“幼なじみ特別編”第二弾 不器用な男~旅情編③『記憶喪失の男』
まいど茂
第1話 優香の夢を見る真一~『白線流し』(特別編第二弾プロローグ)
2019年秋、不器用な男・
真一とみつきは、2019年の春に真一の実家を出て実家近くのアパートに引っ越して、夫婦で生活している。
11月、みつきの会社の同僚である梶山と3人で東京へ旅行に行った後、12月にみつきがご贔屓のアイドルグループのライブで販売されるグッズを買うのを口実に、真一夫婦が東京へ再び出かけた。その頃から中国・
年が明け2020年、正月も過ぎ、1月5日に京都競馬場へ真一、みつき、そして梶山が新春の中央競馬を飾る『京都金杯』を観戦した。同時開催の中山競馬場(千葉県船橋市)で行われる『中山金杯』の馬券も買って、真一はささやかな『お年玉』をもらって帰路に着いた。この頃から新型コロナウィルス感染症が日本にも入り、全国的に蔓延が始まろうとしていた。政府が『緊急事態宣言』を発表し、世の中は『stay home』と自粛モードとなり、真一の『彼女』でもある『旅』も行けなくなってしまった。
真一の休日は、マンションに篭るかスーパーへ買い物に行く程度。暇をもて余していれば、スマートフォン片手に動画アプリで動画を見たりしていた。
この頃から真一は不思議な体験をしている。夜寝ると毎晩夢を見ている。しかも、真一の高校時代の夢で、入学式の頃から時系列に、走馬灯のように見ていたのだった。
真一(なんやねん、毎晩毎晩けったいな夢見るなぁ…。オレ、このコロナ禍で何かあるんやろか…)
真一の幼稚園時代にとなりの席だった、幼なじみの
真一(ホンマにコロナ禍から不思議やわ。何でよりによって、この期に及んで高校時代の夢を毎日『朝ドラ』みたいに見るんやろ? 意識もしてへん(してない)のに…)
そして真一は、今宵も夢を見た。
(夢の中・回想)
放課後、下校しようと真一が高校の校門を出ると、優香がやって来た。
優香「ヤッホー」
真一「あれ、アイツ(彼氏の森岡)は?」
優香「帰った」
真一「あ、そう」
真一はいつものようにミルクティを自動販売機で2本買って、1本を優香に渡す。
真一「はい」
優香「ありがと」
真一「おう」
優香「なんか久々やなぁ、ミルクティ」
真一「そうかぁ?」
優香「うん。しんちゃんと帰ったらいつもや(笑)」
真一「まぁな…」
優香「ひっちゃん(優香の同じクラスの友人・加藤)も(真一の同じクラスの加藤の元彼の)福田くんと別れてから、ショックが大きかったけど、大分落ち着いてきたわ」
真一「そうか」
優香「大変やったね、間入って話して」
真一「加藤さんから声かけられたで、しゃあないわ」
優香「そうやな…」
真一「うん」
優香「しんちゃん、ありがとね」
真一「あぁ…」
優香「あ、くーちゃん(優香の同じクラスの友人・村田)から聞いたけど、最近物思いにフケてるって?」
真一「聞いたん?」
優香「うん。どうしたん? 就職活動終わったらすることないの?」
真一「細かいことはあっても、大まかなことはなぁ…」
優香「そっかぁ…。じゃあ、しんちゃん怒るけど、あえて言うけど、彼女でも作ったら?」
真一「はぁ? 何言うてんの?」
優香「することないんやろ? しんちゃんの最大の懸案事項やんか(笑)」
真一「懸案事項ではない」
優香「…私も森岡くんと付き合う前は興味なかったよ。でも、よーく見てたら…ってなったから…」
真一「どうぞ、ご自由に…」
優香「女の子と手つないだことある?」
真一「あるやん。幼稚園の時に優香ちゃんと」
優香「それはお遊戯の時でしょ。そうじゃなくて…」
真一「幼稚園の時の優香ちゃん以外ないんとちゃうか?」
優香「それはないやろ?」
真一「特に記憶ないわ」
優香「ホンマに、女っ気がないなぁ(笑)」
真一「ないなぁ…」
優香「ホンマにそれでいいの?」
真一「いいよ別に…」
優香「そう…」
優香は真一の女っ気のないことに心配していた。これ以上言うと真一はまた怒ると思い、何も言わなかった。優香はそんな真一に対して悲しい思いがしたのだった。
優香「なぁ、しんちゃん」
真一「うん?」
優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」
真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」
優香「そっかぁ…」
優香の顔が少し困った顔をしていたのを真一は見た。真一は『白線流し』というドラマのことで、優香が自分に何か言いたいのか…と考えた瞬間だった。そう思うと優香の顔色が悲しそうな顔をしていた。
ここで真一は夢から覚めた。
真一(…なんやけったいな夢やわ、ホンマ。毎日毎日、優香ちゃんが出てくるのはなんでやねん?)
