第10話 私はチェン家の実子として宮廷にあがる
「この半年間、お世話になりました」
私は深く頭を下げた。チェン家から宮廷にあがる日がきたのだ。
「これを持って行きなさい」
お母様がチェン家の家紋の入った礼服を渡してくださった。養女であれば着られないはずのものだった。皇帝の側室になるための手段としての養女は肩書きだけを名乗れるのであって、先祖から受け継いだ家紋は使用してはならないはずなのだ。
「スズラン、貴女はもう私達の実子と変わりません。皇帝にも宰相殿にも許可は頂きました。チェン大将軍の実の娘として宮廷にあがるのです。それと皇妃の牡丹には気を許してはいけません。絶対に!」
お母様がいつになく表情を歪めて強い口調でおっしゃった。握っていたハンカチに一筋の涙が落ちていた。
「ふむ。証拠もないゆえ、それ以上、言ってはならぬ。侍女の20人は腕の立つ者ばかりにしておいた。毒に精通している者や特殊な技能を身につけた者ばかりだ。スズランの身を守れるように。決して、以前のような事故は起こさせぬ!」
お母様は私の手を握りしめ、急に泣きだした。
「この子はもう我が子です。あんな魔物ばかりがいるところなどには行かせたくない!!また‥私の娘が殺されてしまう‥‥」
「スイレン。私達の娘は事故死だ。滅多なことを言うな!」
私はお父様とお母様のお話がよくわからなかった。以前のような事故とはなんなのだろう?
「お母様。よくお話がわかりませんけれど、お約束します。私、スズランは簡単に殺されるつもりはありません。もし、許されるなら、必ずまたお母様に会いに来ます、お兄様たちにも」
「うむ。私はいつも宮廷にいる。後宮にも様子を見に行けるから頻繁に顔をだそう。実家にも年に5回は帰れるはずだ。心配せずとも良い。チェン家の全てをもってスズランを守ろう!我が娘にできなかったことを‥‥」
お父様とお母様が、肩を抱き合って泣いていらっしゃる。お兄様たちは私を見つめて説明してくれた。
「僕たちの妹はね、ビャクレンといってね。皇后様が亡くなってすぐに後宮に牡丹より格上の皇妃としてあがったんだよ。だが、その三日後に古い井戸で亡くなっていたところを発見された。事故死とも他殺ともわからず、結局、罪のない侍女が5人処刑された。今では事故死扱いだ。侍女達が犯人だとしても指示した黒幕がいるはずだがね、証拠もなく捕まえることもできない。もう一人の皇妃の牡丹は母上の妹の子供さ。あいつは、昔から腹黒‥‥おっと、すみません、父上」
「証拠もない以上、滅多なことをいってはならぬ!私たちはビャクレンのことがあったから、スズランを決して不幸にはさせたくないんだ。またビャクレンのような悲しい死をみたくはないんだ。だからこそ、チェン家は全力でスズランを守るぞ!侍女達よ!いいか、このスズランになにかあったらお前達のクビだけではない!親類縁者すべての者が息絶えることになる!わかったな!己の命に代えても守れ!」
お父様は、さらりと恐ろしいことをおっしゃる。私は、ゾッとしたが大将軍とはこういう物言いをするのが普通なのかもしれない。ただの侍女ではない鍛えられた護衛侍女20人は一斉に私にひざまずくのだった。
「さぁ、スズラン様。出発でございますよ」
シンイー様が私の手を引いて、金銀で飾り立てられた豪奢な輿に乗せてくれた。
「「「「「すずらん皇妃様の出発だ!!皇妃様のお通りであるーー皇妃様のお通りであるーーー」」」」」
一番先頭の侍女達が声を張り上げた。そして、私が乗る輿はゆっくりと後宮に向かったのだった。
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