第4話元宮廷テイマーの力

「馬車……ですかい? しかもレンタルじゃあなく買い上げると……」

「無理か?」

「いえ……ですが……」


 出し渋る商人。

 こういうときは金を見せたほうが早いだろう……。


「これだけある」


 どん、と革袋がテーブルを響かせる。


「これは……! いえ、こんなにはいただけません!」

「好きなだけ持っていっていい。とにかく早く必要なんだ」

「あるにはあるのです! とびきり早いやつらです。お急ぎでしたらぴったりでしょう」


 だったら話は早い、と思ったが商人の話はここでは終わらない。


「ですが……問題がございまして……」

「問題?」

「ええ。二頭つないでおりますが、二頭とも人に全く心を許さないのです。操れる御者がいなければ馬車として成立いたしません……」

「なんだそんなことか」

「そんなこと……?」

「それなら大丈夫だ。言い値で買う。すぐに準備してくれ」


 元宮廷テイマーの腕の見せ所といったところだろう。

 商人は準備のために外に向かった。


「兄さんならたしかに、どんな暴れ馬でも一瞬で手なずけてしまうんでしょうね」

「まあ馬程度なら大丈夫だろう。魔獣でも連れてこない限り」

「何言ってるんですか……仮に魔獣でもいくらでもテイムしてしまう天才が……」


 天才、か。

 テイムの才能だけは歴代でも目をみはると、父に言われたのを思い出す。

 代替わりのときに苦もなく王宮の生き物たち全てをテイムしたときは驚いていた。もうすでにその時は病気でボロボロだったが。


「そういえば、代々短命なのって王宮での無理がたたったりしてたのかな……?」


 ふと思い返す。

 祖父も父も早死だった。その上の先祖様たちも、長生きしたという話は聞いていない。


「兄さんは関係ないと思いますけどね……雑用係に指示がやっとでテイムを維持するのに手一杯だった父さんとはまるで違いますし……」

「まあそうか」


 まあ何にせよ、そのあたりのことも考えておいても良いかもな。

 どのみちもうあんなでたらめな数を管理することはないだろうけど……。

 いやあるか……? むしろ未開拓地の整備に労働力として使い魔を動員するなら数は増えるかもしれないか……


「でも兄さんがどのくらいテイムできるのか、限界は見てみたくありますね」

「やめろ。殺す気か」

「人聞きが悪いですね……私はただ兄さんの力を見たいだけです。それに兄さんなら竜を百匹連れてきたって涼しい顔してテイムしますよ」

「まさか……」


 そんな話をしていると準備に出ていた商人が戻ってきた。


「旦那様、なんとか連れてきましたが……本当に良いので?」

「ああ、ありがとう」


 息を切らせながら商人が言う。

 商人のあとを追って俺も外に向かった。


「見ててくれ」


 二頭の馬はたしかに宮廷で見ていた軍馬よりふた周りほど大きく、気性も荒らそうだった。

 今もこちらを睨み殺さんとばかりに見下ろしてきている。


「やるか……」


 ゆっくり、正面からその二頭に近づいていく。


「あっ! 危ないですよ旦那様っ!」

「まあまあ、大丈夫ですから落ち着いてください」


 外行きモードのシャナルが俺には見せない柔らかい口調で商人をたしなめていた。

 そうしている間に俺は馬のすぐそばまで近づき……。


「【テイム】」

「「──っ⁉」」


 馬の目つきが変わる。

 そして……。


「クゥウウウウン」

「クゥォオオオオン」


 近くに来ていた俺に頭をこすりつけるように甘えてきていた。


「信じられない……私じゃあここに連れてくるだけで手一杯だったというのに……」

「まあ、兄さんですから」


 シャナルが久しぶりに見た柔らかい笑みで微笑んでいた。

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