第37話 書庫に籠った王様とセシリア姫の本来の仕事

 先日、城下町でクリストフ・ピクトリアンと出会ってしまってから、フレデリックは国王と宰相しか入室出来ないという書庫に籠りっきりになってしまった。

 なので私は、自分の部屋にいるしかない。

 王宮散策も女官の仕事も、フレデリックがそこにいてこそ、だもの。


 自分の部屋で退屈に過ごす覚悟をしていると、ドレスの採寸がどうだとか、アクセサリーを選べだとか……私がきれいさっぱり忘れていた、本来の仕事が待っていた。

 そういえば、婚礼の儀があるのだっけ……。


 フレデリックといると、そういう話にならないので、私はどういう立場で、何をするんだっけ? と思っていたのだけれども。

 そうか、これが本来の私の仕事…………。本当に?

 本当に、とるに足らない小国の王女がこんな大国の王妃になるのだろうか。側室では無く。


 なんだか、最近は女官の仕事がしっくりし過ぎて、本当に忘れていたわ。


 色々考えているうちに、台に乗せられ香油を塗りたくられて、マッサージをされている。

「セシリア様は、もともとお肌がきれいだから、整えがいがありますわ」

 なんて言われて。

 そうだよね。フレデリックから、婚礼前の過ごし方を言われた時は退屈だわと思っていたけれど、結構大変だわね。特に侍女の皆さん方が……。

 

 数日経って、フレデリックが私の部屋に訪れた時は、私はピカピカに磨かれていた。



「セシリア。なんだか、しばらく見ないうちに……」

 フレデリックが戸惑いながら私を見ている。

「感想は良いですわ。言いたいことはわかりますから」

 今の私は、肌もきめ細やかになっていて、薄い茶色の髪もふんわりと整えられ、ドレスだって侍女たちお勧めの最新の物。黙って立っていれば、等身大のお人形のように美しく見える。


 鏡の中の自分を見た時は、絶句してしまったもの。


 久しぶりに私のお部屋は完全に人払いをされている。

 私たちが、ティータイムの用意がされたテーブルの席にお互い座っていた。

 フレデリックが、紅茶を一口飲んでカップを置き、口を開く。


「セシリア・ピクトリアン・グルダナ。訊きたいことがあるのだが、答えてもらえるだろうか」

 フレデリックは、いつになく真剣な表情で私に訊いてきた。


 なんだか、フレデリックの方が緊張しているようだった。

 だから、私も少し緊張気味に答えてしまう。

「何でしょう。アルンティル国王陛下」

「ああ。すまない。国王としての質問ではないのだ。フレデリック、個人として訊いている」

「はい」

 どちらでも、関係ない。訊かれたことに黙秘権は無いだろうから。

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