第2話 暗い夜道を一人で
「ごめん。寝るから、声かけないで」
キリュウはそう言って、唯一誰にも会わなくて済む自室の中へ入り込んでいった。
兄のリュウの
「OK。なんかあったら呼んでくれよ。勤務明けだから、寝てるかもしれないけどさ…」
その言葉を聞くなり、布団の中へ入り込んでいった。
布団に投げつけたスマホのロック場面が写り込む。
そこには防火服を着てニコニコと笑みを浮かべる今はいない親父と小学生の頃の自分がいた。
親父は元々は兄のリュウと同じ消防士をしていたが、とある大企業からのヘッドハンティングを受けて転職しそこで事故に巻き込まれて亡くなったというのがあった。
『親父か...親父だったらなんて言うだろうなぁー』
親父はとても優しい人だった。
あまり怒ることもなく、いつもニコニコしていた。よく頭を撫でられて褒められたことが記憶に残っている....
そして、
兄は親父の消防士の仕事してる姿に憧れてた。兄のキラキラした目だけはいつもみていたから身に染みていた。
「兄貴、凄すぎるよ...俺なんてさ...」
『キリュウはキリュウ。自分自身らしく行くんだ。それが一番』
親父の死の言葉がふと頭の中から聞こえてきた。
「俺らしさって....なんだろう、俺は兄貴みたいに輝いてないし。誰よりもダメなんだ...」
そうキリュウは呟いて目を閉じた。
そこで一旦意識は途切れていたようだった。
きっと夢を見ているのだろうと言うところまではわかった。
でも、もしかするとこれは現実なのかなと思う風景が目の前にあった....
燃え盛る煉瓦造りの古いビルの中から、女性の声が聞こえる。なんて言っているかは分からなかったが助けを求めているのだけはわかった。
ゆっくりとそのビルの中に入る。
燃え盛る炎は暑く、触ると火傷だけでは済むような気がしなかった。
ぼんやりとした意識の中で声に向かって、歩みを続けた。
柱に下敷きなって何かを叫ぶ同じ年ぐらいの綺麗な青い色のボブヘアの少女がいた。
外に聞こえていたのは彼女の助けを求める声だと言うのが感じ取れた。
何も考えず体は勝手に動いてその柱をどかそうと動いていた。重さは感じられなかったが、自分自身が必死になっているのは感じ取れた。
少女が隙間から抜け出してアイコンタクトを取ってくれた。
その嬉しそうな顔はどこか心の奥に刻まれたようだった———
少女は屈託にないかわいい笑みを見せてくれていたのだ。
でもその瞬間、足場が崩れて二人は落ちていった。
驚きのあまり声をあげて目を覚ました、
でもそこは、さっきまで寝ていた自分の寝室で床が抜けて落っこちたわけではないことを確信してほっとした。
カーテンの隙間からは、夕日がさしていてだいぶ時間が経っていたことに気がつかされた。
ふと、
どこかに出かけたくなってこっそりと家を抜け出すことにした。
行く宛もなくただ何も考えないで、
電車に飛び乗ってみた。
行き着いた場所は、
繁華街に足を運んでいた。
そろそろ、補導されるような時間になっていることも知っていた。
繁華街には
時々行っていたゲーセンがあって、無意識のうちに足を運びただ久々にレーシングゲームをしていた事に気がついた。
「本当は実車の運転したいんだけどな...あーこんな時にこそどっか遠くに行きたいよ」
そう、声を出してゲームをプレイしていたが多分その声はゲーセンの店内を流れるBGMと人の声でかき消されていた。
所持金が無くなったところで、キリュウはゲーセンを後にした。
よくここで練習がない日は遊んでたな...
昔はワクワクしてたのになんかそんな気持ち起こることがなかった。
ゲーセンを出て人通りの少ない場所えと向かっていた。今は誰にも会いたくないという気持ちもあったからだ....
