川岸の幽霊

春嵐

第1話

 気付いたら、川岸にいた。


 自分の身体。川岸のところに、埋められている。


 なぜそうなったのか。どうして埋められてしまったのか。それに関して、特に何も言うことはないし、大事なことでもない。


 大事なのは。


 自分が幽霊として、川岸に化けていること。それだけ。


 川の水の流れ。風になびく草。近くの木々、小石から葦、小さな生き物に至るまで。


 すべてが、好きだった。


 川岸で化けて出て、よかったと、心から思う。


 夜しか出てこれないというわけでもなく。一日中、化けて出てる。


 日中は、川を眺めて。草や木々、意思とかを眺めて。たのしむ。ずっと見ていても、全然あきない。たのしい。ずっと見ていたい。


 夜になっても眺めて楽しんでいるけど、ときどき、人が来るので。驚かせて川から引き離した。

 この川は、急に流れが速くなることがあるから。夜の周りが見えないときに川に入ると、あぶない。だから、驚かせて人が川に入らないようにした。


 村があって、そこの人がときどき来る。幽霊なので、一緒に遊んだり話をしたりというのは気が引けるけど。夜は来ちゃだめだよ、日中なら来ていいよっていう思いを込めながら、いつも川岸にいる。


 最近は、夜に肝試しに来た子供たちがいたので、驚かせて追い払った。夜に川に近づいてはいけない。


 日中だと、おじいさんがお魚を釣っているときに川の深みにはまっていたから引き上げてあげた。


 朝方には、散歩をしに恋人たちが川岸を歩いたりする。それを眺めるのも、好きだった。


 ただの幽霊だから。特に仲良くされることもなく。ただ、川岸にいる。

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