05 ENDmarker.

「おはようございます」


「夢の中でおはようございます言う人、いる?」


「いやまあ、わたしにとっては夢の中のほうが、現実なので」


「漫画は?」


「描き終えた。この前のは渡してきたよ。仕事はもうないです。ゆっくり寝ていられますねえ」


「だめだよ。ちゃんと起きなきゃ。眠りから覚めなくなってしまう」


「それでいいとわたしは思ってるよ。そろそろ、普通に生きるのがつらくなってきた」


「なんで。漫画家として売れてるじゃん」


「私が描いているのは漫画じゃなくて絵だよ。夢で逢ったほんとのことを、描いてるだけ。わたしは落描きしてるだけ」


「いいじゃん」


「よくないよ。まっとうに漫画家を目指しているひとたちに、失礼かなって」


「じゃあ、漫画家やめたら?」


「それだと、夢で逢ったあなたたちのことを、描けなくなる」


「むずかしいね?」


「だからね。毎日が。つらくなってきたの。もういいかなって。起きて夢のことを忘れるのも、なんか微妙だし。やっぱり、わたしは。夢と幻想のなかにいたい」


「そっか。がんばったね。いままで」


 いみもなく。


 涙が流れる。


 夢の中でも、泣けるのだと、なんとなく思った。


「わたし。むかしから、夢の中のことを。みんなのことを。誰に喋っても、わかって、くれなくて。それで」


 自分で、描くしかなくて。


 でも。


 いくら描いても。


 夢と幻想のなかに。


 行けるわけではなかった。


「じゃあ、もう、休もっか。いままで、おつかれさま」


 夢と幻想に抱かれて。


 このまま。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る