第21話 精霊に愛されしもの
「森へあだなす存在は何人たりとも排除せねばならない」
「問答無用か……」
最悪の展開だ。
これならビッデルの暗殺者を相手にしたほうが幾分マシだった。
「シャナル、母さんを連れて逃げろ! この森を抜けろ!」
「兄さんは⁉」
「後で追いかけるさ」
出来もしない約束ではあるが、目の前の存在が場所を譲るだけで見逃してくれることを祈る。
だが……。
「我々が姿を見せた時点で、もう終わっているのだよ」
「なっ⁉」
シャナルを逃がそうと押し出したその先に、ありえない角度で大木が倒れ込んできたのだ。
「折った……んじゃあないな、曲げたのか」
「森はエルフとともにあるのだ。人間が、ましてや魔物たちに好き勝手させるわけにはいかん」
「待て。俺たちは別に森を荒らす意思は……」
「ふんっ!」
話を聞いてくれる様子もない。シャナルを逃してくれる気もない。
だったら……。
「兄さん……⁉」
「やるしかないだろ……」
使いたくはなかった技ではあるが、今俺にできることはこれしかない。
──召喚術
テイマーの派生技術として、あるいは上位技術として存在する召喚術。
これはあらゆる生物を手元に呼び寄せる秘術だ。
宮廷で世話をしていた竜たちは呼び寄せられる。そうすれば俺が手放していたテイムの恩恵も得られて、多少はマシな動きができるようにもなる。
まあそれでもなお勝てるビジョンが思い浮かばない相手ではあるんだが……。
どうしたものかと頭を悩ませていると、思いがけぬ援軍が現れた。
「王。これは敵じゃない」
精霊。
使者として少し話しただけの、名も知らぬ精霊が突然俺とエルフの間に立って俺を守るように手を広げたのだ。
守るにはあまりに小さなその身体で。
これでは犠牲が一つ増えるだけ、そう思ったが……。
「ほう……」
エルフが力を抜いたのがわかった。
「リーレンがかばうほどの存在か……?」
「この人間なら、ユグドルは変わる」
ユグドル……いくつか存在が噂されるエルフの里の中でも最大規模の……いや、知られている唯一の、エルフの国の名だ。
こんな森の近くにあったのか⁉
「人間……名は?」
「ユキアだ」
魔力という名の矛を収めたエルフが改まってこう言った。
「ユキアよ……非礼を詫びよう。私はエルフの国、ユグドルの王、レイリックだ」
「レイリック……か」
「このような状況で申し訳ないが……一度話をしたい」
こちらも聞きたいことはある。
それにこれは、場合によってはチャンスだった。
どう答えたものか悩んでいるとレイリックが頬をかきながらこんなことを言った。
「良い茶葉は持ってきたのだ。座る場所さえあれば……」
なるほど。冗談も言える相手か。
「とてももてなしができるような状況じゃないけど……それでも?」
そこまで言ったところでロビンさんがどこからともなく現れた。
「あちらに簡易ながら応接間をご用意しております」
「ほう。気配すら感じさせぬ執事か……優秀だな」
レイリックがロビンさんを褒めると後ろに控えていたエルフの一人がこう言う。
「若様は私ではご満足いただけませんか」
「からかわないでくれ。じいや以上の執事なんて大陸中探したって見つからないさ」
じいや、と呼ばれたエルフも服装が執事服なことと雰囲気が落ち着いていることを除けば普通に若い男にしか見えないことに違和感を覚える。
だがそのおかげか、レイリックの表情がまた一段と柔らかくなっていた。
正真正銘”じいや”であるロビンさんの先導でひとまず移動ということになった。
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