第5話:喧嘩

「おい、お前、今晩俺の部屋にこい、かわいがってやる。

 学院に告げ口したらどうなるか分かっているよな。

 お前の実家の事は分かっているんだからな」


 内面の下劣さが顔に現れている男が、私のお友達を脅かします。

 誰もいない所で脅すこともできるのに、他の生徒がいる前で公然と脅します。

 私のお友達に恥をかかせて、学院に残れないようにするつもりです。

 この下衆の親分であろう上級貴族が、遠くで嫌らしい笑みを浮かべています。

 私のお友達を本当に嬲り者にするのは、上級貴族の方かもしれません。

 何かあった時には、この下衆が身代わりで罰を受けるのでしょう。


「あら、学院のしきたりを蔑ろにするなんて、貴族のマナーを知らないのね。

 成り上がりの貴族はどうしようもないわね。

 それとも、よほど野蛮なお国なのかしら」


「何だとこの女郎、平民が貴族に逆らって生きて行けると思っているのか?」


 下衆な下級貴族が、私を脅してきました。

 平民のお友達達と一緒にいるので、私の事も平民だと思っています。

 これくらい馬鹿なら、平気で家名や国を明らかにするかもしれません。


「国も家名も名乗らないなんて、偽貴族に違いありません」


 私はお友達達を安心させる様に、笑顔を浮かべて周りに視線を向けました。


「何だとこの女郎、誰が偽貴族だ、俺様は正真正銘の貴族だ。

 ようし、俺様の国と家名を聞かせてやろうじゃないか。

 俺様は歴史あるジュディン王国でも由緒正しいカーク男爵家の者だ。

 家名を名乗った以上、名誉にかけて無礼を許さんからな。

 どこの国の平民だろうが、ぶち殺してやるからな」


 あら、あら、あら、愚か者が国と家名を名乗って喧嘩を売ってくれました。


「ああ、心配はいりませんよ、大丈夫ですよ」


 お友達達が心配してくれているようですから、安心するように声をかけました。

 それから馬鹿で下衆なカーク男爵家の者の相手をしてあげました。


「まあ、何て乱暴な言葉遣いなのかしら。

 とても歴史ある国の由緒正しい男爵家の方とは思えませんわ。

 それとも、最初からこちらを伺っているあの方に言わされているのかしら?

 どうやらあなたの寄り親というか、親分のようですね。

 正式に喧嘩を売ると言われるのなら、あの方の家名もうかがいたいモノですわね」


 私は食堂にいる全員に分かるように、黒幕の上級貴族を指差しました。

 これでもう逃げられれないと思います。

 ここで逃げても、学院内の噂からは逃れられません。

 学院に残る必要がなく、母国に逃げ帰る事ができるのなら話は違いますが。

 その時には、お友達の家族は私の台所領に逃げてきてもらいましょう。

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