3話 残された赤槍たち

 残された赤槍たち




 あれ、皐文と皐月がどこか行ったわね。でも、今は手が離せないし、まあしょうがないかしら?


「お姉ちゃん。今度はドッチボールしよ!」


「ええ、いいわよ。じゃあ、フィールドをセットして、立体映像のボールを作って、それで、当たり判定の設定っと。これでいいわ。じゃあやるわよ!」


 即席のコートを作って、ボールも用意した所で、ドッチボールを開始。私が入るとパワーブレイカーになるから、審判(AIに任せることも可能ではある)という名目で見ている。子供たちは楽しそうにドッチボールを始めて、数秒。


「お姉ちゃん! 今のカッコいいだろ!」


「ええそうね。かなり良かったわよ!」


 親指を立てて、よかったことをほめると、男の子はすごく喜んだ。まあ、当たらなかったんだけどね! でも確かにかっこいい投げ方だわ。


「次は、うまく当たると良いわね。じゃあ、試合再開よ」


 次々に、ボールに当たっていく子供たち、怒る子もいれば、喜ぶ子、悔しがる子、色々いる。けど、皆楽しそうで良かったわ。2か月前ぐらいはここが戦場になっていて、大変だったっていうのに……。


「お姉ちゃん、今の疑惑の判定だよ! ビデオ判定お願い!」


「ん? 良いわよ」


 コート内の光景を立体映像で問題部分を再生っと。


「そうここ、ここ」


「ほら当たっているじゃん」


「そうね、残念だわ」


「えー本当だ」


 皆が思い思いの言葉を発して、360度から見ている。そして、


「じゃあ、青チームが全滅したから、赤チームの勝ちね。じゃ、今日はここまでよ。また明日ね」


「えー、もっと遊ぼうぜ」


「いや、あそこの時間見なさいな。もう、5時よ」


「あ、やべっ。母ちゃんに怒られる! じゃあなー」


「またね」


「バイバイ」


皆思い思いの挨拶をして、帰っていく。その中に一人、


「お姉ちゃん。少し話聞いてくれる?」


 と女の子が残っていた。


「ん? 何かしら?」


「あのね、私、今飛龍に乗っているの」


 ん? って事は、


「もしかして、貴女、礼華の所の子?」


「当たりだよ。私、メアリーって言うの。伝令で、来たんだ」


「分かった。で何を伝えに来たのかしら。機工でもいいんじゃないかしら」


「盗聴が怖いから直接来たの」


「ならこっちに……」


 確かに、メアリーって名前には憶えがある。でもその子の顔は覚えていない。だから、基地に連れて行くわけにはいかないわね……。なら、


 近くにあった、洋館に入ると、地下室を見つけて、メアリーと話すことにした。


「で、伝言は?」


「えっと……あった、この紙だ。私たちは、復讐のために、2日後に機械世界に攻撃を仕掛ける。あなたたちにも協力して欲しい。って礼華が言っていたよ」


「成程、なら3日後なら手伝える。そこまで突撃は我慢してって伝えて、連絡方法はこちらの、電話で」


電話とアドレスを書いて紙を渡す。けどそれを受け取った手は震えていて、


「どうしたのかしら? 震えているわよ」


「ねえ、敵も討ちたいのに、戦いたいのに震えて、動けないの、どうすればいいのかな」


 そっか、この子たちは戦いを避けてきた子たち。戦いが怖いんだ。


「大丈夫よ。今回は補給路の防衛をお願いするようにするから大丈夫よ。ただ、礼華は戦ってもらうけど」


「礼華お姉ちゃん、死なない? 嫌だよ! ウエアお姉ちゃんみたいに、居なくなっちゃうのは……!」


 そうよね。戦いで、ウエアは死んだことになっているのよね。だから怖いわよね。


「ええ、礼華は大丈夫。作戦で一番楽そうなところを割り当てるわよ。そう皆に相談するわ」


 今皆で立てている作戦の中で、人員が足りていないし、補給も心もとない、まあヴィーナスが食料以外は何とかしてくれるって話だけど、食料補給はこれで何とかなりそうね。まあ、そこまで大量に要るか分からないけど、後は、脅しになってくれるって所かしら、それの護衛に礼華をつければ、結構安心なのでは?


 そんな、考えを巡らせつつ、


「あ、ありがとう。なら今から、礼華お姉ちゃんのとこに帰るね」


「じゃあ、見送りに行くわ」


「うん」


 少女見送り中、あれ、山の方に行くの?


「皆この山にいるの」


「成程、案外近くに潜伏しているのね。でもどうして私たちがここにいるってわかったのかしら?」


「えっと、私は、遠距離でも、ドローンを飛ばして、そのカメラ映像を見ることができるんだ」


「へー」


「それで、六日かけて、最良世界と、機械世界以外をスキャンしていって、ここに最後に行きついたんだ。ここに居なかったら、最良世界に行く予定だったんだよ」


「成程ね。じゃあ何とか連絡とれてよかったわ」


手を振って帰っていくメアリー私の判断は甘いんだろうけど、でもそれでいいよね。そう思って岐路に着いた。

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