第6話:卑怯

「てめぇ、舐めたマネしやがって」


 カーク男爵家の者だと名乗った男が、私に殴りかかってきました。

 簡単に避ける事ができるのですが、今回は避けません。

 正式な処罰をさせるにしても、戦争を仕掛けるにしても、誤魔化しようのない厳然たる無礼の事実を作らなければいけません。

 だから、腫れあがるほどの暴力を顔に受けました。


 ぼっご、ガシャーン!


 私は下衆の拳をまともに左頬で受けて吹き飛ばされました。

 私は食堂のイスやテーブルにぶつかり、上に乗った食器ごと倒しました。

 わざと方向を選んで殴らせましたので、目的の上級貴族の所まで吹き飛ばされましたから、調子に乗った別の取り巻きが更に墓穴を掘ってくれました。


「思い知ったか平民、ねえ、スコット卿」


 上級貴族家の者の名前はスコットというのですね、国名と名前が分かれば、もう逃がすことはありません。


「やはりあなたが黒幕でしたか、では宣戦布告を申し込まなければなりませんね。

 私はネーデル王国ルクセン公爵家の次期当主、セシルです。

 ここまでの無礼を受けて黙っていては、国の威信も公爵家の名誉も地に落ちます。

 さあ、私が正式に名乗って宣戦布告をしたのです、貴男も名乗りなさいスコット。

 それとも恐ろしくて名乗れませんか、下級貴族の陰に隠れてこそこそとしか動けない腰抜けスコット!」


 私の啖呵を聞いて、スコットと呼ばれた男がガタガタと震えだしました。

 上級貴族とは言っても、公爵家が相手では太刀打ちできない爵位なのでしょう。

 それとも上級貴族でも次男以下か、傍系なのかも知れませんね。

 公爵家の次期当主に暴力を振るうような暴挙をしでかしたら、実家から処分されるかもしれません。


「違う、俺は知らん、俺は何も関係がない、これはギレムが勝手にやった事だ。

 俺に宣戦布告するのは筋違い、相手はギレムのカーク男爵家だ」


「そんな、スコット卿、全部スコット卿の命令でやったんです。

 私だけに押し付けるなんて酷すぎます」


 愚劣な連中が責任のなすりつけ合いをしています。

 争い事が嫌いな私が、お友達の為にあえて喧嘩に加わったのです。

 今さら中途半端で終わらせる訳がないでしょ。


「そんな嘘が通用すると本気で思っているのですか。

 正式に学院に訴えて、貴男の家名を聞き出し、ジュディン王国に宣戦布告します。

 王国が受けるのか、それとも貴族同士の戦いとして黙認するのかは分かりませんが、戦争になる事は間違いありません。

 さあ、さっさと自分で家名を名乗りなさい」


「知らん知らん知らん、俺は何も関係ない」


 あら、あら、あら、本気で逃げられると思っているのですか。

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