蜘蛛と蓮と夢の糸

酢甘 浅葱

とある民話についてのレポート 

昔々、人里離れた山の奥にそれは恐ろしい大蜘蛛がおりました。


ある日、人の姿に化けていた蜘蛛は森に迷い込んだ人間を見つけました。


気紛れで助けてやると、その人間は蜘蛛にお礼をしたいと森に通うようになりました。

やがて、蜘蛛は正体を明かして喰われたくなければ二度と此処にくるなと人間を脅します。


しかし、人間はなんと蜘蛛を受け入れて夫婦になりたいと言うではありませんか。

蜘蛛はあまりに驚いて、呆れ、数年やりとりを繰り返しているうちに本当にその人間と夫婦になってしまいました。


しかし――大蜘蛛を恐れた村人はそんなことも知らず化け物退治を旅の僧侶に頼んでしまいます。僧侶が大蜘蛛を相手にしている間に、知らない村人たちは人間に化けているのだと思い蜘蛛の伴侶もその子たちも住んでいた家もろとも焼き払ってしまったのです。


僧侶は死に際に泣きながら家族だけは助けてくれと懇願した蜘蛛の願いを聞き、後悔しながら慌てて戻るもそこにはもう焼き払われた家と遺体しかありませんでした。


僧侶の話を聞いた村人たちは嘆き、罪悪感に苛まれ、彼らへの行いを忘れないように慰霊碑を用意し、懺悔の想いを込めてその日から蜘蛛を神様として祀るようになりました。



――以上が、南雲那町に古くから伝わる民話をまとめたものとなる。


尚、民話はいくつかあり、その中には蜘蛛と人間の子は生き残っており、今もその蜘蛛の血を継ぐ子孫たちはこの世で密やかに生きているというものも存在する。



【南雲那町 民話についての調査レポートより抜粋】

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