第5話 え?え?え?えっ?
キリュウはあっけに取られていた。
自分の身に何が起こったのか分からなかった。
一つわかったことは、無理だと思ってたのにサイボーグ男の攻撃からミレーヌを助けられた。
突然、
目の前のサイボーグ男の速度が急に遅くなったーーー
その言葉を理解するのに考える時間を使っている暇はないようだった。
サイボーグ男はまたハンマーを持ち上げてゆっくりと近づいて来ていた。
「今の感覚分かる?」
ミレーヌはそう聞いてきたので、キリュウは首を傾げたが...
どうもミレーヌはこの事情を理解していそうな素振りをしているように感じられた。
「どうなってるんだ?知ってるんですか?」
ミレーヌは首を振りそして立ち上がって、こう答えた。
「今は説明してる暇はないわ、とにかく、逃げるわよ」
ミレーヌはそう言ってキリュウの手を掴みまた走り出した。
キリュウは一旦目の前の状況を置いておいて、彼女についていくことを決めて走り出した。
サイボーグ男は自分たちを追ってゆっくりと歩いてくるのが目に入った。
ふと男と目が合い、彼の目にはどこか寂しさや悲しさといった人間らしい部分を感じられた。
「ニゲル...オワナイト...でも...いやだーー」
そんなサイボーグ男の機械的な声が聞こえたが、最後はどこか感情がこもっているような気がした。
「ウウウ、オオオォォ!!」
そうサイボーグ男の悲鳴が聞こえて、
キリュウとミレーヌは振り返ると両手で頭を押さえて膝をつくサイボーグ男の姿が目に入った。
苦痛を堪える表情をしながらも、視線はずっとキリュウに向けられていた。
「逃げろ!」
人間らしい男性の声が、
キリュウの耳に聞こえてきた。
声の主はあのサイボーグ男のようだった。
心の底から、何か感情がこもった懇願をしているように感じられた。
ミレーヌは気が付いていない、きっと逃げることに必死になっているからだろう。
キリュウが見たその感情がこもった人間らしいモノは一瞬にして消え去り、
サイボーグ男は巨体を揺らしながら逃げる二人をものすごい追いかけ始めた。
キリュウはその足の速さが、巨体にも関わらず自分達よりも早いことに気がついた。
キリュウはミレーヌの手を離して足を止めた。
「ミレーヌさん。だめだ!追いつかれる!先に行ってください」
キリュウはそういったが、ミレーヌはその言葉を聞いてクスリと鼻で笑った。
「私の任務は、あなたを連れ帰ることなのよ。男見せようって思ってカッコつけないでよ」
どことなく、その言葉は的を得ていてどことなく傷ついたが....
彼女の言う通りどこか美人の前でカッコつけようとした言葉だった。
迫り来るサイボーグ男に恐怖を覚えたが、
どこかそれに立ち迎える自信があった。
無謀なのかもしれないとは感じたが....
キリュウの中ではどう出るかをシミュレーションをしていた。
今目の前にいるサイボーグ男よりは小ぶりだが、大男がタックルを仕掛けてくる場面のは慣れていた。
サイボーグ男に突っ込んで行って、
キリュウはすっと姿勢を低くして相手の太腿目掛けて身体をクロスさせるようにぶつけた。
サイボーグ男はキリュウに躓くかたちで前のめり転がり、ガシャんと大きな金属音を響かせた。
ズキズキと膝が激突した脇腹に痛みが走っていたがそこまでと言ったところで動くのに支障はなかった。
「どんなもんだ」
キリュウはそうどこか誇らしげに倒れて動かなくなったサイボーグ男から距離をとった。
ミレーヌは銃を構えて様子を見ていたが、サイボーグ男が動かなくなったのを見てこう言った。
「シュナイダー中佐の人造人間はこのくらいじゃ、倒し切ったとはいえないわ。
キリュウくん。喜んでるところ悪いけど、逃げるわよ」
キリュウは聞き覚えなのない人の名前を聞いて困惑したが、
ミレーヌという人物がここが何で今どうなっているのかを知っている人物であると確信ができた。
ただただ着いて行っているだけではあったが、後できちんと聞いておこうと心に留めた。
さっきの周りが遅くなって感じたのもそうだし...
