第6話 プール掃除しなさい
「ねえねえ、水得意なんでしょー?手伝ってくんね?」
ネコがすり寄ってきた。
「プールを…掃除…」
私は固まってしまった。目の前の水の抜かれたプールを見て─。
「ブラックバスなんて入れたの誰!?外来種入れるなんて信じられない!ちょっと先生相談してきますので、少し抜けますが、くれぐれも!…勝手に帰ったりしない様に!特に貴方!!」
担任の先生は、特にミトさんに言った。
「いやあ、木の上で寝てたらまた怒られちゃって、次いでに手伝いも頼まれちゃったんだよねー。」
「木に登り過ぎだし。ミトちゃん足、擦りむきすぎー。後で絆創膏張ってあげるー。」
「ありがとにゃん♪」
「あざとい……。」
クラスメートとミトさんの会話を聞いた林さんが呟いた。
「あ?何か言ったか林…。」
「ちょっと暑苦しいので凄まないで下さい。だけど珍しいですね、お掃除なんてしなさそうなのに。」
ミトさんは小声で言う。
「だって、アイツって水好きそうだろ?誘ったら何か分かるかも知れないと思って…。」
「それは…それは!素敵なお考えですね!」
すっかりご機嫌になった林さんだった。
「それに水浴びできるー!!」
嬉しそうに両手を上げてミトさんが言った。
すると、クラスメートの1人が疑問に思う。
「あれ?ミトちゃん猫なのに水苦手じゃないんだ!?」
「………そういうタイプのネコなのにゃ…。」
「あっ、私動画で視たことあるー。泳いでるネコって凄く可愛くない?」
「わかるー。可愛い過ぎるよねー。」
「ミトちゃん、可愛いーー!!」
今日もミトさんは"おネコ様"である。
「そんなに水が浴びたいのでしたら、どうぞ!!」
林さんはホースの先を摘まんでミトさんに向かって放水した。
キャー!っと、巻き込まれた周りの生徒は、
「林っち、冷たいよー。」
と言いつつも、満更でも無さそうな反応で、意外と高評だったみたいだ。
ミトさんはと言うと…下を向いていて、水の滴る前髪からの表情からは、怒っているのかどうか分からない。
(…………凄く気持ち良かったなんて、言える訳ないだろ!)ミトさんにも実は高評だった。
「しかし、不思議なものですねえ、人の体に猫の体が収まっていると考えると…。」
林さんはミトさんに近付き、水でピッタリと体操着が張り付いた体をペタペタと触ってみる。ミトさんはヒッと声を漏らした。
「林っちズルい!私にもミトちゃん触らせてー。」
クラスメート達もキャッキャと盛り上がっている。
「ちょっと、触るのヤメロ。くすぐったいだろ!」と、体をよじって抜け出し、水の入ったバケツを持ち上げる。
「お礼に林にもかけてやるよ…」ジリジリとミトさんは林さんを追い詰める。
「私は、遠慮します。」とスルリかわした。
傾けられたバケツの水は不発に終るかと思われたが…
すっかり存在感を失っていた私にダイレクトヒットしたのだった─。
「絶望─。」気力を失った私はプールを眺めながら横たわっていた。
林さんがチャンスとばかりに、触ろうとしてきたとき─
「イジメるのは止めろよな、このっ…えーと…ネコが!」
小柄な男子生徒がデッキブラシ片手に出入口に立っていた。
「来るのおせーよ、ミミズク坊やが。イジメってなんだよ?」
「どう見ても弱いものイジメしてただろ!」
と、ブラシの柄をミトさんの喉元に向ける。
彼がそう思うのも無理もなかった。
やんちゃな感じの女子がバケツを逆さまにして立っている下で、儚げな感じの女子がずぶ濡れになって倒れていたのだから。
「ミトちゃんこの子と友だち?」
「中等部の子来たと思ったー!」
「この子も擬人化の子なん?」
「ミミズクとか可愛い系じゃん!」
うるせー。と思いつつ、彼は横たわる女子を起き上がらせようと腕を掴んだ。
すると、思いの外フワッと持ち上がった。この軽さは─
「この子、保健室に連れていくから!」
つい勢いにまかせ、お姫様抱っこで彼女をその場から連れ出してしまったのだった。
背中からは、ヤバーい、王子じゃん。とか言って、はしゃぐ女子生徒の声がした。
「私の…私の妖精さんが、連れ去られてしまった!」林さんは、慌てて後を追って行った。
それを見たミトさんも「…それじゃ、私も行ってくるわ。」と抜け出そうとしたが、
「えー、ミトちゃんは居てよ。」
「ミミズクくんってどのクラス?」
「あの2人付き合ってるかとか聞きたいし。」
と、人気者ゆえに引き止められてしまったのだった─。
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