第62話 セシリアの想いとエイヴリル様のお見舞い
フレデリックのお部屋の中の一室にベッドを運び込まれ、そこで寝起きをするようになってしまっていた。
お部屋の中の一室といっても充分すぎるほど広い。
少しずつ体を動かすようにしているとはいえ、まだベッドの中にいる時間の方が長い。
焦っても仕方が無いので、のんびりしているのだけれど、どうもこの何もしないという時間はどうもいけない。
だって、普段なら忙しくて考える事のない、嫌な考えが浮かんでくるのだもの。
たとえば、リオンヌの名前が出た時にフレデリックが動揺したのは、リオンヌがフレデリックの初恋の人だったんじゃないか……とか。
婚姻した後に、東の建物に入ってくる側室たちの事とか。
まだ国同士の関係が不安定で、人質代わりの側室制度はどの国にも残っている。その内、私の様に、この国に逆らえない国の王女が側室としてやって来るのだろう。
今だってフレデリックは、私の傍にあまりやって来ない。
泣きそうになってしまった顔を侍女たちに見られたくなくて、私はベッドに突っ伏してしまった。
しばらくベッドに顔を埋めていると、マリアから声を掛けられた。
「セシリア様」
「何?」
私はまだうつぶせ寝の体制だ。
「前王妃エイヴリル・アルンティル様がこちらにいらっしゃるようですが」
「え?」
ガバッと飛び起きた。頭がくらくらする。ってそんな事を言っている場合じゃない。
私はよろよろとベッドから降りようとした。召し替えしなきゃ。
「どうぞ。そのままで……」
鈴を転がすような声でそう言われた。
その声の方を向くと、数人の侍女を従えて、エイヴリル様が室内に入って来られるところだった。
こちら側の侍女たちが、慌ててベッドサイドにテーブルと椅子をしつらえ、お茶の用意をしている。
「このような無作法な格好で失礼致します」
私はベッドに座りなおし、挨拶をした。
「良いのですよ。わたくしこそ、本来なら先に侍女を通じて訪問カードをお渡しし、お返事を待つのが礼儀ですのに」
そう言いながら、ふぁっとした動きで優雅に椅子に座る。
マリアよりも少し年上かしら、白髪が少し混じった金髪を上品にまとめている。ドレスも落ち着いたモスグリーンでシンプルな……お見舞いを意識した装い。体調の悪い私に気を遣ってか、コロンすらつけていない。お顔は心なしかフレデリックに似ている気がするわ。
お見舞いのお花は、優しい香りがして心癒されるものを選んでくれていた。
侍女たちがさっそく花瓶に生けている。
「ありがとう存じます。お見舞いまで頂いて」
「フレデリックのお相手はどんなお方なのかと思って、お会いできるのを楽しみにしておりましたのよ。なのに、いつもセシリア様はお忙しそうなのですもの」
何か少しすねた感じで言われてしまう。というか、お叱りに来たの?
「申し訳ございません。本当なら、早々にこちらから訪問の問い合わせをしなければなりませんでしたのに」
「あら。良いのよ、別に。どうせフレデリックが止めていたのでしょう?」
「あ……いえ」
確かにフレデリックから、王宮内の散策の許可が出た時に、前王妃様の居住区内には近付くなと、言われたけど……。
「逆らえないわよねぇ。国王命令ですもの。だから、良いのよ」
「あのっ。それでも、申し訳なく思います」
そう言うと、エイヴリル様はあら? という感じで私を見た。
「可愛らしい方ね。セシリア様は」
エイヴリル様は、コロコロ笑いながらそう言っていた。
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