第36話 クリストフとリオンヌの過去のお話
私は心の中でずっと引っかかっていたことがあった。
女性ならまだしも、ピクトリアンの王族男性が、なぜ、国外に出れているのかと。
家名にピクトリアンと名乗れるのは、王族の純血種のみ。
私の名の中にピクトリアンが入っているのは、単にグルダナ王国が母親の出身国を入れる風習があるからだもの。
そして先ほどの……リオンヌ・ピクトリアンは王族……純血種の女性だろう。
「あなたは、リオンヌ・ピクトリアンの駆け落ちの相手なのですか?」
私の何気ない問いかけに、クリストフは一瞬ギョッとしたよう顔をして、物凄い形相で睨んできた。
思わずフレデリックが、私を背に庇うくらいに。
視線で人が殺せるというのなら、私は今、殺されていた。
「なぜ知っている」
「あなた方の事は知りません。ただピクトリアンの名を名乗れるのは直系王族。純血種だという事を知っているだけです。それが、駆け落ちという事になれば、恋人同士でしょう? 近親相姦の……」
フレデリックは、私が自分の背から出ることを許してはくれないけれど。
「あなた、ピクトリアンからも逃げているのですね。国王ならば、まだしも。近親相姦は、彼の国にとっては、大罪中の大罪でしょう?」
私が言っている事を、フレデリックにどう聞こえているのかはわからない。私はまっすぐ、クリストフの方を向いているから。
クリストフは、まだ私の方を睨んでいる。
「もしかしたら、リオンヌは、この国に嫁ぐ予定では無かったのですか? それを、横からさらうように連れて逃げて……惨殺でもされましたか」
完全にあてずっぽうだ。生まれる前の事過ぎて、私には分からない。
ただ、前国王時代に王命によって兵士から惨殺された妃は、確かに存在する。
「シャルロットにでも聞いたか」
クリストフのその問いには、私は答えない。これは、完全に私の憶測だからだ。
「自国の王女を、そんな風に殺されて、黙っている国でも無いでしょう? それなのに報復に出ていないという事は、黙認されたのだわ。あなた達の大罪と引き換えにとでもして、国家間で何らかの取引があったのでしょう」
私は自分で言いながら、少しホッとしていた。
国家間ではもうこの問題は決着がついている。クリストフは個人的な恨みで動いているのだわ。
「わたくしには、ピクトリアン王国に報告する義務がありますが」
そう言った瞬間。クリストフはかき消えていた。
「消えた?」
フレデリックは、呆然としたように言う。目の前で起こった事が信じられないようだった。
「消えた……ように、見えただけですわ。どうやら、結界を使っていたようですね」
私はそう言った。報告の義務も何も、私はピクトリアン王国との連絡手段を知らない。
少し考えたらわかりそうなものだけど……。
それにしても、毒草の影響はどこまで続くのだろう。
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