でも、どこかでそっと誰かに手を差し伸べて欲しい気持ちもあるようにキリュウは感じていた。
そして、歩くにつれて、ぽっかりと胸に穴が開いてしまった感覚が強くなり埋まらないでいたーーー
我慢できなくなり、近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばした。
「ちきしょう...どうしてだよ!」
そう叫んで...
ゴミ箱は転がってゴミを散乱させながら、地面に転がっていった。
するとその近くにいた人影にゴミ箱がコンと当たったようで思わず、何事もなかったかのように装い退散しようとするとドスの効いた声で呼び止められた。
当てられた相手は多分同じ年齢ぐらいの高校生で、がっしりとした体型に着崩したブレザー、髪も短髪だった。
彼は鋭い眼光をキリュウを睨みつけていた。
「てめー...こっちだって頭きてるんだよ」
不良はそう言って近づいてくるなり胸ぐらを掴んで、ビルの壁に押し付けた。
キリュウも咄嗟に手を出そうとしたが...
相手もそれを察してか壁に押さえつける力を強めてきた。
アメフトの試合でもこれほどの怪力と圧力を感じることはなかった。
「おめーのことはしらね。だけどよ....筋ってもんがあるだろうが!!」
不良の頭突きが飛んできてそのあと、顎に向かって肘打ちが飛んできたのだ。
もちろん、キリュウはそれを避けることも守ることもできずもろに受けてしまった。
「ステゴロのキリシマ....。そんなこと言われたって守れなかった俺の方が。しんみりしてぇんだよ」
そう不良の言葉が聞こえて、不良は胸ぐらを掴んだ手を離した。
そして、キリュウに構わず不良は立ち去っていった。
キリュウはただ何もできず、
その場に座り込んだ。口の中は切れて血の味が充満していたし頭突きと肘鉄を喰らった顔は触ると痛かった。
涙が溢れてきたのを感じられた。
痛みや悔しさや怖さから溢れ出てきているものではなかった。
「なんだよ...なんだよ...どうしてだよ....」
キリュウはどうしようもなかった、
心が苦しくて苦しく仕方がなかった。
ステゴロのキリシマってどこかで聞いたことあったのに気がついた。
記憶をたぐり寄せると...
噂ではあるが、
確か同い年で目の前で恋人と親友を惨殺され自分も犯人に襲われて重傷を負ったと。
もし彼がキリシマ本人なら、
自分よりももっと酷い思いをしているはずだとーーー
それに比べて....
キリュウ自身はそう思うと自分が惨めすぎて、嫌で仕方がなかった。
吐き出した唾には血が混じっていて、それを見たのと同時に痛みを感じるふと現実に戻され周りを見ることができた。
ゆっくりと立ち上がり、
涙を拭いて暗い街の中をキリュウは歩き始めた。
『キリュウくんはいつでも、前向きです』
そう、頭のに聞き覚えのない少女の声が聞こえてきた。
聞き覚えはなかったが、どこか心に響くものがった...
ふとキリュウは顔を上げて、その少女を探そうとした。
見つけたいと心から感じることができたかだったーー
でもそんな、
少女はキリュウが立っている閑散とした暗い夜道にはいないようだった。
なんとなく歩みを進めていると気がつけば...
家に戻っていた。
心配そうな顔をした母と兄が玄関先で何か声をかけてきたがその言葉は耳には届いていなかった。
「ごめん。俺が悪いんだ....こんな俺だからダメなんだ」
キリュウはそう言うなり、部屋に戻り閉じこもった。
自分よりも辛い思いをしてる奴がいるのに、
立ち直れない自分が嫌だった。
自分が嫌いで嫌いでーーー
『そんなことはない、キリュウくんはすごいです』
また、少女の声が聞こえてくる。
周りが真っ白な空間にいるのが気がつくと目の前にはメイド服を着たボブヘアーのあの夢で出てきた少女はにこやかな笑みを浮かべていた。
『だって、キリュウくんは私のヒーローなんですから』
「キミは誰?どうして俺のことを知ってるに?」
キリュウはそう聞いて、彼女に触れようと手を伸ばしたがその手は空を切り少女の姿は消えた。
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