛い赤ちゃんの様子を見せてあげたいなあと思ったのです。それを叶えることができると知ったのは、パーティー会場に来てくれたリュングと話した時でした。



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「キャラバンが持ってくる噂によると、ナゴーンでは相変わらずのノラウサギブームらしいですよ。蜘蛛妖精の吟遊詩人から双子の赤ちゃんが生まれたと聞いて、もうナゴーン上げてお祝いムードだとか」

 会場になる場所の下草を魔術で刈り取りながら、リュングが楽しそうに話してくれました。アラクネさんは、古の森での双子の赤ちゃん誕生のニュースを、風に乗り詩に乗せ、色々な国で語ってくれているようです。


「あの、それならあたしの肖像画を描いてくれたサイハーンて人にお願いできないかな?」

「お願い、ですか?」

 首をかしげるリュングに、ドンちゃんは赤ちゃんを抱っこしながらおばあさまのことを話してみました。

「……なるほど、ノーランドの王宮の森のおばあさまにですか」

 リュングが考え込んでいます。何か問題でもあるんでしょうか。

「サイハーンは、今はナゴーンにいないらしいのです。もともと、もっと東の方の国の出身らしく、今年は夏にそちらで大規模な展覧会を開くとかで、しばらくはナゴーンには来ないという話でした」

「え、そうなんだ……。あの絵を描いた人にもう一度描いてもらいたかったな。赤ちゃんたち、きっと可愛く描いてくれたと思うもん」

 ドンちゃんが残念そうに言うと、リュングが何か思いついたらしく、パッと顔を明るくしました。

「サイハーンとは派が違いますが、とても可愛いタペストリーを作る作家がいるんです!彼女になら頼めるんじゃないかな」

「たぺすとりい?」

 ドンちゃんが首をかしげると、リュングがすぐそばで働く鎧の兵士さんに声を掛けました。

「ちょっと、申し訳ないですが、ここの草お願いできますか?私はドンちゃんのお願いの件でゲルード様にお話してきます!」

 まだドンちゃんはタペストリーがどういうものなのか説明してもらっていませんでした。けれど、すっかり自分のアイデアに夢中になったリュングは、会場の向こうの方で指示を出しているゲルードに向かって走って行ってしまいました。

