第2話:シャリーフ王太子殿下

「転校生の紹介をする。

 ネーデル王国からやって来た、ルクセン公爵家令嬢のセシル嬢だ。

 急な入学となったから、色々と分からない事があると思う。

 みんな親切にするように。

 シャリーフ殿、貴公にとっては自国家臣の令嬢だ。

 特に親切にしなければ、貴公子の面目にかかわるぞ」


 あら、困りましたね、シャリーフ王太子殿下と同じクラスになるとは思っていませんでした。

 殿下は長年こちらに留学されているので、急な入学になった私とは学力が違い過ぎると思ったのですが、どうなっているのでしょうか?

 本気で試験を受けずに、適当に間違えればよかったのかもしれませんが、それでは合格できないか可能性もありましたから、これは仕方がない事と諦めましょう。

 本当は孤独な読書生活に耽溺したかったのですが……


「セシル嬢、学院内を案内するからついてきなさい」


「はい、シャリーフ王太子殿下」


「ああ、ここでは敬称はある程度省略するのが暗黙の了解になっている。

 古の魔力量絶対主義の影響なのか、それとも魔法を探求する者に身分の上下はないという考えなのかは分からないが、令嬢は家名と爵位を省いて嬢、令息は家名と爵位を省いて殿をつける。

 だから私の事はシャリーフ殿と呼ぶように」


「承りました、シャリーフ殿」


 私がそう返事をすると、殿下は上機嫌になって、案内してくれます。

 長年学院で勉強されているので、こちらのやり方の方が気楽なのでしょう。

 国内にいると、どうしても主君と家臣の関係に縛られます。

 ですが学院では、完全に同格の王族もいれば、指導者の魔導師もいます。

 利害の絡まない漢気のある遠国の貴族が相手なら、友情すら育めるでしょう。

 殿下にとって学院は理想郷なのかもしれません。


「ここが一番世話になるかもしれない食堂だ。

 独りで食べたい者や、食堂の料理が口に合わない者は、寮や借りている家に戻って食べている」


 なるほど、確かに貴族なら眉を顰めるマナーのなっていない生徒も多いですから、食堂で食べるのが苦痛という人も多いでしょう。

 まあ、私もあまり酷い食べ方の人と一緒に食べるのは嫌ですが、前世ではクチャクチャ喰いの上司と一緒の食べるのも我慢できましたから、ここでも少々のマナー違反は我慢はできるでしょう。


「シャリーフ殿はどうされているのですか?」


「私か、私は基本食堂で食べる事にしている。

 いちいち借りている屋敷に戻っていると、研究の時間が少なくなってしまうからな、マナーが悪いなど研究に比べれば些細な事だ。

 師事する魔導師殿の中には、とんでもないご仁もいるからな」


 殿下は結構付き合い易い人のようですね、安心しました。

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