第245話-モッチと金色の宝物☆6

 広間に戻ると、職人さんの会合はもう終わっていました。でも、モッチの心配をして、残ってくれている人もたくさんいました。


「あ、お帰り、モッチ!やっぱりホペニに任せて良かったあ」

 黒ドラちゃんの嬉しそうな声に、ブランやドンちゃんたちもうなずいています。

「モッチ殿、お帰りなさい。何はともあれ、無事に戻ってきてくれて良かった良かった」

 普段はスズロ王子のこと以外ではほとんど表情を動かさないゲルードが、珍しくほっとした様子で言いました。会議では平気そうな顔をしていたけど、本当はモッチのことをすごく心配していたようです。


「ぶ、ぶいん……」

 モッチがみんなに心配かけたことを謝りました。

「良かった、ほっとしたわ」

 カモミラ王女がちょっと涙ぐみながら笑ってくれました。

「ぶいん」

 モッチは何とも申し訳ないような気持になって、羽もしょんぼりとしてしまいました。

「あの、モッチさん……」

 遠慮がちに声をかけてきたのはグラシーナさんです。モッチの羽がビクッとしました。見るとグラシーナさんの胸元には、ゼロの金バッチが戻っています。


「ぶ……」

「ブイン!」

 うつむくモッチの背中をホペニがポンッと押してくれました。

 そうでした。モッチは、アズール王子の笑顔が大好きなんです。バッチに刻まれた数字がいくつだろうと、その気持ちには変わりはないはず。

 モッチは、ぶいん!と胸を張りました。だって、クマン魔蜂は愛と勇気と不可能も可能にするほどの情熱の象徴なんですから。そう、大丈夫、大丈夫、たとえここで、目の前にゼロのバッチをドドーンと見せつけられたって……

 けれど、覚悟を決めたモッチにグラシーナさんが見せてくれたのは、金バッチとは全く違うものでした。


「これをモッチさんに見てもらいたかったの」

 そう言って広げた手の平に乗っていたのは、とても見覚えのある形をした金細工でした。それは丸い金色の台の上に据えられていました。胸の黄色いフサフサは、おそらくガジュ・ペペルさんのいるコポル工房との協力部分でしょう。そして、丸いお腹、つぶらな瞳、小さくてかわいらしく薄い羽根は、グラシーナさんの手によって忠実に金細工で再現されていました。

 コポル工房とグラシーナさんが協力して作った試作品、この世に二つと存在しない、原寸大のモッチの金細工です。



「あ、あのね、会合で皆さんに見ていただく作品を作るときにね、何を作ろうか?って考えて、明るくて元気なモッチの姿がパッと思い浮かんだの!」

 グラシーナさんは少し、手を持ち上げると、嬉しそうにモッチとモッチ金細工を並べて眺めました。作品のことを考えているせいか、ちょっと熱くなってしまって、モッチのことを呼び捨てにしていることにも気づきません。

「モッチの、可愛らしさや元気の良さが少しでも表現できていたら、嬉しいわ!あ、あとね、ここも素敵なポイントなの!手にはお気に入りのはちみつ玉を乗せられるようになってるし、この金の台座にもくぼみがあるから、お気に入りのはちみつ玉をいくつか置いておくことも出来るのよ!」

 夢中になって一気にしゃべっていたグラシーナさんは、さっきからモッチが全然動かないことに、ようやく気づきました。

「あ、あの、ごめんなさい。あたしったら夢中でしゃべってしまって……ええと、気に……入らなかったら、その……」

 またモッチの「ぶぶぶぶぶぶぶ」が聞こえてしまうかも、とグラシーナさんが不安になってしどろもどろになった時です。モッチが突然高く飛びあがりました。


「あ、モッチ!」

「モッチ、どこに行くの!」

 周りで見守っていた黒ドラちゃんもドンちゃんも、びっくりしてあわてて手を伸ばしました。でも、モッチは飛び出して行ったりせずに、ちゃんとすぐに戻ってきたのです。くるくると華麗に回転を決めながら降りてきたモッチの手には、一番のお気に入りの紫色のフジュの特大はちみつ玉がありました。それをそうっと金細工のモッチに持たせます。満足そうに眺めると、モッチはグラシーナさんに「ぶぶいん♪」とお礼を言いました。


