18. お祈りと聖域


クリスティーナとソレイユが城の中庭で茶番をした日から数日後。あの日の事は城内で働く者達の間で天使様に国が救われた日などと大袈裟に呼ばれるようになっていた。



【エルデイン王国首都トリスティナ・中央区1番地1-5(青薔薇宮3階)】



朝、仕事に行く前のソレイユがクリスティーナとお茶を飲んでいた。


「ティーナ、今度のお披露目パーティで1つティーナにお願いしたい事があるだけどいいかな?」


「お願いしたい事?………あぁ、それくらいなら精霊達にお願いするだけだしいいわ。やってあげる。」


ソレイユが詳しい説明をする前に未来視で答えを知ったクリスティーナがソレイユの案に同意した。


「話が早くて助かるよ。ありがとう。」


「けど、そこまでする必要あるかしら。エルデインは大国なのだし力を見せておくのも必要な事なのはわかるんだけど。」


「特別何かがあるわけじゃないよ。ただの余興だ。他国では決して真似出来ない素敵なものになるだろう?」


「そんなに張り切らなくても…。」


元々クリスティーナは目立つことが好きでは無いのでソレイユが既にいろいろな所に注文をしているあれこれが無駄な事に思えて仕方なかった。


「とりあえずドレスは何枚も必要ないからこれ以上注文しないでちょうだいね!」


「あれくらいでどうにかなる事はないからティーナがそんな事気にしなくていいのに。」


「山ほどあっても私は1人しか居ないのだから1日に1着しか着れないのよ!余分にありすぎてももったいないだけだわ。」


流行もあるからたくさんにあっても来ないまま終わるだけなのにソレイユは何かにつけて大量の贈り物を贈りたがる。


「それは残念。」


何か対策を考えてある程度で止めておかないと際限なくなっていきそうね。ちょっと考えみようかしら。


「そうだ。ティーナ、明日街にデートにいかない?この3年でいろいろと変わったんだよ。」


街、ね。

どうしようかしら…。#私__わたくし__#の見た目…すごく目立っちゃうようになってしまったし、人混みはあまり好きじゃないのよね。

まあ、でも…この人が一緒なら大丈夫かしら。


記憶を思い出してからは常に背の羽を消しているクリスティーナだが、神様オーラが邪魔なのは確かなのだ。


「……ソルも一緒なのよね。それならいいわよ。」


「よかった。明日が楽しみだね。」


そんなに嬉しそうにされたら何も文句言えないじゃないの。


「……そうね。」


クリスティーナはこれ以上何も言えなくなってしまいただそれだけ返事した。





この後すぐに仕事があると城へ行ったソレイユを見送ってから、クリスティーナはここ数日で日課となりつつある青薔薇宮の庭に出た。


澄んだ冷たい空気を思いっきり吸い込むとスッとした気持ちになる。早朝で肌寒い庭には朝露が降りていて朝日によってキラキラと輝いている。そんな朝の庭を精霊達は元気に飛び回り、周囲の植物に魔力を与えていた。


ゲームにも名前だけは出てきていたこの青薔薇宮という場所。

"蒼月宮"とも言われることのあるこの宮はこの国が建国された時に当時の王が最愛の妃に送ったと言われる建物だ。歴史を感じるのに古臭くなく美しい建物。それに、宮の名前にもある通り、青い色の花々をメインに白や黄色の花もバランスよく植えられていて、それが純白の建物によく映えてとても美しい。


「今日もよく晴れそうね。」


クリスティーナはそう言って庭の真ん中まで来ると両手を胸の前で合わせて握り、目を閉じる。森でやっていた朝のお祈りをこの国に来てからも続けていたからだ。


「"今日という日が…この世界で生きる、全てのもの達にとって…実りある日と、なりますように"……。」


ゆっくりとお祈りの言葉を口にするクリスティーナ。

このお祈りの時だけは大陸中から精霊達がクリスティーナの元へ集まってくる。精霊の王にお願いされてやるようになったこの習慣は精霊達が元気になるらしい。

そしてクリスティーナ本人は毎回目を閉じているので気づいていないが、この精霊大集合な朝のお祈りは見た目にも大変派手で、これをこの青薔薇宮で初めてやった日の朝は仕事のために城に向かったはずのソレイユが慌てて帰ってくるという事態が起こったほどである。

実は精霊の森の最深部が神域になりかけている原因なのだがクリスティーナはそんな事とは知らないのでこの国に戻ってきてからも普通に続けていた。

元々特殊な土地だった精霊の森の最深部とは違って、この宮が神域になる事はないがクリスティーナの毎朝のお祈りで浄化されているのでこの数日だけで聖域と言えるまでになりかけていた。

澄んだ空気と生命力が溢れる植物達はここ数日のうちにこの宮を訪れた者たちの中で噂となり、仕事の休憩の合間にわざわざ宮の前まで来て祈りを捧げる者までいる始末だ。

そして、そうやって祈りを捧げられる事でこの宮は通常よりもはるかに早い速度で完全な聖域へと変わろうとしていた。


「…これでよし!さてと、今日も1日頑張りましょうか。」


クリスティーナがそう言った瞬間、クリスティーナの周囲の精霊達も『がんばる〜』などと言ってはしゃいで飛び回る。


その度に魔力の欠片が空気中に溶けているがそれを知っているのはこの宮で朝に働く数人の使用人達だけだった。



^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-^-


ここまでお読み下さりありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る