 ドンちゃんが赤ちゃんを抱っこして、えっちらおっちらゲルードのもとにたどり着くと、なにやらリュングが暗い顔をしています。

「どうしたの?たぺすとりいは作ってもらえそう?」

 ドンちゃんが心配そうにたずねると、ゲルードがニコッと笑ってしゃがみ込んでくれました。

「ご心配なく。リュングから話は聞きました。必ずグィン・シーヴォ殿のおばあさまのもとに、可愛らしい双子のタペストリーをお届けしましょう」

「でも、ゲルード様、作家の行方がわからないのでは……」

 リュングが肩を落としてつぶやくと、ゲルードがすぐに打ち消しました。

「いや、行方不明ということではないと言っているではないか。エステンで修業をした後にナゴーンに向かったということだったが、その後の話を聞かないというだけで」

「その人、行方不明なの?」

 ドンちゃんが不安そうにたずねると、腕の中の赤ちゃんがぐずり始めました。

「えっく、ひぇっく、うえ~ん、びえ~~~~ん!」

「あ、どうしましょう!?泣き出しちゃいましたよ!」

「むむ、はちみつ玉を」

「赤ちゃんにはダメですよ~!おしめかもしれないし、おなかが空いたのかも?」

「いやいや、モッチ殿のはちみつ玉であれば、どんな症状にも」

「病気じゃないですってば!」

 赤ちゃんが泣きだすと、とたんにゲルードもリュングもおろおろしてしまい、その日はそのまま話が中断してしまいました。

 その後は、ドンちゃんも食いしん坊さんも赤ちゃんのお世話やお仕事、パーティーの準備にと、目が回るほど忙しく、おばあさまのことは頭の片隅に引っかかったままでした。

 けれど、話を聞いたゲルードもリュングもドンちゃんの『お願い』を忘れたわけではなかったのです。



 いよいよ明日はパーティー当日、という日になって、リュングはナゴーンからラマディーを連れてきました。明日のパーティーに備えて、前日から南の砦にお泊りするそうです。


「古の森の皆様、お久しぶりです」

 久しぶりに見るラマディーは背が少し伸びて、声も何だか前とは違いました。

「えっと、今声変わりの時期なんです」

 そう言って茶色の頭をガシガシやりながら、恥ずかしそうにほほを染めます。それから、黒ドラちゃんに抱っこされている双子の赤ちゃんを見て、嬉しそうに微笑みました。

「可愛らしい!噂通りです!良かった、これなら間違いない!」

「間違いない?なにが?」

 クマン魔蜂さん印の茶器でお茶を入れていたドンちゃんが首をかしげると、ラマディーの後ろから鎧の兵士さんがなにか丸めた布のようなものを運び込んできました。


「以前、グイン・シーヴォ殿のおばあさまに双子の赤ちゃんの絵を贈りたいとおっしゃっていましたよね?」

 リュングが何やら勿体付けて話し始めました。

「う、うん。でも、サイハーンさんはナゴーンにはいないって」

「ええ、そうでした」

「それに、たぺすとりいの作家さんは行方不明だって」

「ふふっ、それが見つかったのです!」

「え、本当!?」

「ええ。しかも、行方不明ではなくて、産休中だったのです」

「さんきゅう?」

「ナゴーンで結婚して子どもが生まれたので、表向き仕事は一時的に受けていなかった、と」

「ええ~!すごい!そっちもおめでだったんだね!」

 驚くドンちゃんを前に、丸めた布が置かれました。


「ひょっとして、これがたぺすとりい?」

 けっこう大きな布です。広げたらドンちゃんが丸々包まれるくらいはあるでしょうか。

「ええ、しかも、なんとこちらが頼む前にすでに制作に取り掛かっていたのです」

「え、どうして!?」

「吟遊詩人のお話を聞いて、創作意欲が刺激され、じっとしていられなかった、とのことでした」

「それって、アラクネさんのおかげだね!」

 黒ドラちゃんが嬉しそうに言うと、頭に上のモッチも「ぶぶいん♪」と羽音を鳴らしました。

「なので、こちらが探し出して依頼を話した時には、もう一枚目が完成するところでした」

「一枚目?」

 ドンちゃんが再び首をかしげました。

「ミズーキ、あ、作家の名前なのですが、ミズーキが『おばあさまのもとへ一枚、新しい家族の増えた古の森のノラウサギ夫妻のもとへ一枚、ぜひ!』と言ってくれて」

「えっ!じゃあ、これって私たちに?」

 ドンちゃんが驚いて目を丸くします。まさか、自分たちのもとにもたぺすとりいが贈られるとは思ってもみなかったのです。


「見てみよう!見てみようよ!」

「ぶいん!ぶぶいん!」

 黒ドラちゃんもモッチも思いっきり盛り上がっています。ドンちゃんも、思わず丸めた布を広げそうになりました。

「あ、でも、どうしよう……一番初めは食いしん坊さんと一緒に見てもいい?」

 ドンちゃんの言葉に黒ドラちゃんとモッチの動きが止まりました。

「う、うん!そうだよね、そのミズーキって人だって、きっとドンちゃんたち家族に一番見てほしいよね!」

「ぶん、ぶいん!」

 黒ドラちゃんもモッチも、見たい気持ちをぐっとこらえてドンちゃんに賛成してくれました。

「ありがとう、みんな」

 ドンちゃんだってほんとうはここで広げてすぐに見てみたいのです。でも『家族への贈り物』です。一番初めに一緒に見るのは、やはり食いしん坊さんだ、という気がしました。

 と、その時、誰かが呼ぶ声がしました。

 ――ニー……

「今、なんか声がしなかった?」

 ――ハニー

「あれ!あの声は……」

 それは、今日はまだお城にいるはずの食いしん坊さんの声でした。


「ハニー!」


 食いしん坊さんはすぐに現れました。しかも頭の上にホペニを乗せています。

