第23話深夜の幻想

 チクタク、チクタク

時計の針の動く音が気になる

 チクタク、チクタク

もう夜中の2時だ

とある男、今日もなぜか眠れない

なのでもう寝ることはあきらめて

コーヒーを淹れて読書をする

 チクタク、チクタク

時間のたつのが遅く感じる。夜は長い

なぜか眠気はないので、読書がはかどる

その本は妖精が出てくるファンタジーだ

本の中で主人公は妖精に助けられて旅を続ける

男はとんだご都合主義だと笑い飛ばしながらも

読むことを止められない。きっとどこかで憧れているのだろう

現実では助けなどないので、せめて本の中だけでも願望を叶えたい

男は皮肉交じりに顔をゆがめながらも、本を読み進める

 チクタク、チクタク

トコトコトコトコ。なにかが男の目の前を通り過ぎた

男はふと本から目をそらすと、そのなにかを見つめた

それは十センチくらいの小人であった

トコトコトコトコ。小人は机の上をくるくる歩き回る

男は目をこすると、驚きながらも好奇心から声をかけた

「おい、お前は何者だ」

小人は男の目を見つめると歩くことを止めた

「あたいは妖精よ。綺麗でしょ?えらいでしょ?」

男は驚いた。しかし、驚きよりも好奇心が勝った

「お前、何しに来た?どこから来た?」

「私はその本の中から来たの。そしてあなたを助けるために来たの」

「俺を助ける?何から助けるのだ?」

「孤独から助けるのよ。孤独は死に至る病。甘くみると死ぬわよ」

「俺は孤独だが、不幸ではない。余計なお世話だ」

妖精はニヤッと笑うと時計の上にちょこんと腰掛けた

「あなたの不幸は、不幸に対して鈍感なところ。甘くみると死ぬわよ」

男は妖精を見て笑ってしまった。どうも憎めない

「わかった、わかった。ならば孤独を癒してくれ」

「わかればいいのよ。では、さっそく癒してあげる」

そう言うと妖精は、摩訶不思議な物語を話し出した

それは、とある王様や、魔法使い、魔物などが登場する摩訶不思議な世界である

妖精は楽しげに語った。男は頬杖をつきながらふんふんと相槌を打つ

しばらく妖精の話が続いたが、外から朝日が昇るのを感じた

鳥の声も聞こえだした

「今日はここまでにしましょう」

そう言うと妖精はバイバイと手を振って、本の中へと帰っていった

男は嬉しそうに手を振った。こんなに素直になれたのは、いつ以来だろうか

男は次の日も夜更かしをした

するとまた、妖精が現れた

「今日もお話してあげる」

そうして摩訶不思議な世界を語る摩訶不思議な妖精は毎日夜になると現れた

最初のうちは興奮して聞いていたが、だんだん慣れてきて

しまいには寝オチする感じになってきた。よく眠れる

とある夜、いつものように男が妖精の話を聞いていると

妖精が話を止めて男をまじまじと見た

「どうやら、私の役目は終わりね」

男は驚くと問いかけた

「なんで?」

「だって、あなた最近ぐっすりと眠れるようになったから

あなたの孤独感が不眠を招いていたの。だから私が眠れるようにしてあげた

あなたは安心感からもう一人で眠ることができるわ」

「そうだったのか。ありがとう。確かによく眠れる」

「そうでしょ。よかったわ。では、さようなら」

そう言うと妖精は手を振って本の中へと消えていった

男は止めようとしたが遅かった。妖精は本来の世界へと帰っていった

男は急にさみしくなった。しかし、妖精が安心感を残していってくれたので

心は落ち着いていた。孤独感はどこにもなかった

それからというもの、夜はぐっすりと眠り、日中は仕事に精を出した

なぜか人に対して素直になることができ、友人もできた

男は孤独から解放された。そして、妖精はと言うと

次なる孤独な者を見つけて、また物語を紡ぐ

摩訶不思議な物語は果てしなく続くのである

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