第1話 見た目とはひと味以上違う
高校2年生、新学期が始まってから今は五月だ。
只今クラスメートたちは、学校行事である健康診断を受けている。
私は、別の場所で受けるので出席はしなくていい。
本当は保健室で待機しようと思っていたけれど、こっそりプールの場所に来ている。今は授業シーズンではないので木の葉が浮かんでいたり、藻が繁殖していたりする。
ここに来ると安心する。この少し濁った感じの水がいい味出ていて良い。
水の中に入れないアメンボ哀れ…。
そんなことを思いながら、飛び込み台に腰掛け水面を見ている。
背後からギィーとドアの開く音。
すっかり油断していてので、喉がひゅっと鳴った。
「やっぱり、君も出席しなくてもいいグループだったんだ!」
話しかけてきたのは、同じクラスの人気者の─
「…猫の擬人化さん?」
「そうだけど、ミトって呼んで欲しいな。」
「…ミトさん、何でここに。」
「ごめん、1人が良かった?私もあんまり構われるのは好きじゃないんだけどさ─」
ミトさんは、猫の擬人化でいつもクラスの子達に囲まれている人気者。自信家だけど、気さくに話しかけてくれる。身体能力も高く、眠たいからと言って木に登り器用に寝ている。そして、よく先生に注意されているのを見かける。
そんなマイペースなところも可愛いと多くの人に注目され愛されていた。
「健康診断に出席しないって事は、君も何かしらの動物の擬人化なんだろ?」
「…うん。だけど、公表してない。」
「私…君が何の動物だったのか興味あるんだけど。」
「…。」
「何で秘密にしてるの?」
「よく…自分のこと、分かってないから…。」
ふーん。と、凝視される。
金色の瞳が綺麗で吸い込まれそうだなと何気なく見つめ返してしまう。
「…今日のところはこれ以上聞かない。でもいつか教えてもらうから!」
じゃあまたね。と何処かへいってしまった。
「…。」
私は自分の事について、詳しく聞かされていない。あまり擬人化したという報告がない動物ということだけ聞かされている。
他にもこの学校に在籍している擬人化した者は数人いる。何の動物か公表もしていて、周囲も認知している。
私自身のことを、はっきりと分かっていないからこそ、擬人化している動物だと公表していない。自分なりに"普通"の女子高生として振る舞っている。
それに、クラスでは存在感の無い私が、少々教室を抜け出したところで、クラスメートから怪しまれる様な事はないと思う。
だけど、ミトさんみたいな同じ擬人化たちは気になったりするのだろうか。
我々擬人化した者が、別の機関で健康診断を受けるのには理由がある。
そのひとつとして、健康診断のときに身長と体重を測るけれど、特に身長の計り方は難しい。
私達は元の姿に影響を受けたまま人の姿になっている。
この姿を幻影だと言う人もいる。
大きな者は人のサイズに収まっていて、逆に小さな者は拡張して人の形に形成されているからだ。
しかも身長はとても気分屋だ、私の場合、嬉しい時は少し伸びたり、疲れているときは縮んだりするので、計測が難しい。
体重は、動物だったときと同じ重さの値が出る。
もし─見た目170cmぐらい、猫の擬人化のミトさんが、体重計に乗ったとするとどういう値が出るのか─。
擬人化をすると、不思議なことに人間と変わらず手を使えたり、話すことが出来るし、思考巡らせられ、人間らしい体の動きが出来る。
しかし、いくら人間的になってはいても、やはり元の動物に左右されるところは有る訳で─。
私の場合はというと…
「やっぱり、ここの水、見てると落ち着く…。」
自分のことはよく分からないけど、いつもこんな感じのスクールライフを堪能している。
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