自分がどこか以前よりも頑丈というか丈夫になっているような気がした。
なぜなら、
以前、サイボーグ男をこかしたこのチョップブロックと言われれる方法は以前に大学生の巨漢を倒した経験があったが、その時は悶絶するような痛みがあって立つのもやっとだったからだ。
「え?痛くない...」
どこか疑問が多く残るが、その場をミレーヌに手を引かれて後にして行った。
そのサイボーグ男に見つかってからは、人気のない場所を通っていったおかげか誰にも見つからず出会うことはなかった。
映画のワンシーンのように建物の屋根を走っては降りて、止まっては物陰に隠れて足音を過ごしていった。
やけに自分自身が冷静だったことにも驚いたが、
そのおかげでここが一体どこかなのかを推測ができた。
それは、掛けていく警備をしているであろう黒いコートに身を包む兵士たちの断片的な会話を聞いていたからだ。そして、ミレーヌもここがどこなのかを大まかではあるが説明をしてれた。
ここはとある国の兵器研究所で、しかもそれはかなり極秘に扱われているところであるということだった。
でも、それ以上は何もミレーヌも話さなかったし、聞いても間が悪かったりが続いた。
大きな塀に空いてた隙間を抜けるとそこは、一台の黒色の古いクラシックカーと呼ばれそうなデザインの自動車が止まっていて、中には人がいないのも見て取れた。
ミレーヌがドレスのどこからか出してきたのかわからんかったが、キリュウに何かを投げてきた。
「あなたの腕を見せて欲しいわ。運転して」
「え?でも、俺……」
「つべこべ言ってる暇はないわ、道は私が指示するわ」
ミレーヌはそういって、運転席の扉を開けてキリュウを押し込んだ。
「ゲームでしか車なんて運転したことないんだけどな……」
そんなことを口にしたが、体が自然と動きキーの差込口に車のキーを差し込み、ブレーキとクラッチを踏み込んでエンジンをかけ始めた。
え?え?え?
なんて、さっきっから思っていることだったが、一番そう感じたのは自らでこの車を運転できると思える自身が沸いていたことだった。
「まずは上出来ね。このまま直進して、十字路が出たら右に回って。それまでに追手が来ないといいけど……
私はいろいろしてるけど、気にしないでいて」
ミレーヌはそう言って、後部座席から何か金属でできたトランクケースを取り出してそれを開いた。
何かは見て初めて見当がついたが、何かの通信機の塔で、アンテナのような棒を伸ばして、入っていたヘッドホンを片耳だけつけて、何かのスイッチをモールス信号のように連打していた。
もちろん音も、かすかながら電信音が聞こえてきた。
どこか映画のようだなとか思ったが、それを無視してキリュウは車を走らせた。
ふと音を聞いていると、意味をなしてなかった電信音が一体何を伝えているのかが、どこか理解できた。
ただ、最後の通信だけだった―――
ミレーヌはトランクケースと閉じてこういった。
「ミレーヌさん……ハタガアガッテって何なんですか?」
「さー何のことかしらね。とにかく、見る感じだと追手はきてなさそうね…」
ミレーヌはそう言って話をそらそうとしたが、キリュウはどうしても気になって聞こうとした瞬間。運転してる、脇に何か冷たいものを突き付けてこういった。
低いトーンんでこう囁くように言ってきた。
「あまりこういうことはしたくないのよ。必要なことは教えてあげるから、深くは聞かないでくれるかしら」
その当てられているものが、
さっきミレーヌが手に持っていた小型拳銃であるのはどことなく想像がついた。
一瞬恐怖感が沸いたが、このままでかなりのスピードが出ているので……
「いいんですか?もし、撃ったら事故りますよ……」
「それもそうね。でも心配しないでいいわ―――ちょっと脅しただけよ。
殺す気も傷つける気もないわ……あなたが知りたがってることをゆっくり話すわ。
ドライブは少し長いのよ。その間にね」
ミレーヌはそう言って、キリュウに当てた拳銃をダッシュボードにいれて大きく深呼吸をした。
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