第6話 わたしの教育と冒険

 西の建物に着いた翌日は、本当に慌ただしかった。

 侍女を含む使用人の紹介や、建物内の案内で一日が終わってしまっていた。


 自室に戻り一息吐くとクライヴが言ってきた。

「今日案内したこの建物内と中庭は自由に行動なさって構いません。どうぞ侍女を伴って散策なさってくださいませ。ただ、他の建物、特に王宮がある中央のお城には決して近付きませんように」

「わかったわ」

 要はこの敷地内から出るなって事ね。王宮にすら、足を踏み入れることは出来ない。

 そうよね。いえ、分かってはいたのよ。人質同然で来たのだもの……。

 でも、やっぱりショックだな。


「何かご不満がございましたでしょうか? 侍女も召使も、ご満足頂けるだけ用意したつもりでおりましたが」

 まずい。態度に出てしまった。

 気丈にしてなきゃ。私の態度一つで、グルダナ王国がどうにかなるかもしれないのに。


「いえ、そうじゃないの。何もかもが違っていて、本当に違う国に来たんだなって思ってしまって。ごめんなさい、子どもっぽくて……」

 そう言ったら、クライヴと後ろに控えていた侍女が少しやわらかい顔になった。

「まだ13歳でいらっしゃいますから」

 クライヴは、そう言って笑ってくれた。



 そういえば、肝心の国王陛下とのお目通りはいつになるのだろう?

 訊く暇も無く、私の教育が始まってしまっているけど……。


 もしかしたら、国王陛下に会うための教育なのだろうか。

 実際、慣習やしきたりに大きな差は無いものの、結構細かいところは違っている。

 しかも、私は大国の作法なんて知らなかったから戸惑う事も多かった。


 そうね。とてもじゃないけどこの状態で国王陛下にお会いすることは出来ないわ。


 知識の方は、勉強は嫌いでは無かったので何とかなっている。

 お城を抜け出していた割には、時間があると本を読んでいた。

 そのおかげで、ここに来る前からアルンティル王国の歴史の概要くらいは、頭に入っていた。


 後、これは特別でも何でも無いのだけれど、母国語を含め十か国語くらいは話せる。

 これには、クライヴも驚いていた。

 だけどね。こんな大国の外交なら相手が合わせてくれるだろうけど、うちのような小国は、他国の言葉を操れないと外交が出来ない。


 そんなこんなで、約一か月。

 私は一体何をしに来たんだろう? と思う間もなく日々が過ぎて行った。


 

 お勉強も一段落したようで、少し暇になった時間で私は建物内の探索を始めた。

 最初は、アンを連れて行っていたのだけど、だんだん面倒くさくなって自分だけで行こうと思い。侍女たちの隙を見て逃げてきた。


 召使たちが詰めているだろうお部屋を通ろうとしたときに、ボソボソと話し声が聞こえてきた。何を言っているのだろう?

「……も、ねぇ。あんな、田舎者のお姫さまを連れてこなくても…………っだったのに……」

「そんな事…………なの……。でも、大変よ……」

 とぎれとぎれにしか聞こえないけど、私の悪口のようだった。

 まぁ、良く思わない人もいるだろうけどね。取るに足らない小国の姫としての待遇としては破格だもの。


 でも、それはそれとして、召使が自分の主人筋の悪口を言うのは、どうなんだろう。使用人の躾けがなってないとしか思えないのだけど。

「あなたたち、何をしてるのっ」

 私の後ろから、ピシッと叱る声がした。

 召使の女性二人が、ビクッとなって私を見て、というより、クライヴを見て青くなりガタガタ震えだした。

「も……申し訳ごさいません」

 それでも、慌てて謝罪の言葉を言う。

 私が「気にしないで……」って言うより早く。

「謝って済む事ではありません。誰かおらぬか」

 その一声で、西の対屋に詰めている兵士がやって来て、泣いて謝罪する二人を連れて行ってしまった。

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