第59話 それでも、私はリオンヌのことが羨ましいと思う
「ふうん。それで、利用されるだけされて、捨てられるんだ。捨てられるだけじゃ無くて、その先に待っているのは処刑台だったりしてね。惨めだねぇ」
クリストフは笑いながら言っている。だけど、この前の様な嘲笑と言う感じではない。
「リオンヌ・ピクトリアンのように?」
私は平然と言った。私の様子にカチンと来たようにクリストフは笑う事を止める。
「みっともないと思ったの? 貴方と逃げた挙句、見せしめの様に惨殺されたリオンヌのことを……。惨めだった?」
「お前は……何も知らないから」
握りしめた拳が震えている。顔は下を向いているから、表情は分からないけど。
「知らないわ。会った事もない人だもの。ただね、私はこう思うの。どんなにみっともなくとも、もしかしたら惨めなのだと思われているかもしれなくても、そんな事に気付く余裕すらなかったんじゃないかって……」
「何が言いたいんだよ」
「リオンヌは、貴方が思っているより幸せだったって話よ」
「この国に来てか?」
クリストフは、吐き捨てるように言う。
「違うわ。貴方と逃げることが出来てよ」
「あんな殺され方をしたのに?」
何か痛みをこらえるような顔を、クリストフはしている。
私にはそこまで愛されているリオンヌがひどく羨ましい。
目の前でリオンヌの最期を想って心を痛めているクリストフを見ていると本当にそう思う。
「リオンヌは、分かっていたわよ。貴方と一緒に逃げたら自分がどうなるかなんて……。それでも、貴方と一緒にいられる一瞬の方が幸せだと思ったのよ」
一瞬なんてものじゃない。惨殺されることによってリオンヌは、クリストフの永遠を手に入れたのだわ。
もしも生き残っていたら、惨殺されなかったら。
クリストフの人生を狂わせてしまう程愛されはしなかっただろう。
「私を連れて逃げて……って、リオンヌの方から言われたのでしょう?」
何でそれを知っている? って顔をしているわね。
「当たり?」
「……ああ」
驚いたような顔で私を見ている。そのクリストフの顔は、子どもみたいだった。
「わたくしのような、子どもにだって分かる事なのにね」
愛する人の傍にいたい。だけど、死なせたくもない。
クリストフが今生き延びているのは、リオンヌの策略ね。
私たちのような狭く自由なんて全く無い世界で、こんなにも愛し愛されたリオンヌが心底羨ましいと思う私も、酷い女。なのかしら……。
私はこの会話に紛らせ少しずつ
私たちを……、ピクトリアンの血を引く者たちの動きを完全に止めてしまう毒草を。
フレデリックに渡した物より、はるかに強い毒。
アダモフ公国まで巻き込んだこの復讐の計画はもう失敗に終わるのは目に見えている。
まさか、フレデリックが私を表の政治舞台に立たせるなんて思いもしなかったのだろう。
そして私がいる限り、かおり草は、もう紛れ込ませられない。
罠と分かっていても、クリストフがのこのこやって来たのは自分の死に場所を求めてなのかもしれないわ。
次期王妃の私を道連れに出来るのなら、御の字というところかしら。
純血種のクリストフが先に意識を失って、崩れ落ちるように椅子から落ち倒れた。
その様子を見届けながら薄らぐ意識の中で思う。
私もここで死ねたら、フレデリックの永遠が手に入るのかしら……。
そして、何も分からなくなった。
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