クマン魔蜂さんのひとりブンブン(後)

 突然すっ飛ばされて、銀色蜜蜂は驚きましたが、すぐに体勢を整えて凄い勢いで戻ってきました。


「ブブブブブブーーーーーーン!」


 銀色の蜜蜂がモッチに体当たりをかけます。


「ぶいんっ」

 けれどモッチは大きな身体をひらりとかわして、銀色の攻撃をやり過ごしました。


「ブン!ブブブブブブブーーーーーン!!」

 銀色蜜蜂がもう許さん!とばかりにお尻から針を出しました。それを見てカモミラ王女があわてて止めます。

「ダメよ!ダメよ!ホペニ!やめなさい!」

 そう言って銀色蜜蜂を両手の中で包み込み閉じ込めました。


 ホペニ?モッチは首をかしげました。それってあの銀色蜜蜂の名前でしょうか?ブイ~ンと飛んで、カモミラ王女の手の上に降り立つと、手の中で暴れている銀色蜜蜂に話しかけます。


「ぶぶん?ぶぶぶ、ぶぶん?」


「ブン!ブブブブブン!?」


「どうしたら良いんでしょう?ホペニを外に出しても大丈夫かしら?」

 手の中と外で羽音の会話を始めた蜂たちに困惑して、カモミラ王女がつぶやきました。


「まあ、ちょっと様子を見ていてごらん。今、モッチがその礼儀知らずに挨拶を仕込んでいるところさ」

 マグノラさんはそう言うと、もらったばかりの枕をポンポンと整え、顎をのせると丸くなってしまいました。


 カモミラ王女は、手でホペニを捕まえたままオロオロとしていましたが、ドーテさんに「ま、ちょっと待ちましょう」と声をかけられると、諦めたようにその場に座り込んで、蜂同士の話し合いが済むのを待つことにしました。



 モッチは王女の手の中の銀色に話しかけます。マグノラさんが眠ってしまったので、ここから先は会話を翻訳しつつ見守りましょうか。


「ぶぶん?ぶぶぶ、ぶぶん?(あんた、ホペニって言うの?)」

「ブン!ブブブブブン!?(あ?なんだよ気安く呼ぶんじゃねえよ!?)」

「ぶぶん、ぶんぶん、ぶぶい~~ん?(あたし、モッチ、なんでそんなにツンツンしてんの?)」

「ブン!ブブブブブン!ブブブブブン!(はっ!なんだよ、いきなり皆で取り囲みやがって!俺ぁ負けねえぞ!)」


 どうやら、ホペニは一生懸命強がっていたようです。


「ぶん?ぶぶぶん、ぶぶぶん。(みんなあんたと友達になりたかったんだよ。あんたすごくきれいだからさ)」

「……ブ、ブ~ン(……そ、そうなのかよ)」



 暴れていたホペニが静かになってきたので、カモミラ王女はそお~っと手を開いてみました。ゆっくりを手を広げていくと、ホペニがおとなしく手のひらに止まっています。


「良かった。何か良くわからないけど、大人しくなったわ」

 王女がホッとしてつぶやくと、ホぺニがブイ~ンと飛び上がって、モッチのそばに行きました。モッチも飛び立つと二匹で一緒に、遠巻きになっていた蜜蜂たちのところまで飛んでいきます。


「どうやらご挨拶を覚えたようだね。ホペニとやらは」

 いつの間にか片目を開けてその様子を見ていたマグノラさんがつぶやきます。マグノラさんの言うとおり、ホペニはさっき強がって追っ払ってしまった蜜蜂さん達にご挨拶をしてまわりました。




 ノーランドスノーブルー蜜蜂であるホペニの棲む蜂の巣は、ノーランドの王宮の奥にある森の中にありました。ホペニはにはたくさんのきょうだいがいますが、上は全部お姉さん。ホペニは、一番末っ子の甘えん坊さんだったのです。同じノーランドスノーブルー蜜蜂の中でも、ホペニ達は「王宮蜜蜂」と呼ばれ、他の蜜蜂とは少し違っていました。ホペニ達の集める蜜には魔力が含まれているのです。その魔力をさらに集めて特別なはちみつを作ることができるのが、ホペニ達のおかあさん、つまり女王蜂でした。


 今回、カモミラ王女がバルデーシュ国へ出かけると聞いて、その女王蜂がノーランドの王様に頼んできたのです。甘えん坊の末っ子を外に出して鍛えてほしい、と。友好国のバルデーシュならば、末っ子ホペニを鍛える場所としてはうってつけ、女王蜂はそう考えたのでしょう。カモミラ王女の髪飾りとして特別な魔法をかけたノーランドスノーブルーの花と一緒に、ホペニはドキドキしながら初めての外国へやってきたのでした。


「ブ、ブブン、ブブン(さっきは脅かしてごめん。俺、ホペニ、よろしくね)」


 モッチと一緒にまわりながら、ホペニは蜜蜂さん達に謝りました。もともとすごく綺麗な姿をしていて、みんな友達になりたくて集まっていたんですから、ホペニが素直になるとすぐに蜜蜂たちが群がってきました。


「ブ、ブンブン!」

 ホペニはおびえてモッチの後ろへかくれました。


「ぶい~ん、ぶい~ん」

 大丈夫大丈夫となだめられて、ホペニは再びおずおずと皆の前に姿を現します。マグノラさんの森の蜜蜂たちは、ホペニの周りで楽しそうに飛び回っています。数の多さにビックリしていたホペニも、だんだんと楽しい気持ちになってきて、モッチと一緒に飛び立ちました。



 たくさんの蜜蜂たちにマグノラさんの森の中を案内してもらいながら、ホペニはここに来て良かったなぁとしみじみ思いました。一匹で巣から離れるのは怖かったけれど、よその蜜蜂はみな親切です。


 特に、隣を飛んでいるモッチには助けられました。


「ブ、ブブン、ブブブブブイ~~~~ン(あ、あのさ、良かったら今度俺ん所へ遊びに来なよ)」

「ぶん?ぶんぶん!ぶい~~~ん!(え、本当?良いな!行ってみたい、そのうち行くよ!)」


 それを聞いてホペニは嬉しくてモッチの周りをぐるぐると飛び回りました。ノーランドは国土のほとんどを雪に覆われた北の国です。蜜蜂もそれほど多くはいません。だから、断られるんじゃないかな?とちょっと心配だったんです。でも、モッチは二つ返事で行くって言ってくれました。



 モッチはお出かけするのが大好きなんです。外には外のお花があり、蜜がある。モッチはまだ見ぬノーランドの花々を想像して、遊びに行くのがすごく楽しみになりました。あ、でも、遠くへ行くならまた黒ドラちゃんやドンちゃんと一緒に、ゲルードの馬車を使わせてもらわなきゃいけないかも。それはまたその時考えよう。


 なんてったって、明日は明日の花が咲く。


 また新しい冒険と花と蜜が自分を持っていると思うと、モッチは嬉しくて、ひときわ高くぶい~~~ん!と飛び上がるのでした。






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