第42話 崩壊した王国④
「やはり愚王だな……この状況下においてまだユキアを下に見るか。もはやこの国は終わりだ。王家一族は全て処刑した上でユキアの支配下におかれても文句は言えぬ状況だぞ?」
ミリア様がキュッと目を瞑ったのが見えた。
「それではまるで敗戦国……この一件はユキア殿のクーデターという扱いで良いのか?」
レイリックに言葉を返したのは宰相、ハーベルだった。
「俺はこの子たちを連れて帰れるなら何でも良いさ。降伏の条件になるか同盟の条件になるかはそちら次第。中身は少し考えさせてもらうけどな」
そう言うと国王よりもハーベルよりも、ミリア様がこう口を開いた。
「レインフォース領地に足りぬであろう物資の支援と、交易ルートの整備。それから人質として私が貴国に世話になる、というのはいかがでしょう。支援が不十分であれば私の首を送り返してください」
「ミリアよ……勝手な行いは……」
「父上、状況をご理解ください」
毅然と国王に言い放つミリア様。
「悪くない話だな。支援の多寡によるがそのあたりの子細はそちらの出す条件を精査すればよかろう」
レイリックも満足げだ。
だが……ミリア様じゃあ人質の価値がな……。
宰相はもう半分顔がにやけていた。
「ではその条件で、陛下、いかがでしょう」
「うぅむ……」
渋る素振りを見せるが内心はミリア様を切ればそれで済むと思っている可能性すらある。
それほどまでに、王女ミリアの価値は低くなってしまっていたのだ。
ただテイマーである、その一点だけで。
だがここで王宮唯一のテイマーを喜んで差し出そうとしているあたり、もうこの国は沈む船だな……。
「もう一つ条件を加えよう」
俺から愚王とその宰相にとどめを刺そう。
「何かな? ユキア殿」
「物資の支援が途切れたりそちらが約束を違えた時に返すものは、ミリア様の首ではなく霊亀と魔獣たちの行進だ」
固まる王と宰相。
「……わかった」
ついに王がどうにもならぬことを理解したようだった。
◇
「軍務卿、どうみる?」
ユキアたちが引き上げていったあと、国王はシワの増えた顔でそう尋ねた。
「はっ……正直に申し上げてよろしいでしょうか」
「聞きたくはないが仕方あるまい……」
「戦力差が大きすぎます。我々はもはや北に大国を構えられたと考えるべきかと……」
「しかも、恨みを持った相手が、か……」
国王が頭を抱える。
「まして我々はこれから復興と同時に失った戦力の増強も図らねばなりませんが……」
「人が流れてゆくのはもはや、止められぬであろうな……」
レインフォース家との一件はもはや隠しようのないできごとだった。
国民が北に流れていくことは間違いないだろう。
周辺諸国への牽制カードであった魔獣を失い、それどころかその魔獣たちに手痛い仕打ちを加えられた王国はもはや、ドラゴンの巣に投げ込まれた肉の塊のような状況にある。
いずれかに庇護を求めなければ崩壊は目の前ということだ。
「ハーベル。周辺諸国との調整は任せる。どこと組むのが最も良いと思う?」
「……感情の部分を除くならば間違い無く、ユキア殿を頼るべきかと……」
「受けてくれるかの」
「それは……」
形式上、降伏宣言を出した上でユキアたちに対して同盟を結んだ王国。だがその立場はもはや風前の灯であった。
少なくともユキアを、そしてその背後にあるエルフを怒らせないだけの物資の送り込みは維持しながら、王国は生き残りの術を探る必要がある。
王国の未来はもはや、ユキアの掌の上で転がされているも同然だった。
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