“幼なじみ特別編”第二弾 不器用な男~旅情編③『記憶喪失の男』

まいど茂

第1話 優香の夢を見る真一~『白線流し』(特別編第二弾プロローグ)

2019年秋、不器用な男・堀川真一ほりかわしんいちは41歳になった。真一は5年前、4年間交際していた1つ歳上の太田みつきと結婚した。真一はみつきとSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で知り合い、福町のとなり町である萱野町かやのちょう出身の姉さん女房だ。

真一とみつきは、2019年の春に真一の実家を出て実家近くのアパートに引っ越して、夫婦で生活している。


11月、みつきの会社の同僚である梶山と3人で東京へ旅行に行った後、12月にみつきがご贔屓のアイドルグループのライブで販売されるグッズを買うのを口実に、真一夫婦が東京へ再び出かけた。その頃から中国・武漢ぶかん市で新型コロナウィルス感染症発症の報道がされ、仕事柄、真一が少し気にしていた。


年が明け2020年、正月も過ぎ、1月5日に京都競馬場へ真一、みつき、そして梶山が新春の中央競馬を飾る『京都金杯』を観戦した。同時開催の中山競馬場(千葉県船橋市)で行われる『中山金杯』の馬券も買って、真一はささやかな『お年玉』をもらって帰路に着いた。この頃から新型コロナウィルス感染症が日本にも入り、全国的に蔓延が始まろうとしていた。政府が『緊急事態宣言』を発表し、世の中は『stay home』と自粛モードとなり、真一の『彼女』でもある『旅』も行けなくなってしまった。


真一の休日は、マンションに篭るかスーパーへ買い物に行く程度。暇をもて余していれば、スマートフォン片手に動画アプリで動画を見たりしていた。


この頃から真一は不思議な体験をしている。夜寝ると毎晩夢を見ている。しかも、真一の高校時代の夢で、入学式の頃から時系列に、走馬灯のように見ていたのだった。


真一(なんやねん、毎晩毎晩けったいな夢見るなぁ…。オレ、このコロナ禍で何かあるんやろか…)


真一の幼稚園時代にとなりの席だった、幼なじみの加島優香かしまゆうかをはじめとする、高校時代の夢を見ていた真一。昨日までに、高校2年生が終わる頃、優香が森岡拓もりおかたくと交際する夢で、真一が夢の中で優香のクラスの女子生徒である山下香織やましたかおりの『人探し』する夢を見た真一。『夢の中でも人助けしている』とぼやいていた真一だった。ここ2週間程、『朝の連続ドラマ』のように毎晩続きの夢を見ている真一が、またこの日の夜も床につこうとしていた。


真一(ホンマにコロナ禍から不思議やわ。何でよりによって、この期に及んで高校時代の夢を毎日『朝ドラ』みたいに見るんやろ? 意識もしてへん(してない)のに…)



そして真一は、今宵も夢を見た。







(夢の中・回想)