「あ、ありがとう!気にってくれたの?」

「ぶっぶい~~~ん!」

 モッチが嬉しそうに金細工モッチの周りを飛んでみせると、グラシーナさんはうれし涙を浮かべながらガッツポーズを取っています。

「良かった。モッチ殿、良かったですな」

 ゲルードが嬉しそうにモッチに声をかけると、みんなも周りでうなずきました。


 モッチが無事に戻ったことで、スズロ王子とカモミラ王女の結婚式のからくりも予定通りに作られることになりました。モッチは魔リスさんたちのためにたくさんのはちみつ玉を用意することになりました。

 それから、もっともっと大切な役目も、ホペニと一緒に喜んで引き受けました。





 ******





 スズロ王子とカモミラ王女の結婚式の日がやってきました。


 厳かな式が行われ、幼いころからの想いを実らせた二人は、永遠の愛を誓い合いました。式の後には、城に面した広場で民へのお披露目を兼ねて祝祭が開かれます。若い二人を祝おうと、大勢の人たちが広場に集っていました。広場の真ん中には、ノーランドクローバーの青い花畑を模したからくりが置かれていました。その真ん中には、豊穣や繁栄を象徴して1本の大きなマグノラの木のからくりが立てられています。木にはたくさんのマグノラの白い花の蕾がついていました。

 やがて、スズロ王子とカモミラ妃が広場に面したバルコニーに現れると、広場は歓声に包まれました。

 それを合図に、マグノラの木のからくりの中で魔リスさんたちが走り出し、くるくると勢いよく歯車が回されました。魔リスさんたちは、それぞれお気に入りの蜜の味のはちみつ玉で頬を膨らませています。美味しくて元気の出るはちみつ玉のおかげで、からくりの仕掛けは好調に動き出しました。まずは、足元のノーランドクローバーの青い花が、風に吹かれるように優しく揺れ始めました。木の枝では、たくさんのマグノラの白い蕾がゆっくりと開き始めます。開いた蕾から、これまたたくさんのノーランドスノーブルー蜜蜂と古の森のクマン魔蜂たちが飛び出してきました。一匹一匹に、キラキラとした虹色の細いリボンが結ばれていて、マグノラの木を中心に一斉に虹の光が広がっていくように見えます。蜂がすべて飛び立つと、からくりで花がすっかり開き、白いマグノラの花が豊かに木を飾りました。

 ひときわ大きな花から飛び出したモッチとホペニは、1本の太い虹色リボンを二匹で仲良く持っています。その虹色リボンには、二つの指輪が通されていました。

 モッチとホペニは、虹色リボンを大事そうに掲げて、スズロ王子とカモミラ王女のもとへ飛んでいきます。二匹はうっすらと魔力をまとい、まるで金色と銀色の光に支えられた虹が、二人のもとに伸びていくようでした。

 見つめあった二人がお互いの指に指輪をはめ、スズロ王子がカモミラ妃の額に口づけを落とすと、集まった人々の歓声がいっそう大きくなりました。



「ぶいん」

 大役を終えたモッチが、スズロ王子の肩に乗ったポポンにあいさつします。大好きな人の笑顔を喜ぶポポンの姿は、光り輝いて見えました。ほわほわした髪も明るい金色に輝いて揺れています。その気持ちを表すように、辺りに金色の綿毛が飛び交いました。広場中をたんぽぽの綿毛の金色と、蜂たちの虹色が漂って、人々の祝いの歓声が長く長く響いていました。





 *****





「ぶふぃい~ん♪」

 結婚式の祝祭も無事に終えて数日後のこと、古の森でモッチはご機嫌で何かを磨いていました。揺れる木漏れ日が、モッチのお気に入りの品をよりいっそうきれいに見せてくれています。


 それは、丸みを帯びて金色に輝く、とても素敵な宝物。

 黄色のフサフサに、丸いお腹、つぶらな瞳、小さくてかわいらしく薄い羽根まで忠実に再現されている、原寸大モッチの金細工。手にはお気に入りのフジュのはちみつ玉が乗っています。

 大好きな宝物を眺めながら、モッチは「ぶぶい~ん♪」と幸せそうな羽音を立てました。

 大好きなものがあること、大好きな人がいることって、とても幸せで素敵な気分です。モッチの羽音に返事をするように、金バッチが胸元でキラリと輝きました。


 まだまだこれからも、素敵な物や素敵な人との出会いがたくさん待ってるはず!

 愛と勇気と情熱のクマン魔蜂のモッチは、未来への期待に、大きく羽を震わせました。


 ぶっぶい~ん♪




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