第77話-マグノラの花

 楽団が流れるように演奏を始めました。スズロ王子がカモミラ王女の手を取り、広間の中央に進みます。二人が一番初めのダンスを踊り始めました。


 さあ、舞踏会の始まりです!二人は一曲踊り終えると、王族の席へと戻っていきました。そのまま演奏が続いて、たくさんの白いドレスの娘さんたちが踊り始めます。この舞踏会でデビューする娘さんたちです。黒ドラちゃんもブランに手を取られて踊りの輪に加わりました。ブランがくれた魔石の靴と、キラキラ光るドレスのおかげで、まるで自分もお姫様になったような気持ちになりました。黒ドラちゃんにとって、あっという間に初めてのダンスが終わりました。ブランと一緒に、一度踊りの輪から外れると、入れ替わりにそれまで周りで見ていた人たちが踊り始めます。

 すると、その中に、見覚えのある顔がありました。ラウザーです。今日は南の地方の正装だと思われる格好をしています。金糸の刺繍の入った丈の短い上着に、ダボッとしたズボン、髪が赤に近い鮮やかなオレンジ色なので、目立ちます。ん?見たことの無い、ものすごく綺麗な女の人をエスコートしています。女の人のドレスは、この辺では見かけたことの無い作りをしていました。とても美しい柄の、まっすぐな布を組み合わせたようで、胴を太い帯で締めています。帯にも金糸銀糸で非常に複雑な模様が刺繍されています。背中の方で何だか難しい形にまとめられていて、そんなの黒ドラちゃんは初めて見ました。

 どこかのお姫様でしょうか?周りで踊っている人たちも、ラウザーと女の人をチラチラ見ている人がたくさんいるので、やはり珍しいのでしょう。

「ブラン、ラウザーと一緒に踊ってる綺麗な人だれ?」

 黒ドラちゃんはブランにたずねましたが、ブランも首をひねっています。

「あいつ、あんな綺麗な知り合いがいるなんて、一言も言ってなかったよ」

 見ていると、ラウザーはすっかり女の人にデレデレになっているようです。ボーっとして、時々尻尾が出てきます。でも、周りの人がえっ!?と思った時には、何か一瞬光が見えて、ラウザーがビクンとして尻尾が引っ込むのです。その繰り返しを見ていて、黒ドラちゃんはおかしくなってしまいました。


 踊りが終わり、ラウザーがこっちに来ました。

「ねえ、ねえ、ラウザーその人綺麗だねー!どこのお姫様?」黒ドラちゃんが無邪気にたずねると、ラウザーが尻尾をニギニギし始めました。あ、これラウザーが嘘ついているときのパターンでは……。と、突然ピカッと光が見えて、ラウザーが「ピャッ!」とか声を上げました。とたんに尻尾が引っ込みます。

「ラ、ラウザー、今のなあに?」

 黒ドラちゃんがびっくりすると、ラウザーがあわてて答えます。

「えっと、こちらはライ、じゃなくてラキさん、じゃなくてラキ様。砦で知り合ったんだ!」

 なんかさっきの質問は流されたようです。

「ラキ様?どこかのお姫様なの?」

 黒ドラちゃんがたずねると、ラウザーはものすごくわざとらしく目を泳がせました。

 そして「あ、あそこに俺の知り合いがいるー!」とか言ってラキ様の手を引いて逃げるように行ってしまいました。

「ブラン、なんかああいうラウザーって見覚えあるよねえ?」

 黒ドラちゃんがつぶやくと、ブランがため息交じりに答えました。

「ああ、ある。つい最近、あるね。これは、後でもう一度きちんと話を聞かなくちゃね」

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