5章*見つけるのって大変なんだ!の巻
第62話-まだかなあ
マグノラさんは、白いお花の森のお花畑の真ん中で、のんびりとお昼寝しています。すると一匹の蝶がひらひらと飛んできました。白い大きな羽に水色や黄色や紫の細かい模様が少しだけ入っている、綺麗なノーランド白アゲハでした。
白アゲハはひらひらと舞いながら、マグノラさんの鼻先へすいっと、とまりました。そして、まるで何かをささやくように、羽をひらひらとさせると、またす~っと飛んでいきました。マグノラさんはうっすら目を開けて、白アゲハを見送りながら、かすかにうなずいたように見えました。そして、尻尾をユラユラと振って、またすぐ眠りについてしまいました。マグノラさんの周りのお花が淡く輝いて、うっとりするような香りが辺りを包みました。
*****
今日の古の森は、何だかザワザワしています。それは森の主の黒ドラちゃんが朝からソワソワしているからかもしれません。黒ドラちゃんは、さっきからもう数えきれないほど何度も湖に映る自分の姿を覗き込んでいます。今日のドレスは、ちょっぴりお姉さんぽくなった黒ドラちゃんの為に、新しくブランがこしらえてくれたものです。薄い緑色の生地をたっぷりと使ったふわっとした形で、長さはくるぶしが隠れるくらい。黒ドラちゃんの若葉色の瞳を引き立てる、菫色のリボンとお花の飾りが可愛らしく付いています。ところどころキラキラと輝いて、ブランの魔石が今回もたっぷりと使われています。胸元にはエメラルドのネックレス。長くなった黒髪をまとめているのも、同じくエメラルドの髪飾りです。
また湖を覗き込んでいると「黒ドラちゃん!」と呼びながら、ドンちゃんが後ろからぴょぴょんぴょーんと跳ねてきました。
「ドンちゃん!おはよー!」
黒ドラちゃんはすぐに振り向いてドンちゃんを抱っこしました。
「わあ、黒ドラちゃん、今日はすごく可愛いよ!ブランのくれたドレスでしょ!?それ」
「うん。ドンちゃんのリボンも素敵だね!」
ドンちゃんのお耳には紫のキラキラしたお花の形のリボンが巻かれています。黒ドラちゃんのドレスのお花とお揃いになっていて、これもブランの新作です。なんだか、今日は二人(?)ともおめかししてますね、いったいどうしたんでしょう?
「もうそろそろかな?」
「そうだよね?ねぇ黒ドラちゃん、ちょっと様子を見に行ってみない?」
「うん!そうしよう!森の外れまで迎えに行ってみようか?」
と、竜の姿に戻ろうとして、黒ドラちゃんはハッと気づきました。
「ドンちゃん、あたしドレス着たままじゃ竜に戻れない。でも、このドレス脱ぎたくないし……」
「そうだった。やっぱりブランに言われた通り、ここで待っていようか」
そうなんです、今日はブランが来てくれるんです。でも、黒ドラちゃんとドンちゃんがおめかししてソワソワしているのはそれだけが原因じゃありません。今日は、なんと!古の森にキラキラしいスズロ王子が遊びに来てくれるのです!!
前にお城に行った時に、遊びに来てくれると約束しましたが、やはり王子様って忙しいらしく、ようやく今日来てくれることになったのです。王子様が来てくれるというので、黒ドラちゃんもドンちゃんもオシャレして待っているのです。ブランが「可愛い姿で森の外にいると、悪い虫が飛んでくるから、森の中で待っていて」と言ったので、そわそわしながら待っているところです。虫なんていたって、古の森にもクマン魔蜂さんがいるし、きっと追っ払ってくれるよ、と黒ドラちゃんは言いましたが、ブランはダメだと言って聞いてくれませんでした。
「まだかな~?」
「まだかな~?」
黒ドラちゃんとドンちゃんが、もう待ちきれないからドレスを脱いで森の外れまで行っちゃおうか!?と話していると、少し離れたところからブランの声が聞こえてきました。
「黒ちゃーん、来たよー!」
木々の間から、ブランの白くてキラキラした体が見えてきました。
「ブラーン!こっちこっち!」
黒ドラちゃんとドンちゃんは一緒にぴょんぴょん跳ねて手を振りました。がて、湖のほとりにブランが降り立つと、その後ろの方からガチャガチャとした音をさせながらゲルードと鎧の兵隊さんたちが現れました。そして、その後ろを白馬に乗った王子様が!
