Ⅵ エスニック料理(1)
これまで長々と事の顛末を語ってきたが、三日前の晩から昨夜に至るまでに私の身に起こった出来事というのは、ざっとまあ、こんなところである。
そして、ヤツが現れてから四夜目――即ち今夜も、若きヴァンパイア・ハンター・クリストファー・ヴァン・ストーカーは、性懲りもなく私の前に現れたというわけだ。
しかも、ニンニクや香辛料をヴァンパイアが嫌うなどという迷信をまたもや信じて……。
「あのね。ストーカー君。話を聞くに、どうやら君は杭や聖水や十字架が私に効かなかったことを私の特異体質のせいだと考えているようだけど、そこのところが大きな間違いなの。もう、この前から何度も繰り返し言ってるけど、そうした物がヴァンパイアの弱点だということ自体、すべて迷信なのだよ。でもって、その君が今、全身に巻きつけているニンニクやら唐辛子やらも、ぜんぜん私の弱点でもなんでもないからね」
私は半ば諦めながらも、今夜も仕方なく彼の説得に取りかかる。
「ハン! 嘘を吐くな。その嫌そうな顔はやっぱりニンニクが苦手と見た! そうか。今度こそ弱点にヒットしたか!」
案の定、私の説得も虚しく、彼はまったく人の話を聞こうともしない。
私が嫌そうな顔をしているのはニンニクに対してではなく、彼自身に対してである!
「ハハハ、そんな痩せ我慢などせず、素直に悶え苦しみ、滅せられるがいい!」
だが、私の心情を汲み取る努力を微塵もする素振りはなく、この勘違いヴァンパイア・ハンターは首にかかる花輪状に連ねたニンニクの一つをひっ掴み、まるで鬼の首を取ったかのように私の方へと腕を突き出す。
「いや、痩せ我慢なんかしてないから……むしろ私はニンニクや香辛料のよく効いたエスニック料理好きだし……」
「フッ…そう言って俺を騙し、この場はなんとか逃れようという魂胆だな。だが、甘かったな。俺はそんな手に乗るほど単純な頭はしてないんでな。ハーハハハハハ!」
もう、何を言ってもこのバカには無駄である……致し方ない。百聞は一見に
「ハァ……わかった。じゃあ、私がニンニクぜんぜん平気なところを見せてあげるから一緒に来なさい。あまり招きたくもないが、君を今宵の晩餐会へ招待しよう」
私はそう告げると、彼の腕をグイと掴み、再び城内へ引き返そうとする。
「あ、こら、何をするんだ!ま、まさか、俺の血を吸う気か!?」
ストーカーは喧しく喚き立てて逃れようと抵抗するが、私はヴァンパイアの剛力に任せて、有無を言わさず彼を引っ張って行く。
「痛ててててて…おい、放せっ!これが目に入らないのか!?」
なおもストーカーは首にかけたニンニクと唐辛子の束を見せ付け、私の手を解こうともがくのだが、それがなんの役にもたたないのは言うまでもない。
「だから、ニンニクも香辛料も大好きだと言っておろうが」
聞き分けのない彼にいい加減頭にきた私は、そのニンニクと唐辛子の首飾りを奪い取り、これ見よがしに自分の首にかけて見せてやった。
「そ、そんな、バカな……ほ、本当に苦しくないのか……?」
それを見て、ストーカーはようやくその方法も私には効かないことを悟り、唖然とした顔で思わず抵抗を止める。
だから、さっきから効かないと言ってるだろう……。
と、ほんとにうんざりとした顔で私は心の中で呟くが、まあ、大人しくなってくれたので良しとしよう。
「あ、あああ…ちょ、ちょっと……」
彼に油断が生じたこの期を逃さず、私は黙々と、ストーカーを連れだって城の中へと歩みを進めた――。
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