第3話:腹の探り合い?

「では私もそうさせていただきます。

 ここには最低限の使用人しか連れて来ていませんから、彼らの負担を少しでも減らしてあげなければいけません」


 シャリーフ王太子殿下が、ほんの一瞬わずかに驚いたような表情をされました。

 他の人間ならば、訓練された密偵でも見逃すような反応でしたが、前世では長く生き馬の目を抜く世界で生きてきた、私の眼は誤魔化せません。

 殿下は私の事情を詳しく知っているようです。

 私がテリー公太子、いえ、キプロス大公国から莫大な慰謝料を得た事を。

 まあ、当然と言えば当然ですね。

 自国の公爵家と仮想敵国の醜聞ですからね。


「傷心の私は、男性が信じられなくなりましたから、これからは一人で細々と生きていかなければなりません。

 例え莫大な慰謝料と台所領をもらえたとしても、何時騙されて銅貨一枚ない貧乏な身の上になるか分からないのです。

 今から節約を心掛けなければいけません」


 殿下は、何とも言えない表情になられました。

 今度は全く表情を隠そうとはされません。

 さっきとは違って、隠さなくてもいい事だと判断されたようです。

 それにしても、それほど不思議な事なのでしょうか。

 私がルクセン公爵家の家督に興味がなく、子供も産む気がないという事が。

 まあ、確かに、この世界この時代の女性らしくなないですね。


「いや、正直びっくりしたよ、セシル嬢が家督を継ぐ気がなく、子供を産む気もないとは思いもよらなかったよ。

 あれほどの裏切りをされたのだから、二人の子供には、絶対にルクセン公爵家の家督を継がせたくない、そう思っていると考えていたからね。

 まあ、ネーデル王家が、仮想敵国のキプロス大公家の血を継ぐ者に、家督を継がせるのを認めるとは思えないから、君が無理に子供を産む必要もないか」


 シャリーフ王太子殿下がおかしな言い方をされましたね。

 次期国王、王太子殿下の時代に、ルクセン公爵家の家督問題が表面化するはずですから、ここは私は認めないと言うべきところです。

 それを他人事のように話すという事は、殿下は王位を継ぐ気がないという事です。


 まあ、先ほどからの言動を考えれば、殿下は学院に残って魔術の研究に一生を捧げたいのでしょうね。

 お可哀想ですが、殿下にそのような贅沢は許されないでしょう。

 弟君達の性格と能力を考えれば、殿下以外に王位を継ぐ適任者はいませんから。


「はい、王家から見れば、ルクセン公爵家は分家の一つにすぎません。

 元々王家から別れた家なのですから、危険な外国の血を持つ者に継がせるくらいなら、子弟を送り込んで継がせた方がマシです。

 なんなら二つ三つに領地を分けて、力を弱めればいいのです」

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