放課後、下校しようと真一が高校の校門を出ると、優香がやって来た。


優香「ヤッホー」

真一「あれ、アイツ(彼氏の森岡)は?」

優香「帰った」

真一「あ、そう」


真一はいつものようにミルクティを自動販売機で2本買って、1本を優香に渡す。


真一「はい」

優香「ありがと」

真一「おう」

優香「なんか久々やなぁ、ミルクティ」

真一「そうかぁ?」

優香「うん。しんちゃんと帰ったらいつもや(笑)」

真一「まぁな…」

優香「ひっちゃん(優香の同じクラスの友人・加藤)も(真一の同じクラスの加藤の元彼の)福田くんと別れてから、ショックが大きかったけど、大分落ち着いてきたわ」

真一「そうか」

優香「大変やったね、間入って話して」

真一「加藤さんから声かけられたで、しゃあないわ」

優香「そうやな…」

真一「うん」

優香「しんちゃん、ありがとね」

真一「あぁ…」

優香「あ、くーちゃん(優香の同じクラスの友人・村田)から聞いたけど、最近物思いにフケてるって?」

真一「聞いたん?」

優香「うん。どうしたん? 就職活動終わったらすることないの?」

真一「細かいことはあっても、大まかなことはなぁ…」

優香「そっかぁ…。じゃあ、しんちゃん怒るけど、あえて言うけど、彼女でも作ったら?」

真一「はぁ? 何言うてんの?」

優香「することないんやろ? しんちゃんの最大の懸案事項やんか(笑)」

真一「懸案事項ではない」

優香「…私も森岡くんと付き合う前は興味なかったよ。でも、よーく見てたら…ってなったから…」

真一「どうぞ、ご自由に…」

優香「女の子と手つないだことある?」

真一「あるやん。幼稚園の時に優香ちゃんと」

優香「それはお遊戯の時でしょ。そうじゃなくて…」

真一「幼稚園の時の優香ちゃん以外ないんとちゃうか?」

優香「それはないやろ?」

真一「特に記憶ないわ」

優香「ホンマに、女っ気がないなぁ(笑)」

真一「ないなぁ…」

優香「ホンマにそれでいいの?」

真一「いいよ別に…」

優香「そう…」


優香は真一の女っ気のないことに心配していた。これ以上言うと真一はまた怒ると思い、何も言わなかった。優香はそんな真一に対して悲しい思いがしたのだった。


優香「なぁ、しんちゃん」

真一「うん?」

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」

真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」

優香「そっかぁ…」


優香の顔が少し困った顔をしていたのを真一は見た。真一は『白線流し』というドラマのことで、優香が自分に何か言いたいのか…と考えた瞬間だった。そう思うと優香の顔色が悲しそうな顔をしていた。






ここで真一は夢から覚めた。



真一(…なんやけったいな夢やわ、ホンマ。毎日毎日、優香ちゃんが出てくるのはなんでやねん?)


真一と優香は、優香が結婚前に幼稚園近くのファミレスで8年ぶりに再会して4時間も喋り続け、その後真一が新潟へ一人旅に出て、しばらく文通した後、優香が結婚したことを風の便りで聞いてから、音信不通となり、現在優香がどこにいるのかも全く知らない真一であった。真一もその後、現在の妻・みつきと知り合い、4年の交際を経て結婚し、まもなく6年が経過しようとしていた。


この日は土曜日。真一は仕事は休みだが、みつきは仕事。真一はふとんから出て、みつきの弁当を作る。

途中でみつきを起こして、朝食のトーストとインスタントのポタージュスープの用意をしておく。あとはみつきが自分で用意する。

朝食を終えたみつきは、会社の制服に着替え、仕事に出かける。


みつき「じゃあ、行ってきます」

真一「いってらっしゃい」


2人はキスをする。『いってらっしゃい』のキスは、結婚してから欠かしていない。20年程前の真一では考えられない光景だ。


みつきが仕事に出かけた後、真一も朝食をとる。朝食後はしばらく細かな作業をしてから買い物に行く。


真一「さて、買い物に行くか…」


真一はエコバッグを持って、車に乗り、スーパーへ出かけた。



真一の現在の仕事は、病院や老人保健施設への営業である。ある日、北町にある共栄病院へ営業に行ったときのこと。顔なじみの看護師と仕事の話の合間に雑談をしていた。すると、こんな話が出たのだった。


