第23話 ブルースの仕事

住宅街を抜け始めて大きな幹線道路に入ると、車を走らせていると段々と車も多くなってきた。


海から大きな皮を挟んで対岸に大都市らしい摩天楼が広がっているのが目に入り始めていた。


橋を渡って、都会に入るようだった。

車の数も多くどこか渋滞し始めている事に気がついた。


「あー....渋滞が...」


キリュウはそう呟くと後部座席に座るブルースは読んでいた本を閉じてこう言った。


「気にするな、これも見越して予定は立ててる。

な、ミレーヌ....」


その言葉を聞いてミレーヌの方を見ると、ミレーヌはどこか顔を真っ青にしてこう言った。


「ごめんなさい...これの考慮を忘れてたわーー」


いつも完璧そうなミレーヌだが、思わぬところで彼女の弱み的なものを見たキリュウは驚いたがブルースはこう言った。


「そうか...どのくらいかかりそうか?」


「そうね...10分は遅れそうだわ」


ミレーヌは物凄く申し訳なさそうな顔をしていたが、とうのブルースは怒るのかなと思いきや余裕そう冷静にこう言った。


「目的地までの最短ルートを出してくれ、あとはどうにかする」


「わ、分かったわ...」


ミレーヌはカバンから地図を取り出して、まじまじと見始めた。


冷静なブルースを見てキリュウは気になって聞いた。


「どうして、そんなに冷静でいられるんですか?」


ブルースはそれを聞いて、ミラー越しにキリュウを見てこう言った。


「アクシデントなんて常に起こるだろ、毎回狼狽えてたら疲れるから。その都度、冷静に考えてるだけだ。


多分、俺がキレたり狼狽えたりしたところで状況は改善しないのはわかってる。


だから、落ち着いて次を考えるだけなんだ」


「で、でも...俺だとちょっとイラッとしそうなんですけど」


キリュウがそう言うと、ブルースは笑ってこう言った。


「心に余裕を持てよ。ミレーヌもだぞ...昨日、ベッドの上で一緒に暴れてすぎたかな」


ミレーヌはそれを聞いて顔を真っ赤にして頬を膨らませた。


どうやら、

ブルースとミレーヌってのは恋人関係かそう言う関係なのかなとふと頭の中に浮かんだ....


「私情は仕事に持ち込みたくないのよ...

とりあえず、あったわよ。

橋を降りたら右折して、2ブロック先を曲がって...

ね、聞いてる?キリュウ君!?」


「あ、はい!橋を降りたら右折して2ブロック先で曲がりますね」


取り乱したミレーヌを見ると、どこか一番最初に出会った時の完璧感のある女性感が崩れてしまっていた。


これなら、きっと車の運転で大いにやらかしているんだろうとキリュウは納得する事ができた。


「もー...ブルースといるといつも、ペースが乱れてしまうわ...」


「いいじゃねーか。そのくらいが俺はいいと思うぜ」


「あなた、自分の仕事のスケジュールなんだからそんな他人のように考えないでよね」


ミレーヌはそう言うと、地図をカバンにしまってむすっとした顔をしてこう言った。


「大丈夫だ。ミレーヌ。2人とも初仕事みたいなもんだから、失敗は仕方がないさ....


茶化してすまなかった。

とりあえず、目的地まで頼む。今日は特別忙しいんだ....」


ブルースはそう言うと、ミレーヌははぁーとため息をついてスケジュール帳を取り出してこう言った。


「朝は市長との会談でそのまま、消防局長とのセッションの後に...

昼は帝国商会の駐在員とのランチをしながらの商談、その後は大学の学会発表で...

夜はロイヤル・ブライズホテルで帝国政府高官とのディナーなんでしょ...」


キリュウはそれを聞いて驚いて彼が一体何者なのかと気になった。


「キリュウには俺に仕事を教えてなかったな...

俺は、このニューアムステルダムでは名の知れた盟主でさ。

ニューアムステルの銀行、新聞社、不動産関連の会社オーナーを共同でしてたり...