「ぶいん!?」

 モッチがびっくりして飛び上がりました。

「ブイン♪」

 ホペニが食いしん坊さんの頭から降りて、優雅に飛びながらお辞儀をします。

「ホペニ、どうしたの?っていうか、食いしん坊さん、どうしたの?今日はドンちゃん泣いてないよ?」

 黒ドラちゃんが不思議そうにたずねると、食いしん坊さんは、はあはあ息を切らしながら首を振りました。

「いえ、そうではなくて。えっと、ホペニは王宮の森を代表してお祝いに来てくれました」

「ありがとう」

 ドンちゃんがお礼を言うと、ホペニはモッチの隣に移動しながらも優雅にお辞儀して見せます。

「あ、そうじゃなくて、いや、ホペニが来てくれたことも驚きなのだが、ハニー、それよりもさらに驚くことが!」

「なあに?」

「こ、これを!ゲルード殿がナゴーンのタペストリー作家に頼んで、おばあさまへの贈り物を用意してくださっていたのだよ!」

 そう言いながら食いしん坊さんがモフっとした毛並みの中から、丸めた布を取り出します。

「あっそれ!」

 みんなが一斉に声を上げました。食いしん坊さんが驚くみんなを前足で制しながら話します。

「ええ、皆さんが驚くのも無理はありませんな。なにしろ、このタペストリー作家はここしばらく行方不明でしてな。幻の作家と言われているほどの、」

「食いしん坊さん、これ」

 ドンちゃんが食いしん坊さんのお話をちょっと止めて、ラマディーが持ってきてくれたタペストリーを示します。

「なに!?ひょっとしてこれもタペストリーなのか!え、同じもの?だが、なぜここに?」

 驚く食いしん坊さんに、リュングが先ほどの説明をしてくれます。

「なんと!そんなことがあるのですか!?我々の家にと?」

「うん」

 ドンちゃんがうなずくと、食いしん坊さんは自分が持ってきたタペストリーをもう一度モフっとした毛並みの中にしまいました。

「ハニー、これはおばあさまに見ていただこう。そして、良かったらそのタペストリーをここで広げて見ないかい?」

 ドンちゃんがうなずくと、ラマディーが懐から薄い布を取り出し、地面に広げました。そして、その上にタペストリーを広げていきます。


 そこに描かれていたのは、ふんわりと柔らかな微笑みを浮かべるドンちゃんと食いしん坊さんでした。幸せそうに寄り添う二匹の腕には、可愛らしい双子の赤ちゃんが抱かれています。

 <ミズーキ・フッカ作「幸せのノラクローバーのある風景」>


「わあ!可愛い、双子ちゃんたちだ!」

「ぶぶいん!」

「おお!これはさすがだ!」


 一気に盛り上がる黒ドラちゃん、モッチ、食いしん坊さんと対照的に、ドンちゃんは無言でタペストリーを見つめていました。

「ハニー?」

 見れば、ドンちゃんは静かに涙を流していました。

「ハ、ハニー!?」

 食いしん坊さんがおろおろし始めると、ドンちゃんは涙を拭いて微笑みました。


「幸せ。とても幸せ。そんな風に思えたの、このタペストリーを見ていたら」

 その言葉を聞いて、食いしん坊さんも黙りこみます。じっと見つめあって、ドンちゃんと前足を握り合いました。



 少し離れたところから、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきます。

「あれ?」

 気づくと、タペストリーの前には、食いしん坊さんとドンちゃんだけになっていました。黒ドラちゃんの背中が、あっちの木の陰にちらちらと見えます。夫婦だけにしてあげようと、みんなが気を利かせてくれたようです。


「やだっあたしったら!」

「わたしとしたことが、皆様がすっかり目に入らなくなっておりましたな」

 ドンちゃんと食いしん坊さんは、あわててタペストリーを丸めました。そして、離れていたみんなに声をかけて、パーティーの準備の仕上げにとりかかったのです。


 パーティー当日、そのタペストリーは木立にヒモをかけて飾られました。お祝いに来てくれたみんなは、そのタペストリーの前で一度は足を止めて見とれました。

 マグノラさんはにっこり微笑んで尻尾を振り祝福を送ってくれました。

 ラウザーは何度もタペストリーを前に空中で回転してみせました。

 ラキ様は「双子の分じゃ」といって大量のカミナリ玉を置いて行ってくれたし、ブランは煙水晶と白い魔石でクローバー型のペンダントを持ってきてくれました。たくさんのお祝いの気持があふれる、とても素敵なお披露目パーティーになりました。




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 そして、パーティーの片付けもすべて終えて、ドンちゃんと食いしん坊さんは、巣穴の中でソファに並んで座っていました。目の前の壁には、あのタペストリーが飾られています。ドンちゃんは、後ろの壁を振り返りました。サイハーンの描いた自分の肖像画が飾られています。あの時もとても嬉しかったけれど、あの時の嬉しい気持ちとは、また別な喜びを感じます。

 ドンちゃんは隣の食いしん坊さんにゆっくりと寄りかかりました。

「幸せ。とても幸せ。そんな風に思えるの、このタペストリーを見ていると」

 ドンちゃんの言葉に、食いしん坊さんが静かにうなずきます。


 その夜、小さな巣穴の中に幸せがあふれているのを、二匹は静かに感じていました。

 灯されたわずかな明かりと、赤ちゃんたちの可愛らしい寝息とともに――――




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