第44話-お祈りに行こう

「マグノラさん!お祈りに来たよ!」

 黒ドラちゃんの背中から、ドンちゃんが元気に言います。

「おやおや、威勢の良いお祈りもあったもんだね」

 マグノラさんが笑いながらドンちゃんを抱っこしてくれました。

「ラウザーが、海に誘ってくれたの!」

 黒ドラちゃんもうれしそうに言います。

「そうかい、良かったね」

 そう良いながらマグノラさんがラウザーを見つめました。ラウザーは、また尻尾をキュッ!ゆる、キュッ!ゆるっとしています。


「ラウザー坊や、お前のことを信じているよ」

 マグノラさんはそれだけ言って、黒ドラちゃんたちのほうへ向き直りました。

「可愛い女の子たちの海への旅が、楽しいものでありますように」

 そう言ってマグノラさんが尻尾を振ると、あたりの花の香りがいっそう強くなりました。そして黒ドラちゃんにドンちゃんを渡しながら「旅にはクマン魔蜂を連れてお行き」と言いました。

「クマン魔蜂さんを?」

「ああ。海のそばには、森には無いような珍しい花があるかもしれないからね」

「うん、わかった!マグノラさんにも貝がらのお土産もってくるね!」

 黒ドラちゃんが約束します。

「じゃあ、楽しみに待っているよ、気をつけていっておいで」

 そう言ってからブランに向かって「ブラン坊や、チビちゃんたちのこと頼んだよ」と言いました。


 一通りお話して気が済んだのか、マグノラさんはどっこいしょとその場で丸くなりました。

「もう、お昼寝しちゃうの?」

 ドンちゃんがたずねると、マグノラさんが答えてくれます。

「もうすぐここに初めてのお産を迎える娘たちがくるんだよ」

「へー」

「一人や二人じゃない。色々な村から集まってここまでお参りにくるんだ」

「みんなで集まってくるの?」

「そうだよ。人間のお産は、海の潮の満ち引きに従うのさ。だから生まれるときが重なることはよくあるんだよ」

「そうなんだあ。じゃあ、マグノラさんはその人たちを待ってるの?」

「ああ、そうさ。こうしてのんびり魔力を練り上げて、娘たちが持ち帰る花にふりまいておくのさ」

「ここのお花畑のお花に?」

「ああ、持ち帰ってお産のときに髪に挿すんだって。安産のお守りとか言って欲しがるからさ、用意しておいてやるんだよ」

 そういって、マグノラさんは丸くなって目を閉じました。マグノラさんの体から、ゆっくりとキラキラがあふれて、周りのお花に降りかかります。

そうすると、お花たちはいっそう良い香りを放ちます。黒ドラちゃんたちは、マグノラさんの邪魔をしないように、静かに白いお花の森を後にしました。


 古の森に戻ると、黒ドラちゃんはクマン魔蜂さんの巣に向かいました。

ドンちゃんは明日のことをお母さんに話すためにおうちに戻ったし、ブランとラウザーも積もるお話があるって言って二人で北の山に帰っていきました。

 黒ドラちゃんがクマン魔蜂さんの巣に行ってみると、マグノラさんのところに遊びに行ったこともある大きな1匹が、巣から出てきました。

「あのね、あたし、ドンちゃんと一緒に明日海にお出かけするの!」

「ぶんぶん」

「それでね、もし良かったらクマン魔蜂さんも一緒にお出かけする?」

「ぶ!ぶぶぶ~~~~ん!」

「うん、きっと楽しいよ、珍しいお花も見つかるかもしれないし!」

「ぶんぶんぶ~~~ん!」

 クマン魔蜂さんは誘われて大喜びのようでした。明日の朝一番で黒ドラちゃんの洞に来てくれると言っています。


「じゃあ、明日ね!」


 黒ドラちゃんは明日のことを考えるとわくわくしちゃって眠れないかも!?と心配でしたが、夜になったらすぐに眠くなって朝までぐっすりと眠れました。


 翌朝、黒ドラちゃんは耳元でぶんぶん飛び回るクマン魔蜂さんに起こされました。

「おはよう……」

 まだ寝ぼけ眼の黒ドラちゃんに、早く早くと言うようにクマン魔蜂さんが体当たりしてきます。

 洞の中から出てみると、ちょうどお日様が出てきたところでした。森の色々なところがキラキラと光って綺麗です。

「さあ!今日は海だよ!きれいな貝がらたくさん拾うよ!」

 黒ドラちゃんも気合が入ります。でも、まずはドンちゃんを迎えに行かなくちゃ。黒ドラちゃんはクマン魔蜂さんを頭にのせると、ドンちゃんのおうちまで飛んで行きました。ドンちゃんのおうちの巣穴の上で「ドンちゃーん!おはよー、迎えに来たよー!」と声をかけると、ちょっと離れた巣穴からドンちゃんが顔を出しました。

「黒ドラちゃん、こっちこっち!」

 そう言いながらドンちゃんが巣穴の中から出てきます。その後からお母さんが葉っぱの上に載った、たくさんの木の実を運び出してきました。

「うわあ、すごいね!それどうしたの?」

 黒ドラちゃんがたずねると「おやつだって!」とドンちゃんが嬉しそうに答えました。

「きっと海を見ながら食べる森の木の実は一段と美味しいわよ」

 そう言って、ドンちゃんのお母さんは何枚もの葉っぱを巣穴から運び出してきます。

「たくさんあるねー。そうだ、この間ゲルードからもらった白い布に包んでいこう!」

 黒ドラちゃんがどこかから布を取り出すと、クマン魔蜂さんが布に体当たりしてきます。どうやらゲルードのことを思い出したようです。

「クマン魔蜂さん、もう許してあげようよ。あんなにいっぱいお花も植えてくれたんだしさ」

 黒ドラちゃんがそう言いながら木の実を次々に布に載せていきます。クマン魔蜂さんも気が済んだのか、大きめの木の実を持ち上げて、ぶーんと飛んで布の上に落としました。


「じゃあ、木の実が美味しいままで運べるように、魔力をこめて、黒ドラちゃん」

 ドンちゃんにお願いされて、黒ドラちゃんは想像しました。

――海辺でドンちゃんやブラン、ラウザーと並んで座っています。

大きなお魚さんが、ザッブーンと海の中から跳ねました。

それを眺めながら、みんなで木の実をお口いっぱい頬張って食べています。

木の実は新鮮で甘酸っぱくて採れたてのようでした――

「美味しい~~~~っ!」

 黒ドラちゃんがそう叫んだとたんに、木の実がいっせいにポワンと光りました。どの実もツヤツヤと美味しそうです。


「きっとこれで、海でも美味しく食べられるね!」

 ドンちゃんが嬉しそうに言いました。




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