第50話 領内視察【ミリア視点】

「えっと……本気ですか?」

「はい……いや私も半信半疑ですが、ミリアさんならできると兄さんが……」

「兄さん……ということはこれはユキア殿の指示でしたか」

「はい」


 私を領地に連れてきて早々にレイリック殿と飛び立たれたユキア殿。

 でも私のためにこんなことまで考えていてくれたのだとすれば……。


「応えないわけにはいかないでしょう」


 シャナルさんからの提案、それは……。


「では早速行きましょう!」


 ホブゴブリンやオークなど、ここにいる魔物の中で見込のあるものを、私がテイムして育てるというものだった。

 いや、育てるなんて生優しいものではない。進化を促す必要がある。


 ユキア殿はいとも簡単にゴブリン数千を一度にホブゴブリンにしているがそんなこと普通は不可能なのだ。

 一匹の魔物と生涯をかけて向き合って初めて起こる奇跡。それを私に、各部門ごとにやれと言う。


「これが……この領地で求められるハードル……」


 ユキア殿のいない領地生活で少しみんなから頼られていたから油断していた部分もある。

 これはもしかすると、ユキア殿から釘を刺すための置き土産かも知れなかった。


 ◇


「まずは領内の状況を整理しましょう。兄さんは何も言わずに出て行きましたが当たり前のように増えていた魔物たちも全てテイム済みです」


 改めて規格外の力だ、ユキア殿のテイムは。

 私をここに連れてきてからの滞在時間はほとんどないと言ってもいいレベル。

 当然ながら領内を回る時間などなかった。

 要するにほとんど片手間で、ユキア殿は領内の少なくとも数百以上はいた新規の魔物たちをテイムしていたのだ。


「あ、兄さんのことは気にしないで大丈夫ですよ。テイムは上書きして良いと言われていますし、ここの子たちは皆それを承知の上ですから」


 シャナルさんが私が悩んでいると思ったのかそうフォローしてくれる。


「ありがとうございます。ですが……壮観ですね」


 王都でゴブリンやオークといえば汚らわしい害獣でしかなかった。

 だがここにいるのはまるでそんな汚らわしさなど感じさせない。なんなら脂ぎった小汚い貴族よりも清潔感を感じさせる。

 その理由の一つはユキア殿のテイムによってもたらされた統率力。そしてもう一つは……。


「これは、シャナルさんのお母様の?」

「そうです! 母さんもいつの間にかこんなことを……」


 身なりがきれいなのは服装にも理由があった。

 ホブゴブリンは体格だけなら人間とかなり近いこともあり、清潔感のある服装に身を包めば思ったより見栄えが悪くないのだ。


 悔しがっているシャナルさんにすら遠く及ばない私に求められた仕事ができるかと不安になる。

 いや立ち止まっていても仕方がないんだ。

 まずは目の前の情報を整理していこう。

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