自前では魔導工業の開発会社の経営をして、

その関連で古代の魔導や魔法と言ったことを使ってのいわゆる魔導考古学の研究もしてるんだ。

要は...なんだ、ただのリッチな人だな」


「すげー」


キリュウは思わず声を漏らしたが、初めて社長と言われるような人物に出会ったからだった。世界も違うんだろうなと言うのが感じられた...


「そうか、すげーと言われるのは嬉しいな。

朝の市長と消防局長に会うのは俺が目的じゃなくて、キリュウが目的だ」


「え!?なんでですか!?」


キリュウはそう驚いてまた声を出すと、ブルースはこう言った。


「キミは知らないだろうが、あの火事で人を何人も救っただろ?


この街では英雄なんだよ。

どんなに自信が無かろうが、そうなってしまったんだよ」


キリュウはそれを聞いて、ふとあの時、ハルカを助けて赤ん坊を助けるために火事の中に飛び込んだことを思い出した。


あれが本当に褒められていいのかと思ってしまうが...

ブルースのいう通り、そうなってしまったんだなと自分で納得することできた。


この世界ではどういう感じで讃えられるのかわからなかったが...

ふと、新聞がある事を思い出すときっとあれに乗るのかなとか想像してみてしまった....


いやいや、浮かれちゃダメだ。

でみ、緊張している自分もいる事にキリュウは気がつきながら車を走らせた。


気がつくと対岸へ到着しており、キリュウは右折して脇道に入った。


脇道は埠頭沿いに進んでいて

多くのタンカーから荷下ろししている風景が目に浮かび大勢の人が働いているのが目に入った。


「ニューアムステルは交易港としても有名なんだ。

リタリカ大陸の玄関口だしな。

本土...連合王国との貿易も盛だしな」


ブルースはそうどこかため息を出すように、風景の説明をしてくれた。


「そういえば...ニューアムステルって帝国と違うって認識なんですがどうなんですか?」


ブルースの言葉を聞いてふと疑問に思ったので、聞いてみることにした。


その説明は横に座るミレーヌがしてくれた。


「ニューアムステルは3年前に帝国に返還されたのよ。

それまでは100年ぐらいは連合王国のコロニーの一つだったのよ。


今、帝国と連合王国は対立してるのよ。

戦争とまではいってないけど、そうね言うなれば互いに刃物を向け合った状態で平和な感じになってるのよね。

これであってるわよねブルース?」


ミレーヌがそういうと、

ブルースがどこか得意げな感じの顔をして付け足してくれた。


「連合王国はニューアムステルを譲ることで、その危機を一時的に回避したんだ。

今この街はこの世界の渦の中心とでも言っておいた方がいいかもな。


街には帝国の息のかかった組織もいれば俺みたいに連合王国の派閥もいるってところさ

要は人質として帝国に渡った街なんだ...

でもただの人質じゃない。


このリタリカ地域の貿易の集積地でもあり、世界各地から色々な人や物が集まってるし、

世界経済や文化の発信地でもある。

世界の中心を担ってる大都市ってことさ」


そう言って、腕を組みこう言った。


「ここは俺の大切な街だ。色々なのが詰まってるーーーー


せっかく、この街に流れ着いたのだから、

キリュウは何かを見つけるか作るか手にするかするといい。


チャンスは詰まってる、生かすか殺すかは君次第だ」


ブルースの言葉を聞いてふと、

今後のことをふと思うことにした一

体何をしたらいいのか、

何を求めるべきなのだろうか....


ふと頭に浮かんだことがあった、

それは昨晩連れて帰ってきた青髪の彼女のことだったーーー


彼女が一体何なのかとか...

そして前に見た夢のこともふと思い出した。


キリュウは色々と考えてみたが、答えが出なかったので...

こう聞いてみた。


「何を掴みたいかもわかりません....そうすると何をすればいいんですか?」


ブルースはそう聞くと、ウィンクをしてこう言った。


「じゃあ、見つけることから始めることだな。一緒に探しにでも行こうか」


ブルースはそういうとどこか、楽そうな顔をしていた。


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