第2話コストカット

「は……?」

「聞こえなかったかね? 君はクビだと言ったのだよ、ユキアくん」


 王城職場の玉座の間に呼び出された俺は確認のためにもう一度説明を求めた。


「えっと……良いんですか?」

「は?」


 今度は向こうが耳を疑ったようだ。


「宮廷テイマー……などと言えば聞こえは良いが、今の君は無駄飯喰らいそのものではないか」


 自慢のひげをいじりながら財務卿のビッテル侯爵がそう言う。


「全くだ」

「そもそも馬係でしかない雑用に名誉ある爵位などもったいない……」

「テイマーと言ってもただの飼育係ではないか。こんな高い給与払わずとも作業は滞りなく進んでいるという話だ」


 周囲の貴族たちが追従するようにそう言った。

 なるほど……エレインが言っていたのはこれか……。エレインの父親はビッテル財務卿に親しい貴族だったな……。


「ふむ……レインフォース卿は何か気になることでも?」

「陛下! わざわざこのような馬係など相手にされずとも……」

「恐れながら申し上げます」


 ビッテル卿の言葉を遮り進言する。


「私は代々受け継がれてきた使い魔たちのテイムを行っております。私が任を解かれれば、竜や魔獣は抑えが効かず飛び出すでしょうし、馬なども言うことを聞かなくなるかと」

「でたらめを言うな!」

「そうだ! そんな嘘でその地位に縋り付くなど恥ずかしくないのか!」


 たちまちビッテル卿派の貴族たちに糾弾される。

 周囲を見てもそれに逆らう気はない様子だ。


「ふぅむ……どう思う? ハーベル宰相」

「レインフォース卿の言が本当であれば、大変なことになりますな」


 ハーベル宰相が俺をかばうような発言をする。

 だがその言葉を聞いてもビッテル卿が慌てなかったところで、俺は全てを悟った。

 ビッテル卿はすでに宰相まで取り込んでいたわけだ。

 ハーベル宰相の言葉はこう続いた。


「ですが、ビッテル卿は財務を司るお方でございます。国家のために必要とあらば、支出先を切り崩すことも当然必要になられるかと」


 満足げにうなずくビッテル卿。

 周囲の貴族もなにも言わないのはこれか……。国のナンバーツー、実質の指導者となっているハーベル宰相には何も言えないのだ。

 普段なら真っ先に反対しそうな軍務卿カーターですらダンマリを決め込んでいる。


「では、レインフォース卿は本日付でその任を降りてもらおう。本来であれば国家への虚偽は罪に問われるべき内容だが証拠が揃うまで時間がかかろう。処刑ではなく国外への追放処分とする」


 俺のせいで家が……。

 だがもうどうすることもできなかった。ビッテル卿がここまで根回しをしている以上、俺がここでなにをしても意味はない。

 テイムの証拠を出そうにも、魔獣たちとの契約は先祖代々が引き継いできたものなので一体ずつを解除はできない。俺が国外に出て、その頃初めて変化の兆しが見えるようなものだろう。


「ご苦労だったな。まあ本当にテイマーとしての素養があると言うのなら他国でもどこでもいって存分に力を振るわれるが良い。本当に力があるのなら、なぁ」


 ニヤニヤと笑うビッテル卿が肩を叩きながらそんなことを言う。

 だがすでに俺の頭は家族をどうするかでいっぱいだったので相手にする余裕などなかった。

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