眠らない戦争

鯨飲

コールドスリープ

「コールドスリープ」

   

 A国において、政府からコールドスリープを勧める広告が国内の富豪たちに向けられて流布されました。


 多くの富豪たちは興味を示したものの、実際に体験したいという意思を抱く者はほとんどいませんでした。


 しかし、金を持て余すばかりに、現状の生活や娯楽では満足できなくなった一部の富豪たちはそのコールドスリープに申し込んだのでした。

 

 そして、いよいよコールドスリープが始まる当日になりました。申し込んだ五人の富豪は、指定された場所に集まりました。そして、そこに政府の担当者が出てきました。


「みなさん、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。いよいよ本日からコールドスリープに入られるわけですが、皆さん心の準備はできましたか?」

 

 富豪たちはソワソワした様子で、


「そんな御託はいいから、さっさと俺たちを眠らせてくれ!早く未来に行きたいんだ!」


「こんなにも情勢が不安定なこの国にいても、何も楽しくないんだよ。世の中が殺伐としてて暮らしにくいんだ」

 

 残る富豪たちもそれに呼応するように、担当者を急かします。すると、担当者は少し嬉しそうに


「分かりました。それでは、早速始めましょう」

 

 


 こうして、富豪たちは麻酔を打たれ、ただの睡眠を始めました。コールドスリープ技術など存在していなかったのです。


 そして、この一ヶ月後、A国とB国との間で戦争が始まりました。政府はこの戦争が起きることを分かっていました。


 富豪たちに偽のコールドスリープを呼び掛けたのは、その誘いにのった富豪たちが眠っている間に、彼らの資産を軍資金に流用しようと目論んだからです。


 こうして、潤沢な軍資金を得て、B国を打ち砕き、そうして得た莫大な賠償金で、富豪たちが目覚める前に金を返してしまおうと計画しました。


 さらに、相手国の攻撃により、富豪たちが眠っている施設が攻撃されると困るため、政府は彼らを小型のロケットに収容し、宇宙へと飛ばしました。


 

 また、地球から離れすぎると、回収が難しくなるため、地球の周りを旋回するようにプログラムしておきました。

 


 しかしながら、A国の想定よりも、B国は遥かに強大な軍事力を有していたため、A国はB国に敗けてしまいました。


 そして、A国はB国に支配されました。国のリーダーは変わり、さらに政治体制も変化し、これまでとは異なる国家へと変貌しました。


 A国を治めていた、前政府の主要人物は全員、戦犯として処刑されてしまい、偽のコールドスリープ計画のことを知る者は誰もいなくなってしまいました。


 富豪たちのことは忘れ去られてしまったのです。


 

 現在も、彼らは地球の周りを旋回しており、時折UFOとして、ニュースやネット上で話題になっています。

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眠らない戦争 鯨飲 @yukidaruma8

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