第20話「あ」

コメントのタイミングは大事だ。天日子の息遣いや視線の動きを想像しながら「今コメントを見ているな」というタイミングでポンと投げると拾われやすい。今、天日子はトイレで離席している。帰ってきたタイミングに合わせよう。バタン、タッタ、キー、ガタッ…

「おまたせー」

よし!今だ!と思ったその時、赤い文字が下からせり上がってきた。

【ミカン大好き丸】ハッピーバースデーto自分代 ¥10000

「わ!わ!無理しなくていいよ!今度はそのお金、自分の為に使いな。ミカン大好き丸さん、お誕生日おめでとう。」

マジ…かよ…。よりによってミカン野郎と同じ誕生日だった。チャット欄は「ミカンさんおめでとうございます」のコメントで溢れている。あー。完全にタイミングを逸したわ。今「俺も誕生日なんです」って言ったら乗っかりに見えて嘘っぽくなっちゃうじゃん。終わったわ。俺の誕生日終わったわ。天日子が唯一俺の誕生日を祝ってくれる可能性があったのにその夢も潰えた。もしものことを考えてコンビニスイーツを買って準備してたのに儚く散った。その後、俺は一言もコメント出来ずに天日子の配信は終わった。コンビニスイーツの味は全く覚えていない。ピロンという着信音が鳴った。天日子のツイートだ。

「久々の雑談配信たのしかったわ。寝る。」

正直返信するか迷ったが感情を失った俺は機械的に親指を動かしていた。

「おやすみ」

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