真一と優香は、優香が結婚前に幼稚園近くのファミレスで8年ぶりに再会して4時間も喋り続け、その後真一が新潟へ一人旅に出て、しばらく文通した後、優香が結婚したことを風の便りで聞いてから、音信不通となり、現在優香がどこにいるのかも全く知らない真一であった。真一もその後、現在の妻・みつきと知り合い、4年の交際を経て結婚し、まもなく6年が経過しようとしていた。
この日は土曜日。真一は仕事は休みだが、みつきは仕事。真一はふとんから出て、みつきの弁当を作る。
途中でみつきを起こして、朝食のトーストとインスタントのポタージュスープの用意をしておく。あとはみつきが自分で用意する。
朝食を終えたみつきは、会社の制服に着替え、仕事に出かける。
みつき「じゃあ、行ってきます」
真一「いってらっしゃい」
2人はキスをする。『いってらっしゃい』のキスは、結婚してから欠かしていない。20年程前の真一では考えられない光景だ。
みつきが仕事に出かけた後、真一も朝食をとる。朝食後はしばらく細かな作業をしてから買い物に行く。
真一「さて、買い物に行くか…」
真一はエコバッグを持って、車に乗り、スーパーへ出かけた。
真一の現在の仕事は、病院や老人保健施設への営業である。ある日、北町にある共栄病院へ営業に行ったときのこと。顔なじみの看護師と仕事の話の合間に雑談をしていた。すると、こんな話が出たのだった。
山田看護師(以降、山田)「コロナ禍で外出もままならないから、休日は自宅にこもってるの?」
真一「そうですね…。テレビもおもしろいもんやってないですし…(笑)」
山田「映画とかビデオとか見ないの?」
真一「なかなか見ないですね…。ちょうど休日に暇をもて余してるときがあるので、何かないかなぁ…と探してるんです」
山田「堀川さんは、昔のドラマとか見てましたか?」
真一「ドラマですか…。昔といってもどれくらい前ですか?」
山田「うーん、例えば20年くらい前とか…」
真一「20年前…。20歳くらいの時かぁ…。うーん、あんまりドラマ見てないですね…(苦笑)」
山田「じゃあ、高校の時とかは?」
真一「高校時代は間違いなく見てないですね(笑)」
山田「えー、そうなの? 堀川さんが高校時代って何年前になるの?」
真一「ええと…、23~4年前ってとこですかね…」
山田「23~4年前か…。高校時代にドラマ見てないのなら、『白線流し』も見てないってことやなぁ?」
真一「そうですね…」
山田「いま、コロナ禍で外出もあまりできないと思うから、この際昔のドラマとかDVDとか動画で見たらどうかなぁ…? それこそ『白線流し』とか…」
真一「『白線流し』…」
真一はふと、前に夢で見たことを思い出す。
(回想・夢の中)
優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」
真一(なんや、偶然か…)
真一はそう思いながら、病院のエレベーターホールでエレベーターを待つ。すると、一人の女性が真一に声をかける。
佐藤「堀川くん」
真一「あ、まりちゃん」
佐藤「お疲れ」
真一「お疲れさまです」
声をかけたのは、佐藤まり、旧姓・吉岡まり。放射線科の看護助手である。まりは真一と小学校1年から4年生まで同じクラスだった同級生、つまり『幼なじみ』でもある。真一は優香以外にも『幼なじみ』と今でも面識があるのだ。といっても、優香のような『友達以上恋人未満』というところまでには至らない。まりは結婚して苗字が吉岡から佐藤に変わっていた。
佐藤「コロナ、怖いなぁ」
真一「そうやなぁ…」
佐藤「堀川くんの仕事もマスクとか『無い無い』って言うてるから、大変なんと違うの?」
真一「まぁ、そうやなぁ…。まぁなんとかならんかなぁ…。とにかく旅行とかイベント事とか出来んからなぁ、世の中的にはどうしてらいいんやろ…ってなるんと違うかなぁ…」
佐藤「ホンマやなぁ。私も子供を保育園に預けてるから、保育園自体もかなりシビアに対策とかしてるみたいやでなぁ…」
真一「そうやろなぁ…。日常の行動が制限されてるから、結局家に篭っててもテレビもおもしろいもんやってないし、暇をもて余すんやないやろか…」
佐藤「DVDとか見たら?」
真一「何かええもんないか? さっき上の階で山田さんともそんな話してたんや。何か『昔のドラマのDVDか動画でも見たら?』って…」
佐藤「昔のドラマ?」
真一「オレ、高校時代なんて特にドラマなんて全然見んかったから…。そしたら山田さんが『白線流し』でも見たら?…って言われたんや」
佐藤「『白線流し』見た見た。高校時代やったなぁ…。私らの青春時代を代表するドラマやわ。え、見たことないん?」
真一「ドラマ自体見とらんかったから…」
佐藤「今やったら、それこそDVDとか動画でないかなぁ…。結構面白かったで」
真一「そうなんや…」
佐藤「こんな時やし、この期に及んで、青春時代を取り戻したら?(笑)」
真一「そうやなぁ…」
真一は佐藤とエレベーターホールで別れ、真一はエレベーターに乗って、病院の事務所へ向かった。真一が心の中で呟く。
真一(なんや、まりちゃんも知ってるんか『白線流し』。有名なんや…。しかし、この前の優香ちゃんが夢の中で聞いたんはなんでなんや? 確かに昔、聞いてきてたよなぁ…。あの時、オレに何が言いたかったんやろ…?)
(回想・夢の中)
優香「なぁ、しんちゃん」
真一「うん?」
優香「『白線流し』っていうドラマ見たことある?」
真一「…いや。オレ、ドラマあんまり見ないからなぁ…」
優香「そっかぁ…」
真一(夢にも出てきたけど、優香ちゃんの『何か言いたそうな顔』、ちょっと気になるなぁ…。というか、この夢見てから、にわかに『白線流し』の話が出てくるやないか…)
真一はそう思いながら、仕事に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます