第4話 ③

 とうとう今日はゴールデンウィークの最終日。午前は各種コンテストがあり、昼食時に料理大会があり、午後からギルド対抗戦が予定されているわね。


「午前のイベントの一番人気はミスコンか~。キャラクター造形もだけど、優秀なデザイナーやお針子さんを抱えてるギルドからの出場者がやっぱり強いよねー」


 午後からのギルド対抗戦のための注文品を受け取りに来る人たちへの対応にお店に張り付きになっている私はミニウインドウでライブ配信されている各会場の様子を眺めていたの。


「あら、彼女ってもしかして籠は――んんっ、メルリルーアさん? へえ、ミスコンにエントリーしてたのね。着てる服やアクセサリーも可愛くまとまってるし、メイクも上手だし、上位入賞を狙えるんじゃないかしら」


 連休に入る前頃から時々学校でBSオンラインの話をするようになった同級生の籠原さんことメルリルーアさんはパステルカラーの淡い水色のワンピースに春らしい桜色のカーディガンを羽織っていて、キャラクターの可愛らしい造形と相まってすごくハマっている感じだわ。知り合いだからっていう贔屓目なしに私は彼女に1票入れるわ。


「店主はいるか? 発注していたものを取りに来たんだが」


 おっと。お客さんが来たからイベント見学はいったん中止ね。


「いらっしゃいませ。ダーレスさんですね。こちらがご注文いただいていた品になります。ご確認ください」


 そういって私は回復系茶葉10点セットを開示した。それをダーレスさん――スタイリッシュな黒騎士スタイルの人よ――が確認し、問題がなかったようで支払いをしてくれた。


「持続性の回復効果が得られるアイテムという注文で茶葉を勧められた時には正気を疑ったが、この効果なら納得だ。ギルドの料理番にさっそく作らせて主力メンバーに飲ませよう」


「ありがとうございます。老婆心ながら一つだけアドバイスを。茶葉は一つ当たり8回まで服用でき、効果は約10時間程持続します。ですので、今回の対抗戦のレギュレーションから考えてギルドメンバーの役割ごとに使い分けられることをお勧めします」


 一人で複数のお茶の効果を得るのもいいけど、単純に体力が毎秒5%回復するというものから状態異常耐性を上げてレジストするたびに体力が10%回復するもの、静止状態でいる間毎秒7%体力を回復するもの、アクティブスキルなどで消費するスタミナの回復速度を2倍にするもの等々、役割に応じて使い分ける方が良いものもあるからね。


「ふむ。生産者からの意見だ。この後の作戦会議で検討してみよう」


 そういうと、ダーレスさんは踵を返してお店を後にする。それと入れ替わるように、子どもくらいの大きさの妖精スタイルの女の子が入店してきたわ。


「いらっしゃいませ、ミュルリルさん。花蜜石の首飾りはご用意できていますよ」


「おー、さすがマリアちゃん! 対応が早くて最高だね! 品質はどうだった?」


「頑張らせていただきまして、最高品質に仕上げることができましたよ」


「ぅわーいっ!! やっぱりマリアちゃんに頼んで大正解だったよー!!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜びを表現するミュルリルさんは見ていてほっこりするわね。微笑ましいというか、本当にプレーヤーも子どもなんじゃないかしらって思っちゃうの。いやまあ、普通に考えてそれなりの年齢の人だろうなっていうのは理解しているんだけどね。


「あ、この飾り彫りみたいなのは微調整なの? 元のデザインより可愛いよ!!」


「はい。ユニーク認定は付きませんでしたが、微調整を行うとそうしたデザイン上の微細な変化が起きることがあるんです」


「ありがとねー! それじゃあ、はい! 入金したよ!」


 はいはい。入金を確認、と――あら? 37万グランなのに40万グラン入金されているわね。


「あ、余剰分は飾り彫りの追加分だと思って受け取って。キリのいい数字で私もスッキリだし! またアクセサリーが欲しくなったらお願いに来るからね~~」


 そういうと、返金を受けつけずターッと駆け足でお店から出て行ってしまったの。本当はこういうのはしないんだけど、次に依頼を受けた時に3万グラン分割り引いてあげることでチャラにしよう。


 そして、ついに私がエントリーしたアクセサリーのコンテストが始まったわ。他の人の作品を見ていると、やっぱりアクセサリーを専門にしてきた人は違うなって感じるの。


「同じ生産職だからわかる、素材の選び方から仕上げへのこだわりまで、私みたいな何でも屋にはない執念のような気迫が感じられるもの」


「それでもマリアちゃんのネックレスだって負けてないよ? もっと自信を持ちなって。じゃないと素材を提供した僕も立つ瀬がないよ」


 ゑ? 独り言に返答が返ってきて、慌てて顔を上げたらホッブさんが――いや、彼だけじゃなくフレンドのみんなが店内のテーブルに座っていたの。


「あ、え? いつの間に来ていたの?」


「おいおい、アクセサリーのコンテストはみんなでそろって見るってサラサが言い出してなし崩しに決まっただろ。会場で騒いで身ばれしたら困るからってここに集まるように言ったのはおまえだろ?」


「ちなみにコンテストが始まってすぐくらいに店に来たがおまえさんがあんまりにも無反応だったから勝手に入らせてもらったんだが」


「大丈夫です。いえ、素人の私などが言っても説得力はないかもしれませんが、マリアさんの首飾りには本当に感動しましたから」


 あーうー・・・恥ずかしいぃ・・・・・・。


「まあ、宝飾品ギルドを立ち上げたヴェルティッケのティアラとか最有力候補って言われてるし、優勝は確かに難しいかもしれないけど、上位入賞の5位以内なら十分狙えると思うな」


「本職じゃないのに上位入賞なら大金星だろ。それに、どうせ匿名なんだから気楽にエントリー作品を見ながら今後の作品の参考にでもすればいい」


 ホッブさんとアクセリオンさんの言葉はちょっと大人な意見に感じた。そういえばアクセリオンさんのリアルがどんななのか聞いてないな。他のみんなとは結構早い段階でリアルネタばらしをしたんだけど、アクセリオンさんにはなんだか聞きそびれちゃってるのよね。


『次の作品です。こちらも匿名参加の方の作品となります『煌紅玉のペンダント』です!』


 きた! 私の作品・・・・・・。本当に思いつきで、軽い気持ちでエントリーしただけの、ちょっとでも誰かがいいなって思ってもらえたらそれで十分なんて考えていた作品だったのに。いざこうして評価をされる場に出てくると緊張で胸がドキドキしてくる。


『ほう。この煌紅玉、素晴らしいな。このサイズでこのカット。大味にならず見事に宝石のポテンシャルを引き出しているじゃないか』


『このチェーンの細やかな装飾彫りを見て! こんなに丁寧で精緻な仕事、見事以外の言葉がないわ!』


『審査員職員、ならびに観客の方々。驚くなかれ、このペンダントにはなんと固有スキルが付いているのだ!! もちろんこのコンテストはアクセサリーの出来を競い合うものだが、ここがBSオンラインということを踏まえれば、その性能も品評の対象であると言えよう。事実、他のアクセサリーも体力増加や耐性強化といった効果を備えており、美しさや完成度とともに評価されているのだからね! そのなかで、この作品は今まで確認されなかった『固有スキル付きの装飾品』なのだ! これを評価しないなど、あっていいはずがないだろう!!』


 なんだか一番立派な格好をした審査員の人が固有スキルのことを熱弁し始めたんですけど・・・。


『もちろん、固有スキルという一要素だけで評価することもまた誤りだ。ゆえに、我々は公明正大な評価を下すことをここに改めて誓約しようじゃないか!』


「おおー。審査員長のお墨付きだよ。これはベスト3もあり得るんじゃない?」


「まさか。ぎりぎり5位にかすれたらいいなってくらいには期待してますけど、宝飾品ギルドの設立者さんとかそこのエースって言われている人だってエントリーしているし、生産職ギルドの宝飾品部門の主任さんだっているんだよ?」


 まあ、固有スキルで加点をもらってベスト10入りできたらいいなーって言えるくらいには気が楽になっているけどね。

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