山田看護師(以降、山田)「コロナ禍で外出もままならないから、休日は自宅にこもってるの?」

真一「そうですね…。テレビもおもしろいもんやってないですし…(笑)」

山田「映画とかビデオとか見ないの?」

真一「なかなか見ないですね…。ちょうど休日に暇をもて余してるときがあるので、何かないかなぁ…と探してるんです」

山田「堀川さんは、昔のドラマとか見てましたか?」

真一「ドラマですか…。昔といってもどれくらい前ですか?」

山田「うーん、例えば20年くらい前とか…」

真一「20年前…。20歳くらいの時かぁ…。うーん、あんまりドラマ見てないですね…(苦笑)」

山田「じゃあ、高校の時とかは?」

真一「高校時代は間違いなく見てないですね(笑)」

山田「えー、そうなの? 堀川さんが高校時代って何年前になるの?」

真一「ええと…、23~4年前ってとこですかね…」

山田「23~4年前か…。高校時代にドラマ見てないのなら、『白線流し』も見てないってことやなぁ?」

真一「そうですね…」

山田「いま、コロナ禍で外出もあまりできないと思うから、この際昔のドラマとかDVDとか動画で見たらどうかなぁ…? それこそ『白線流し』とか…」

真一「『白線流し』…」


真一はふと、前に夢で見たことを思い出す。



(回想・夢の中)

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」





真一(なんや、偶然か…)


真一はそう思いながら、病院のエレベーターホールでエレベーターを待つ。すると、一人の女性が真一に声をかける。


佐藤「堀川くん」

真一「あ、まりちゃん」

佐藤「お疲れ」

真一「お疲れさまです」


声をかけたのは、佐藤まり、旧姓・吉岡まり。放射線科の看護助手である。まりは真一と小学校1年から4年生まで同じクラスだった同級生、つまり『幼なじみ』でもある。真一は優香以外にも『幼なじみ』と今でも面識があるのだ。といっても、優香のような『友達以上恋人未満』というところまでには至らない。まりは結婚して苗字が吉岡から佐藤に変わっていた。


佐藤「コロナ、怖いなぁ」

真一「そうやなぁ…」

佐藤「堀川くんの仕事もマスクとか『無い無い』って言うてるから、大変なんと違うの?」

真一「まぁ、そうやなぁ…。まぁなんとかならんかなぁ…。とにかく旅行とかイベント事とか出来んからなぁ、世の中的にはどうしてらいいんやろ…ってなるんと違うかなぁ…」

佐藤「ホンマやなぁ。私も子供を保育園に預けてるから、保育園自体もかなりシビアに対策とかしてるみたいやでなぁ…」

真一「そうやろなぁ…。日常の行動が制限されてるから、結局家に篭っててもテレビもおもしろいもんやってないし、暇をもて余すんやないやろか…」

佐藤「DVDとか見たら?」

真一「何かええもんないか? さっき上の階で山田さんともそんな話してたんや。何か『昔のドラマのDVDか動画でも見たら?』って…」

佐藤「昔のドラマ?」

真一「オレ、高校時代なんて特にドラマなんて全然見んかったから…。そしたら山田さんが『白線流し』でも見たら?…って言われたんや」

佐藤「『白線流し』見た見た。高校時代やったなぁ…。私らの青春時代を代表するドラマやわ。え、見たことないん?」

真一「ドラマ自体見とらんかったから…」

佐藤「今やったら、それこそDVDとか動画でないかなぁ…。結構面白かったで」

真一「そうなんや…」

佐藤「こんな時やし、この期に及んで、青春時代を取り戻したら?(笑)」

真一「そうやなぁ…」


真一は佐藤とエレベーターホールで別れ、真一はエレベーターに乗って、病院の事務所へ向かった。真一が心の中で呟く。


真一(なんや、まりちゃんも知ってるんか『白線流し』。有名なんや…。しかし、この前の優香ちゃんが夢の中で聞いたんはなんでなんや? 確かに昔、聞いてきてたよなぁ…。あの時、オレに何が言いたかったんやろ…?)




(回想・夢の中)

優香「なぁ、しんちゃん」

真一「うん?」

優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」

真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」

優香「そっかぁ…」






真一(夢にも出てきたけど、優香ちゃんの『何か言いたそうな顔』、ちょっと気になるなぁ…。というか、この夢見てから、にわかに『白線流し』の話が出てくるやないか…)



真一はそう思いながら、仕事に戻った。

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