第3話シアン
頭痛が痛い。身体の節々が軋むような感覚が……。
眠りから覚醒すると、頭痛が痛いというありがちな間違いに気づく余裕もないくらい身体中の痛みに涙目だった。
「〜〜っ、痛え……」
「起きな。顔洗って飯食ってトイレ済ましたら今日も訓練するよ」
「昨日、頭打って気絶したっていうのに酷い……」
「つべこべ言わずにさっさと布団から出る!」
「は〜い」
この婆さんには何でも勝てないので、さっさと布団から出る。
食卓に向かうため、火魔法で適温に調節された心地よい部屋を後ろ髪を引かれつつも出ることにした。
俺はシアン。前の世界では西宮 悠河という名前だった。ロリ女神の不穏な発言を聞いた事が昨日のように感じるが、今日目が覚めたら前世の思い出したのだから仕方がないだろう。しかし、今世の記憶も健在なのでそれを現実が否定している。
閑話休題。
今日の朝ご飯は、白米、目玉焼きにハンバーグである。うん、めっちゃ美味い。
ここら辺で俺の今世での生活を話そうか。俺も小さい頃のことは詳しくは覚えていないが、婆さんーーもといハイエルフのアマンダ曰く、一歳の時に、親からアマンダの元に俺は引き渡されたらしい。決して孤児とかではない。
「どうだい?」
「めっちゃ美味いよっ」
俺の言葉を聞いて顔のシワを更に増やす婆さん。
ところでこの婆さん、巷じゃ【魔帝】なんて呼ばれてるらしく、魔法の達人らしい。御伽噺になるくらいの偉業を成し遂げたとかなんとか。
そんな婆さんの弟子の端くれだった母が、将来息子が苦労しないように、と俺をかの【魔帝】アマンダに懇願したらしい。「息子を鍛えてやってくれ」と。あまりのしつこさに折れたアマンダは、俺を預かり一歳から五歳の今まで鍛え続けたのである。
おかげで乳歯は折れるわ骨は砕けるわ肉は裂けるわの地獄の毎日だ。肉も切らせて骨も断ってるわ。
「あと十秒だよ」
俺が朝ご飯に手をつけてからここまで、なんと五十秒である。
「もうちょっとゆっくり食べたい」
「時間は有限なんだよ。ほら、喋ってる暇があったらさっさと食いな。残すと晩御飯抜きだからね!」
口に含み、咀嚼し、ごっくんする。
この三つの作業のみに全神経を集中させ、三つの工程の回転数を上げる。
残りのご飯を掻き込み、食事を無事終わらせた後、歯磨きをする。歯磨きの時間は十分にあり、余すところなく丁寧に磨き上げることができる。
洗面台には鏡が備え付けてあるのだが、そこに映る顔を見ると自然とため息が漏れる。それ程までに婆さんの訓練は鬼畜で地獄っ! なのだ。
歯がところどころ折れているため、歯磨きは少し早めに終わる。俺は本来歯磨きに充てられた時間もトイレに使う。
ここのトイレは洋式である。なんでも、婆さんがしゃがみ込むのが辛いということで、土魔法で作ったらしい。
そこに座り込み、先ほど腹に入れたものを含めすべて出すつもりで気張る。
「……ふんっ! ふぅ〜」
過酷な訓練だ。吐くことは多々あるが、固形物が胃にあるとしんどい。それに鬼畜な婆さんは吐いても休ませてくれないのだ。
ならばどうすればいいか……そうだ、出すもん出そう。
腹が減ったら飯を食うのと同じ自然な考えである。
ここまで、厳しい訓練のことを語ってきたがだがしかし、こんな生活を続けて良かったと思える点もある。
物心のつく前からハードな訓練を行っていたおかげで、足は前世より確実に速くなったし、体力もついた。なにより小さい頃から魔力をガス欠になるまで使わされたせいで現時点で化け物レベルの魔力量を誇っていて、魔法の適性にも恵まれているのだ。
……そのせいで魔法の訓練は日が暮れても終わらないのだが。
トイレを済ませた後は急いで森の中にある拓けた広場に向かう。
こうして俺の一日は始まる。
なんでこんなに長ったらしく語ったのかというと、単純に現実から逃避したかったんです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます