第22話〜目覚めと仮面

チュンチュン。


小鳥のさえずりがすぐそばで聞こえた。


長い夢から覚めたユウキはゆっくりと瞼を開く。


(知らない天井……?どこだろう、ここは)


起き上がろうとして、失敗する。


異様に体が重く、手にも力が入らなかったからだ。


頭も重く、やたら気怠い。


気を抜けば閉じてしまいそうになる瞼をなんとか開き、見える範囲で観察してみれば、どうやらユウキが寝ていたのはログハウスの一室のようだ。


窓から入る柔らかな日差しの角度から早朝でも夕方でもない時間帯だと漠然と考える。


しかし違和感がある。


この部屋が、ではない。


体の重さでもない。


視界が狭かった。


霞みがかった思考で、ようやく答えに至る。


何かがユウキの左目を覆っている。


重い腕を苦労して上げ、鈍い手で顔を撫でてみれば、何か布のようなものが巻かれていた。


「なんだ、これ?包帯…?」


まるで何日も喋っていなかったように掠れた声を漏らしながら、ゆっくりと布に手をかけ…


「…………っ!!」


ほんの僅かに塞がれた左目で光を感じた瞬間、脳に千枚通しを深々と突き刺されたような痛みが走り、ユウキは悲鳴をあげて再び気絶した。



…………………。




「………っ」


再び見知らぬ天井。


しかし今度は視界に動くものがあった。


「あら、目覚めたのね」


オクタ?


いや、違う。


「あの……」


いくつもの疑問が同時に沸き起こり、そのせいで言葉が詰まってしまった。


目の前の、声からしておそらく女性はオクタのものによく似た仮面越しにユウキの右目を覗き込んで来た。


八つ目の蜘蛛の意匠の仮面。


雰囲気はオクタに似ているが、しかし年はなんとなくユウキと同じくらいに感じた。


「お姉様をお呼びしてくるわ。少しだけ待っていて」


「あ、まっ……ぃっ!」


部屋から出て行こうとした少女を咄嗟に呼び止めようとして、反射的に起き上がろうとした体に痛みが走る。


「ちょっと、大丈夫?」


痛みに呻くユウキは全身に走る鈍痛に脂汗を浮かべて耐えるしかない。


それを見た彼女は側に戻って来た。


「まだ治りきってないんだから安静にしてなさい。まったくもう」


少女は嘆息し、汗を拭くために枕元に置かれた桶とタオルを身を乗り出して取る。


その動作は手馴れており、どうやらユウキが眠っている間は彼女が世話をやいてくれていたことを知る。


同時に。


むにゅん。


「……っ⁉︎」


身を乗り出した彼女の胸がユウキの顔面を一瞬だけ圧した。


ワンダフル。


ゆったりとしたローブのせいで分かりにくかったが、彼女は相当なものをお持ちのようだった。


「ほら、汗を拭くから目を閉じてなさい」


前かがみになったことでローブの前がはだけ、中は比較的ルーズな服装だったことで首元からたわわな果実が実にビクトリー。


ユウキ。


友人たちからは主人公と呼ばれる男。


彼のラッキースケベの遭遇率もまた主人公級である。

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