パソニフィ・コンフュージョン

沼蛙 ぽッチ

プロローグ ─3人の要注意人物─

通例行事の健康診断。私は新入生のクラスを監督していた。


「先生、あの子はどうして動物の耳もしっぽもないのに、一緒に健康診断を受けないのですか?」

と、ある生徒が聞いてきた。


現在、日常的にあらゆる動物が人間の姿に変わる"擬人化"という現象が起きている。


(本当にねえ……獣耳とかついてれば、見分けがつきやすいし、夢があるのにね。)


一般的にはなった現象だが、未だに擬人化した動物のイメージは人間の身体に獣の耳としっぽが生えているといった感じだ。


私だって、そうだったら良いなとは思うけれど……


(だけど、そういうのばかりじゃないじゃない!!爬虫類とか虫とか……擬人化してそのままの姿だったら、嫌過ぎる!!)

なんて1人想像して、鳥肌を立てていた。


だからやっぱり、そのままの姿を受け継いでなくって良かったと改めて思う。


「学校の環境に慣れて貰う為に、この場で待機して貰っています。」


「見られてる様で、嫌なんですけれど……」


擬人化した者にふれる機会があまりなかった新入生に説明するのは、毎年恒例となっている。


「見た目からは分からないかも知れないけれど、元々は動物だったのですから、私達とは違う部分もあるのです。」


そして続ける。

「ですが、その他は私達と同じですので、特別扱いしている訳ではないのですよ。」


擬人化した動物たちは、姿や能力も人間とほぼ同じで保護対象だ。

人権が与えられ、生活の保証をされる。教育受けたり、仕事をして生計を立てたりと、通常の人の暮らしそのものの生活を送っている。


「……よくわからないです先生。だって─」


(正直……こんな謎の現象、私にもよく分からないわよ!立場上、個人情報にあたる事は言えないし……)


「それでは、折角交流の機会があるのですから、擬人化の方たちとお友達になってみるのはどうでしょう。そうすれば、お互いに理解し合える筈です。」


「お友達、ですか……?」

そしてその子は、その待機して座っている擬人化のクラスメートの元へと向かって行った。

それを見送った私は、やれやれとため息をついた。


(まあ、不思議なことに人間と縁がある動物だけ擬人化していることが、この世の救いかしらね……)


何故だか無作為に擬人化している様でもなかった。

そんな“選ばれた動物たち”は、人間社会に適応する為の幾つもの“加護”が与えられたのだという─


私がこの春から担任を受け持った高校2年の教室には、擬人化の生徒が二人居る。


一人目は、ネコの擬人化の斎藤 ミトという生徒。

もう一人は、小池……何だったかしら……?

元動物だった事は、公表しないとなっている生徒。何だか不気味だ。

(……それよりこの子、印象が薄いのよね。さっき、保健室へ行くと言っていたし、きっと大人しい子なのでしょう。)


ネコの擬人化の方は、動物だった時の性質を色濃く受け継いでいるのか、大変マイペースだ。だけど、クラスの中心に居る様な快活なタイプで憎めない。

(あの子、大人しく教室に居てくれるかしら……)


ちらりと窓の外を見て見ると、校舎からグランドへと抜け出している、優等生風の眼鏡を掛けた女子生徒が見えた。

その子は、擬人化している生徒では無かったのだが……


(林 聡見!うちのクラスの生徒じゃない!終わったら、教室に真っ直ぐ戻りなさいよ、まったく!)


私はその子を注意しに行く為、思わず廊下を全力で駆け出していた。


捕獲して、何か用事を押し付けようと思う─

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る