「きゃーっ!スズロ王子!」
黒ドラちゃんとドンちゃんはスズロ王子の姿を見て駆け出しました。王子は馬から降りると、駆けてきた黒ドラちゃんとドンちゃんを両手で受け止めてくれました。
「スズロ王子、ようこそ古の森へ!」
黒ドラちゃんはドンちゃんと一緒に王子に抱き上げられて、頬を染めながら歓迎します。その後ろでは、ブランがしょんぼり尻尾を揺らしながら「あれは人間、あれは人間の中で限定1位……」とかぶつぶつ言っています。
「古の森にお招きいただきありがとう。ここは本当に美しいね」
そう言って王子は湖の周りをぐるりと見渡しました。
「それにこの森の主も住人も、とても可愛らしい」
そう言って黒ドラちゃんとドンちゃんの頭を撫でてくれます。王子の笑顔がキラキラと輝いて、まるで魔法にかかったように黒ドラちゃんとドンちゃんはポ~っとなってしまいました。
「スズロ王子、今日は大切なご用事があったのでは?」
ちょっとツンツンした声でブランが声をかけてきました。
「ああ、そうだった。ゲルード、来てくれ」
王子がそういうと、ゲルードが進み出て片膝をつくと、王子に何か薄くて白い四角いものを渡しました。
「黒ドラちゃん、ドンちゃん、どうかこの招待状を受け取ってくれませんか?」
王子は優しく微笑みながら、四角いものを目の前に差し出します。
「えっ!?しょうたいじょうって?」
黒ドラちゃんとドンちゃんは四角いものを受け取るとお日様にすかしたり、くんくんにおいをかいでいます。表には人間の使うというもので何か書いてあり、裏には丸い模様で封蝋がされていました。
「黒ちゃん、それはお手紙だよ。ほら、中に入っているから見てごらん」
いつの間にか人間の姿になったブランが、四角い封筒からお手紙を出してくれました。
「ええっと……ブラン読んで?」
黒ドラちゃんは、こう見えてもまだまだお子様です。人間の文字はまだ読めません。眉を下げながらお願いするとブランがすぐに手紙を受け取って読んでくれました。
「このお手紙にはね、お城でとても大きな舞踏会、みんなでダンスをする集まりがあるので、ぜひ来てください、って書いてあるよ」
「ダンス!?」
「ダンス!?」
黒ドラちゃんとドンちゃんは、びっくりして顔を見合わせました。
「ダンスって、お城の中でお姫様と王子様でくるくる踊るやつでしょ?」
黒ドラちゃんがブランに尋ねると「まあ、そんな感じだね」とブランが答えてくれました。
「あたしたち、お姫様じゃないのに王子様と踊って良いの!?」
ドンちゃんがスズロ王子に、目をウルウルさせながらたずねます。
「いや、ダンスはお姫様だけのものじゃないよ。それに、私とだけ踊るってわけじゃない」
王子が笑いながら答えてくれます。
「そうなの?」
「ああ、他の招待客、もちろん竜もね、それぞれ好きな相手と踊って良いんだよ」
スズロ王子にそう言われて、黒ドラちゃんは想像してみました。
お城の中で音楽が流れています。黒ドラちゃんはお姫様のような恰好をして、ドンちゃんを頭に乗せています。ドンちゃんもきれいなリボンをつけています。そこへスズロ王子が現れました。
「黒ドラちゃん、ドンちゃん、私と踊ってください」
そう言って、黒ドラちゃんの手をとって優雅に踊り出します。そして――――
「あのね、竜同士で踊ったって良いんだよ?」
ブランの一言で、パッと頭の中のお城が消えちゃいました。
「そっか!あ、ブランも舞踏会に招待されてるの?」
「ああ。今度の舞踏会はこの国の竜は皆招かれているよ」
「じゃあ、マグノラさんやラウザーも来るの!?」
「ああ、多分、それぞれ人の姿になってくると思うよ」
「あたし、マグノラさんが人間になったところって初めて見る!」
黒ドラちゃんが叫ぶと「あたしも!あたしも!」とドンちゃんもタンタンしながら声をあげました。
「ああ、華竜殿はあまり白い花の森の外には出てこないから。私も一、二度しかお会いしたことはないよ」
ブランとのやり取りを聞いて、スズロ王子が答えてくれました。
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